超人アルジャーノン誕生!
-光文60年6月-
深夜の神戸の街中にそびえる、
「待て、鉄血党! これ以上は行かせないぞ」
鉄血党と呼ばれた三人はそう言われると、それぞれの得物を仮面の人物に向けて撃った。だが、仮面の人物には通用しない! 仮面の人物は腰に
「インセクトライフル、トリモチ弾!」
三発の弾丸が発射され、それぞれが膨らみ鉄血党の三人を包み込む。三人は身動き出来なくなってしまった。
翌日、新聞やテレビでこの事件の顛末が報道された。
「ネオインセクトマスク、旭日新聞社関西支局襲撃犯を
だが、鉄血党と呼ばれる集団については、ほとんど何も触れられなかった。また、ネオインセクトマスクに対する論調もどこか冷ややかであった……。
ここで舞台は、H県K市のM中学校に移る。
「ネオインセクトマスク、よくやったなあ」
誰に言うでもなく、小柄で大人しそうな少年がつぶやく。少年の名は
やがて1年4組は理科室へと移動する。後藤も理科室に向かうが、その途中にひとりの女子生徒が近づいて来た。どうやら上級生らしい。女子生徒は、後藤の
「やめてくださいよ! 僕が何をしたんですかっ!?」
「なんねぇ、私何もしてないじゃないね?」
後藤の懇願に対し女子生徒は、明らかにバカにしたような態度で答えた。そしてさらにローキックを入れる。
「こら! 何をしている!」
理科室に向かっていた教師に見とがめられ、女子生徒は逃げるように去って行った。
「先生、ありがとうございます」
後藤は教師に一礼し、理科室に入った。
理科の授業が終わり、昼休みになる。教室に少し遅れて入った後藤に向けて、男子生徒のひとりが突進して、体当たりする!
「いちれん、ちゃーんっ!」
突進して来た生徒はそう叫び、倒れた後藤を嘲笑する。
「何しやがる!」
後藤は抗議するが、男子生徒は無視しつつこう言い返す。
「聞こえんなあ?」
その場にもうひとりの男子生徒が近づいて来た。
「おい西山、楽しそうな事やっとるな」
「
小倉は倒れた後藤に蹴りを入れた。
「悔しかったら、かかって来たらどうなら? それともネオインセクトマスクに、助けを求めるか?」
小倉の罵倒に、後藤は耐えるしかなかった。これが、彼の学校での日常である……。
7月になり、M中一年生全体の合宿が始まった。瀬戸内海にある小島のマラソンコースを、一年生全員が走らされる。後藤も走っていたが、小柄で
「後藤君、あんた何しよるんね! あんたがそんなじゃけえ、うちら班のもん全員に迷惑がかかるんよ! シャンと走りんさいや!」
そんな事を言われても、限界まで走ったのに……。後藤にとって、自分の弱さを今日ほど呪った日はなかった。
やがて後藤にとって退屈な夏休みが過ぎ、9月が来た。そして、その日が訪れた。
下校中の後藤を、西山と小倉が取り囲み、交互に殴り出す。後藤が倒れた時、上空にひとつの光る物体が現れた。
「な、UFOか?」
西山と小倉がひるんだ瞬間、光る物体は後藤に光線を浴びせる。後藤の体は宙に浮き、光る物体に吸い込まれた。やがて光る物体は、その場を飛び去って行った。それを見た西山と小倉は、慌てて走り去って行った。
それから、どれだけの時間が流れたのか。淡い光に満ちた空間の中で、後藤は目を覚ました。
(ここは……?)
後藤はベッドのような台の上に横倒しにされ、
「どうやら目が覚めたようね」
少女は後藤に話しかけた。いや、後藤の心に語りかけたと言う方が正確かも知れない。後藤は身体を起こした。と、同時に自分が一糸だにまとっていない姿だと気付く。後藤は赤面し、
「き、君は誰だ? 僕に何をしたんだ?」
戸惑いながら問う後藤に、少女は答える。
「私の名前は、ラクラ・メソシヤー。あなたをあなた達の星で言う、超人にしてあげたのよ」
「超人に?」
「そう。あなたを、超人として生まれ変わらせてあげた。あなたはその力を、好きに使っていいわ」
「そんな事を言われても、僕にどうしろと?」
「だから好きに使っていいのよ、あなたの望むままに……」
そう言うとラクラは、後藤に向けて硬質そうなボールを投げて来た。後藤は無意識のうちに、「止まれ!」と念じた。するとボールは、宙で浮いたまま停止した。そしてゆっくりと、床へ転げ落ちた。
「どう? これはあなたの超人としての力の一部。他にも色々あるわよ」
ラクラは、かすかに微笑みながら言った。後藤はそれを聞きつつ、自分の身に起きている事を理解しようと沈黙していた。やがて後藤は、ラクラに向かって言う。
「もしこれが夢でないなら、なんて素晴らしい事なんだ! ありがとう、ラクラちゃん!僕の人生がようやく好転しそうだ!」
「好転しそうじゃなくて、するのよ!」
ラクラの言葉に、後藤はうなずく。
「そしてこれから、あなたの力の使い方を説明するわね……」
その頃、UFO騒ぎを見ていた別の生徒によって、警察に通報が入っていた。それを受け警官と担任教師が、後藤の自宅を訪問する。
「千秋がUFOにさらわれた? それがどうしたんなら?」
後藤の父親はめんどくさそうに、警官と担任に答えた。
「いや、そんな事言わないでくださいよお父さん。もし宇宙人がらみの事件になったら、
「あがな弱虫、宇宙人のエサにでもなればええ!」
問答が続く中、後藤の声がした。
「ただいま」
「うわっ!」
一同が驚いた。
「千秋! わりゃどこに……」
父親の詰問は、後藤の鋭い眼光により遮られた。そして後藤のただならぬ雰囲気に、警官も担任も、蜘蛛の子を散らすようにちりぢりになって帰って行った。
翌日のM中。表面上は、何事もなく登校する後藤。教室に入ると、西山が突進を仕掛けて来た。
「いちれん、ちゃー……!?」
西山は後藤にぶつかる前に、見えない力で弾き飛ばされた。6月とは反対に、教室の床に転がったのは西山の方だった。水を打ったように静まり返る教室。何事もないように、後藤は席に着く。
体育の授業。短距離走を1年4組は行う。そこで後藤は、驚異的な身体能力を発揮し、猛スピードの疾走を見せた。
「おい後藤、何があったんだ?」
体育の教師が問い詰める。
「何もありませんよ、ただ走っただけです」
後藤は淡々と返す。
次いで数学の授業。後藤は丁寧に見事な解答を板書した。
(いつもならこう言う時おろおろしている後藤が、一体どうしたんな?)
(UFOにさらわれたと言う話を聞いたけど、もしかしたら、宇宙人と入れ替わったんじゃないんね……?)
生徒たちはこそこそと後藤についてウワサするが、後藤は気に掛ける様子はなかった。
昼休みになり、後藤はひとり二年生の教室のある階へ移動した。そしてかつて、脛へローキックを入れた女子生徒を見つける。
「なんね? あん……!?」
次の瞬間、女子生徒の衣服は、弾け飛んだ!
「う、うえええん!」
女子生徒はその場に崩れ落ちて、泣き出した。
「何をするんね!」
女子生徒は、去って行く後藤の背中に罵声を浴びせるが、後藤は気にせずに立ち去って行った。
放課後。教室に西山と小倉が入って来る。
「おい、後藤。ちょっと顔貸せや」
後藤は黙ってついて行く。校舎の裏側にたどり着くと、西山と小倉は後藤に襲いかかった。ひょいとかわす後藤。そして後藤は左手をかざし、ふたりに電光を浴びせた! 宙に浮き、どんどん上昇する西山と小倉。ふたりの身体は、校舎の3階まで達した。
-光文60年10月-
この頃、M中で後藤をいじめようと思う者はいなくなっていた。逆に西山などは取り入ろうとする有り様であったが、後藤は西山に対して厳しかった。
「後藤さん! これ、少ないですが受け取ってください」
「なんだこれは?」
「上納金です」
「いらねえよ! 西山、その金はどうやって用意したんだ? 親からくすねたか、それとも他の誰かから脅し取ったのか」
「えー、その両方で……」
「そんな金が受け取れるかーっ! 返して来ーい!」
「ひいいっ!」
そんなある日のこと。M中に
「おい! ここに後藤千秋って奴はいるか! 出て来い! 俺は
闖入者の目的は、後藤らしい。後藤は、無視しようとした。その時である。
「出てこねえなら、こっちにも考えがあるぞ。ジターン!」
天地が叫ぶと、空の一角から何かが飛んで来て、校庭に着陸した。それは4メートルはあろうかと言う身長、頭部と胴体は薄い小豆色、手足は黒い色をしたロボットだった。
「出て来るまで、ジタンでこの学校をぶち壊し続けるぞ! 分かってんのか!」
そう言うと天地は、ジタンの肩に乗り、校庭のゴールポストをジタンに持たせ校舎へと投げつけさせる。宙を舞うゴールポストが校舎に激突する直前、ゴールポストは停止し地面に降りる。そして、後藤が校庭へと出て来た。
「お前の目的は俺か? これ以上暴れるな!」
そう言って後藤は左手をかざし、ジタンを持ち上げようとした。しかしジタンは動かない、重量がありすぎるのだろうか?
「食らえ!」
ジタンは後藤にパンチを繰り出す。跳び上がってよける後藤。だがジタンのパンチはなおも襲って来る、それをかわし続ける後藤。いつしか形勢は、後藤が逃げる格好になっていた。
「どうしたどうした? お前の力はその程度なのか?」
天地の挑発も、今は後藤の耳に入らなかった。どうすれば逆転出来るかを、考えていたのだ。その時、あの日ラクラに言われた言葉を思い出した!
(超人になったあなたがそれでもピンチになった時、この言葉を唱えなさい)
ラクラに言われた通り、後藤は叫ぶ!
「メラン・コンカー!」
するとまた、空の一角から何かが飛んで来た。今度は白銀に輝く鳥のような物体である。
(ゴトウ、聞こえるか?)
後藤の心に声が響く。
(俺はメラン・コンカー、呼ばれたから来た。俺の力を貸そう、俺に近づけ!)
後藤はその声に従い、メラン・コンカーに向けてジャンプする。するとどうだろう、後藤の服はまるで全身タイツのように変化し、メラン・コンカーの身体にも変化が起きた。メランの翼が後藤の足に、足が腕に、胴体は胴体に、尾羽は肩に、そして頭は頭へと装着され、メランは後藤の鎧になったのだ!
地上に降り立ち、ジタンと対峙する後藤。後藤に向けてパンチが飛んで来る、後藤は目の前で両腕を交差させた。するとどうだろう。パンチは
(これは! しかしこんなデカブツ、どうやって倒しゃいいんだ?)
(落ち着いて肩に乗っている相手を見るんだ)
後藤の内なる声に、メランが答える。言われるままにジタンの肩に乗った天地を見た。常人には見えないが、天地からジタンに向けて、オーラかエネルギーのような物が流れ込んでいた。
(奴を倒せばあるいは……!)
後藤はジタンの肩に飛び乗り、天地に向けて電流を浴びせた。
「ぐわああああ!」
天地は気絶した。と、同時にジタンは動きを止め、バラバラになっていった。天地を抱え、後藤は飛び降りる。
(どうやらこいつも超人で、その能力でこのロボットを操っていたみたいだな)
(だけどメラン、それってロボットと言うより、操り人形と言わないか?)
後藤はメランと心の中でそうやり取りしたあと、あたりをふと見回した。ジタンのパンチで校庭の地面は
(これが俺の力の結果なのか?)
(ほとんどはゴトウが抱えている奴の仕業だ、気にする事はない)
(だけどまたこんな事が起きたら……)
やがて警察が来て、天地を連行する。
「助かりましたよ、こいつは自販機やATMを荒らして窃盗を繰り返していた容疑もあるんです。ところで、超人さん。あなたの名前は?」
「あ、あのー……」
「あ?」
(……)
後藤の脳裏に、メランの助言が入る。
「アルジャーノン、超人アルジャーノンです!」
ここに新たなる超人、超人アルジャーノンが誕生した。だが、それは彼にとっての茨の道のはじまりでもあった。
-光文60年12月-
M中の図書室。そこに後藤はいた。本を手に取るが、読む気配はない。超能力、「オブジェクト・リーディング」により手にした時点で内容を把握出来るのだ。
(これで、図書室の本は一通り読んだか……)
本を本棚に戻すと、後藤は図書室の窓から、校庭に黒山の人だかりが出来ていたのを見つけた。
「なんだ一体?」
後藤は校庭に進み出た、そこには意外な訪問者がいた。ネオインセクトマスクである。
「後藤千秋君だね」
「どうしてあなたが!?」
後藤は驚きを隠せず、頓狂な声でネオインセクトマスクに問いかけた。
「私は……いや、私たちは君をスカウトに来たんだ」
「私たち?」
「そう、私の所属する超人機構『
「でも僕には、学校が」
「それはこちらでなんとかしてあげよう、君は超人なんだ。普通の中学生として暮らし続ける事はもう出来ないと、気づいているんじゃないか?」
「父がなんと言うか……」
「それも心配ない、あれを見たまえ」
ネオインセクトマスクは、校庭の前に停めてあった車を指さした。そこには、GRAPEのメンバーに連れられた後藤の父がいた。
「千秋! わしの事は気にせず行ってこい!」
「父さん!」
後藤はここで決心した。自分は超人として、これから生きて行く事を。
そして12月25日、後藤がK市を離れる日が来た。
「父さん、身体に気を付けて……」
「千秋もの」
後藤はメランを呼んで、それに捕まる。そしてGRAPEの待つ場所へと飛び去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます