第23話 笑み絶えぬ青年の頁-2-

「やぁあ!!!」


「ちょっ――うぐっ」


道場にてサラとウルズの対戦を、バルトとアイリス、そしてサラの妹のレシカは、座ってのんびりと観戦していた。


「ウルズ選手〜?相手は素手っすよ〜?

武器持ちが何でパンチを顔面に食らってんすか〜?」


「お姉ちゃん強い…!」


バルトが茶化す横で、レシカは目を輝かせながら、姉の勇姿に見惚れていた。


「サラは格好いいか?レシカ?」


「うん!!」


アイリスの質問に花のような笑顔で答えるレシカを見ると、如何にこの姉妹の仲が良いのかなど、容易に想像がつく。


「ははっ!姉妹愛か〜いいなぁ」


「『愛』?」


「大好きってことさ」


「!うん!お姉ちゃんのこと大好きだよ!」


アイリスにとっては五歳、バルトにとって四歳年下のこの女の子は、幼い体で病気を抱えやすく、外出も余りしたがらないため、こうして此処に来ることも珍しかった。


まぁだからこそ、姉のイタズラっ子っぷりを知らずにいられるのだが…………


「レシカは何か武器を習いはしないのか?体を動かせば、体も多少丈夫になると思うぞ?」


剣の手入れを始めながら聞いてくるアイリスに、レシカは首を傾げながら答えた。


「…私?やらないよ……だって、人に怪我させたくないし…」


こういう優しさのある思考回路は、実は姉妹で似ていたりする。


親は子の鏡とか、子は親の鏡というが、妹も姉の鏡なのかもしれない。


「サラが今の聞いたら、また人目も気にせずレシカに抱きつくんじゃねぇの〜?『流石はレシカ!!もうほんとかわいいっ!!!』ってさ〜」


「ぷっ…全くだ…ふふっ」


裏声を使ってサラを真似るバルトとそれを笑うアイリスを一体何の事か解らないと言った様子でレシカは見ていた。


自分を挟んで座っている二人をつぶらな瞳で首をかしげながら交互に見る姿は、恐らくサラが見れば悶絶するようなものに違いない。


そしてそうこうしているうちに、試合終了の鐘が鳴らされた。


「ま………参った………」


完全燃焼、燃え尽きましたと言うように、ウルズはダガーをしまうのも忘れてその場に倒れこんだ。


結果はいつも通り、ウルズの惨敗で終わったようだ。


「ええぇ…流石にオーバーリアクションじゃない?」


まだまだいけると言った体でそんな発言をするサラに、拍手を送るレシカを除いた全員が苦笑した。


――そりゃあそうだろ…お前の体力は文字通りの底無しなんだから………


バルトはそう思いながら、さっと立ち上がって自分の大剣を取った。


「よっし、次は俺たちだぜ〜アイリス〜」


「ふんっ!今日こそは倒してやるから覚悟しろよ!」


威勢良く飛び出したアイリスが、実はこの時期から既に才覚を見せだしたバルトに大惨敗したのは言うまでもない。


✽✽✽


「あ〜あ…けーーーーっきょくお前たちにはいつまでも勝てないままかぁ……」


しょげりきったアイリスに、『お前ら』に含まれているサラが、アイリスの落としている肩に手を置いた。


「まぁまぁ!私なんて反則使ってるようなもんだしさ!元気出しなって〜!」


「フォローなんだろうが、それ、余り説得力が無いぞ……」


「え〜〜〜!」


「俺よりは良いじゃねぇかよ〜…う〜…」


「おいおいわんこ〜?唸ってばかりじゃなくって、噛み付きの一つくらいして相手に悲鳴を上げさせてみろよ〜?」


「だからわんこじゃねぇえええええ!!!」


ウルズは大口ばかり叩いて惨敗ばかりするので、いつの間にか『噛ませ犬のウルズ』という異名がついてしまっていた。


バルトはそれを面白がって『わんこ』などと呼ぶが、ウルズとしては不名誉この上ない呼び名だった。


「私、わんちゃん好きだよ??」


「…うん、ありがとう、レシカ」


レシカは恐らく、本当のわんこのことを言ったんだろう。


相変わらずというか、なごむ返事をしてくる子だとウルズは思った。


「あ、ねぇそういえば!明日の建国祝祭!皆で屋台を回らない?」


「お!いいなそれ!」


「お姉ちゃん、私も行きたい…!」


「うん!レシカも行こ!」


「あ……すまない…私…は行けない…」


皆が盛り上がってる中、一人の申し訳無さそうな声が皆の雰囲気を掻き消した。


「そっかぁ…アイリス行けないのかぁ…」


「す、すまない、本当に…私も行ければ行きたかったんだが………」


「しゃあねぇって〜!今度別の機会で挽回しようぜ!」


バルトはそう言って軽くアイリスの背を叩いたが、実はこういう事は初めてでは無い。


アイリスは何かと、特に大きな祭りの時は、皆と一緒にいることができなかった。


本人曰く、そういう祭り事のあるときは、決まって家族といなきゃいけないと決まっているらしい。


何とも不思議な家だと皆が思っていた。


「んじゃあ……明日はアイリスの分も楽しんでくるね!」


努めて明るくサラが言うと、アイリスも笑って「楽しんでこい」とだけ言った。



お祭りで皆が、自分たちの分と一緒にアイリスの分の綿飴やらおもちゃを買ったことをアイリスが知るのは、お祭りの次の日のこと。


お祭りで買ったかき氷は溶けてしまっていたが、それでもアイリスは嬉しそうにメロン味の水を飲んでいた。

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