第6話 初めての地の頁
想像以上にサラッとテオの仲間入りが確定し、計画していた決闘も必要がなくなったため、テオ、バルト、リルの三人は、テオに紹介がてら、チームの集会所と、集会所に向かう道で通る街を見ることとなった。
闇と言えるほどの暗い森の裏道を抜け、何やら石壁のような物にできた大きめの穴を
「こ、ここは…?」
「保護都市・レアシスさ!」
街の名を聞くと、テオは目を見開いた。
「レアシスの中ってこんな風になってるんだ…」
白い
「一般人は普通入れねぇしな〜。物珍しいのも解らなくはねぇな」
「え?!そうなんですか?!普通に入れると思ってました…」
「あー、お前にゃ言ってなかったしな。知らなくて当然か〜」
〈
特定の民というのは、戦時中にアナスタチアから命からがら逃げ出してきた者や、捕虜として捉えられたアナスタチア兵だ。
彼らは国からある程度の事情聴取を受けた後、危険という判断をされなければ、このレアシスに送られ、普段の生活と何ら変わらない日常を過ごせる。
ただ、スラスタの他の街と明らかにに違うのは、この街だけ、粗末だが囲いがあるということだ。
そして、普通のスラスタの国民はこのレアシスに入ることはできない。
一応、戦争中であることを考慮した結果だろう。
自分達は入って大丈夫なのかとテオが聞くと、バルトは「俺の仲間の特権で許される」と答えた。
一体何者なのだとテオは聞きたかったが、敢えて聞かないことにした。
「にしても……」
暫くテオは街を見渡していたが、やがて不意に嘆息した。
「やっぱり初代元帥って凄い人だったんだ…」
「ん?初代元帥?」
笑顔でありながらも訝しげな目で見てくるバルトに、テオは目を輝かせて続けた。
「うん!このレアシスは初代元帥が提案したんでしょ?やっぱり凄かったんだ!この町を見れば解る」
確かに、アナスタチアでこのような光景を見ることはないだろう。
人々は生き生きとし、本当に戦時中かと思うほどだ。
アナスタチアなら捕虜というのは暗い牢獄やらに閉じ込められ、強制労働を強いられたり人体実験の被験者として使われることが殆どだが、この国ではそのような事は法で禁じられている。
「はぁ…初代の元帥がいれば、こんな戦争すぐ終わってただろうに…」
「ははっ!お前初代元帥にベタボレだな〜?だが、あいつはそこまで褒められたようなやつじゃねぇぜ?」
「え?」
後半から声のトーンを変えたバルトの方を見ると、パッと見ると笑っていたが、纏う空気は笑っていなかった。
「どんな理由でも、どんな戦場でも、背を向けるのは俺は情けないと思うねぇ」
「でもそれは、何か理由があったんじゃ…」
「それでも何も言わずに軍を抜けちまったんだから、軽く裏切り行為に近いくらいさ。よくまぁ、お尋ね者手配書が出されてないと思うよ」
テオとリルは何も言えないまま、異様な雰囲気を出し始めたバルトのことを呆然と見つめた。
バルトはそんな二人の様子に苦笑しながら、
「ま、これはあくまで俺の意見さ」
と話を曖昧にしてしまった。
そこからは武器屋に食堂、装備屋など、街中の店を回りつくし、先程の会話の微妙な空気も、次第に薄れていった。
✽✽✽
「で、ここが基本的な本拠地というか、まぁ集会所?的な感じのとこさ!」
「でかっ…?!」
街見物が終わり、その街の外れ辺りに進んでいくと、古めかしい洋館があった。
古めかしいとはいえ、外見はきちんと整えられている。
真っ白な壁には規則正しく窓が並んでいて、上品な色合いの濃紺の屋根に、どこか威厳を感じる。
何よりも、ニメートルはあるんじゃないかと思う両開き扉がこじんまりして見えるほど、家自体がとてつもなく大きい。
「あぁ、因みにこの家はリルの家の別邸だから、後はリルに聞いてくれ〜」
「…えぇえ?!!!!」
テオが目を丸くしてリルを見ると、リルは えへへ… と頬を掻きながらはにかんでみせた。
✽✽✽
中に入ると、この屋敷の広さを更に実感できた。
まず玄関の前には大きな空間があり、そこから正面真っ直ぐに食堂がある。よくここで会議をしているらしい。
その隣にあるのがキッチンの扉で、キッチンは食堂と中で繋がってもいる。
その他にも一階には日常生活を送るための全ての部屋が集約されていて、それは中庭に繋がるドアまで存在した。
また、階段が屋敷の両側に設置されていて、いくつか部屋が設置されている。
全体的に白い壁とフローリングというシンプルな作りであるのに、厳かなシャンデリアが不思議とよく似合っていた。
「右手側の階段を登ると二つ部屋がありますので、手前側の部屋はテオさんが使ってください。そのお隣がバルトさんのお部屋です。それから……」
「ま、待って待って待って!」
もはやごちゃごちゃしてて説明など耳に入っていなかったが、部屋を使えと言われた瞬間、テオは水を被せられたような顔をした。
「へ、部屋?!泊まることになるの?!」
だとしたら居候先のおじさんに言わなくては――と、テオは続けかけた。
「あ、いえいえ!必要に応じて使い分けて頂いて大丈夫ですよ!」
「え、で、でも…」
「ここで暮らしているのは、基本的に私とレシカさんだけなので!
バルトさんも余程のことがない限り、泊まっていかれることはないですし」
「あ、そうなんだ………」
ホッとした様子を見せたテオを確認し、リルは説明を再開した。
✽✽✽
――これは中庭と言っていいのかな…?
リルの長々とした説明が終わり、気になっていた中庭を見て、テオは半ば絶句した。
小さなグラウンドと言ったほうが正しいのではないだろうか?
屋敷の半分はあるのではないだろうか?
床がタイル張りではなく、芝生というのもどこか不思議だった。
しかしその芝生以外でここにあるものと言ったら、少し奥の方にあるベンチくらいだ。
あとは花もなければ何もないといった感じで、その『何もなさ』が、かえってその広さを強調していた。
「中庭はよく皆さんが練習場として使ってますよ!」言うリルの言葉を思い出す。
そんなの中庭でする事かと思っていたが、広さといい何といい、認識が甘かったとテオは痛感した。
「…邪魔」
「うわぁああああ?!!!」
気付くと真後ろにいたレシカの声に、テオは見事に不意打ちを食らった。
「煩いんだけど…耳障り」
「ご、ごめん…」
容赦無く浴びせられる非難の声に首を
そこで不意に立ち止まると、背を向けたまま再びテオに話しかけた。
「………ねぇ、ちょっと相手しなさいよ」
「………え?」
一瞬、テオの頭はその言葉を理解できなかった。
「まさかだけど、女にも勝てないの?」
挑発的な言葉を無表情に投げてくるレシカは、拒否権は無いとばかりに振り返ると同時に双剣を抜いた。
レシカの実力は、あのモンスターの時に見ている。
テオの背中に冷たい汗が伝っていった。
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