第8話街の異変
「ぎー、がしゃん」「ぎー、がしゃん」「ぎー、がしゃん」「ぎー、がしゃん」
街中の老若男女が、ロボットダンスを踊っているような光景。
逆にいえば、踊っていない僕が異質とも言えるようだが、こっちが正常である事を見失わないようにしておきたい。
だがあまりの人の多さに、みぞれちゃんの姿を見失ってしまった。
このロボット人間の流れの中に居る事は確かだが、数が多すぎるのと手をギコギコと動かす動きが非常に邪魔で、探す事がより困難になっている。
「おーい。大和くん」
その最中、とある声に呼び止められた。
ロボット人間で溢れかえる街中に只一人、キラキラとした王子様スマイルを振りまくオロチがこちらに向かって手を振っていた。
それを華麗にスルーする。
「ちょっ、無視するの!?」
「悪いが、今はお前の相手をしている場合じゃないんだ」
話している最中もみぞれちゃんの姿を探すが、やはりロボット人間の数が多くて幾ら探そうとも、その姿は発見できない。
と、いうか、こいつらは一体なんなんだ?
「キミの知り合いがRSにでもなったのかい?」
オロチの発言に、僕は歩を止めた。
「RSだと? お前、この件を知っているのか?」
僕の質問に対し、オロチは肩を竦めて見せた。
「ロボットスレイブ、略称でRSとオレ達は呼んでいる」
「オレ達……だと?」
「──そう、オレ達だ。蛇神オロチは【ZOO】という組織の人間なんだが、大和くんは知っているかい?」
「いや。全然」
僕のあっさりとした返答に、オロチは軽くズッコケてみせる。
「一応、能力者協会組織の中でも、名の知れた秘密工作部隊の名前なんだけど」
「悪い。全然知らない」
と、いうかうちの死神は、他の能力者との交流をしないものだから、僕はラムネさん、みぞれちゃんくらいしか協会組織に属する人間を知らないのだ。
「……って事は、お前も能力者なのか」
「随分と遅いリアクション、ありがとう」
オロチはやや引きつった笑みを浮かべて、そう言った。
「その【ZOO】の人間が、どうしてこんな所に?」
「それに関しては、今も任務中だから、情報を教えるわけにはいかないんだけどね、オレ達は今ドクターギアを追っている最中なんだ」
「情報を教えられないんじゃなかったのか?」
「ちゃんと吟味はしているよ」
僕のツッコミに対し、オロチは困ったように眉根を潜めながらも、肩を竦めて見せた。
「──で、そんな秘密組織の【ZOO】が僕に何の用だ?」
「このRSの要因は、恐らくドクターギアが絡んでいる」
「この現象もか?」
「今仲間の一人が、その発信源を探っている最中なんだが、キミに助力を願えないかなと思ってね」
「断る」
僕は即答で答える。
「考える時間さえ、なかったね」
「僕は外に出ていったみぞれちゃんを探しているんだ。そんな訳のわからない事件に足を突っ込んでいる暇はない」
「RSになった仲間を探すのなら、こっちの仕事を手伝ったほうがいいよ。発信源を破壊すれば、全てのRSは動きを止めるはずだから……」
「本当か……?」
僕は訝しげな目でオロチを見やる。
確かにこの大勢のRSがいる中で、みぞれちゃんを探す事は困難である。
先にRS状態が解除出来るのなら、そこから捜索した方が早いはずだ。
「分かった。協力しよう」
まだ完全に信頼したわけではないが、このままでは埒があかないのも確かであり、僕は仕方なくオロチに協力する事にした。
「──で、僕はどうすればいいんだ?」
「ちょっと待ってくれ。今仲間が場所を探してくれているんだ」
オロチがそう言い終えるよりも前に、爆音を響かせたバイクがカーブをターンしながら入ってきた。巻き込まれる形でRSが数人路上に吹っ飛ばされたが、大丈夫なのだろうか。
「な、なんだ?」
謎のバイクの来襲に僕は警戒するのだが、オロチはいつもの飄々とした笑顔を蓄えたままであり、バイクが脇に停車すると手を振ってみせる。
「状況は?」
「報告。対象の捕獲は未だに出来ず……。ここから北西にある『城跡公園』にRSが大量に集まりつつあるようです」
真っ黒なフルフェイスを被ったライダーがバイザーを持ち上げながら、オロチにそう報告している。その格好はレザー製のライダースーツに無骨なモトクロスブーツを着込んでいる。
あの人も【ZOO】の仲間なのだろうか。
「ご苦労さん。じゃ、行こうか。大和くん」
ライダーから鍵を受け取ったオロチはメットボックスを開けると、赤いヘルメットを取り出して頭にかぶった。
額の部分には何故か『C』と白文字が書かれている。
「え、なにそのヘルメット?」
「カープのファンなんでね。自作してみたんだ」
得意げな笑みを浮かべてヘルメットを指先でこんこんと叩いて示しているが、ぶっちゃけ凄い違和感を感じさせる組み合わせである。
いや、カブスのファンだといっても同じかもしれないが。
「さぁ、大和くん。後ろに乗って」
確かにそのバイクは二人乗りできる大きさのようだが。
「僕はメット持ってないぞ」
「チャム。貸してやってくれ」
オロチの言葉に従うように、ライダーはヘルメットを脱いだ。
長いブロンドの髪がふわりと舞う。
「使ってください」
白磁のように白い肌。青い瞳。ライダーの正体は美人のお姉さんだった。
ただ、気になる部分がある。
その頭の上に猫のような耳が生えている気がするのだが。
あれは今流行りの猫耳カチューシャか何かだろうか。
「時間がない。準備はいいかい?」
先にバイクに跨りエンジンを噴かせたオロチがそう告げる。
お姉さんにその事実を尋ねる暇はなさそうだ。
「すみません。お借りします」
僕は一礼をすると、お姉さんのヘルメットを被り、オロチの後ろに跨った。
「さぁ行こうか。ハイヨー、シルバー!」
そう叫びながらオロチはバイクを発進させた。
こうして僕は、またも面倒な事件の中に身を突っ込んでいくのだ。
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