第11話 約束の地平線 04
碎王たちの目の前で、都心に爆心地を作った、先の弾道着弾まで時が戻っていた。
弾ける光の中から宗谷の姿も現れ、光の花びらが舞う幻想的な光景が広がってゆく。紡ぐ滑らかな指先が、破裂の戦慄を描いて閃光を誘う。
「リピート」
戻った時間が今度は、直人と遼臥による全弾命中への芯根攻撃まで時は進み。ビクトリア本体への攻撃とダメージは、倍となって与えられている。
そして、光の中で陽炎っている宗谷は呟いた。
「リブート」
陽が昇る光が射す中で、閃光は二度走った。
一度目は繰り返された着弾の導火線に火が付く先走りだった。後を追った戻りの火種は、沈黙を挟んでから再び掛け走る。その間、瞬く間もない、あっという間の光の世界であった。
爆発の球根を孕ませた閃光は、一瞬で開花していた。
碎王も、宗谷のリブートに合わせて拳を一つ、振り抜いていた。
直撃を避けようと慄いたビクトリアの根に対して、重力圧の壁で動かぬよう喉元を抑え込む。
「頼むからそこに居てくれ」
圧縮の大気が波紋のドームを囲い、振り抜かれた拳の衝撃波動は、上空高きの白雲を瞬時に帯状へと弾き飛ばしていた。
「ふぐっ!」
「どわっ!」
反動で震えた超微振動による引き戻しの風圧が一瞬、くっと息を詰まらせれば。直人と遼臥は、遅れてやってきた衝撃波と振動爆音を一身に帯びた、その身を竦ませた。
「だあっ!」
「ぐあっ!」
目には見えない音波爆音の壁を受けて、その場にあったものを全て巻き込み、吹き飛んでもいた。
「わあああああっ!」
飛びすさび、破裂した大気層の間でプラズマスパークが発生しては、中心点より生まれし――新星が誕生したかに輝く、夜明けが煌めく。
「夜ーっ!」
「雪っ!」
やがて、その視界の全てが黄金色に染まり。神々しき明るさを反射して、浮かび上がる人影も呑み込み、包まれる夜明けと夜の稜線上で。光と影がぶつかり合い、フレアのカーテンを遠くにまで靡かせる光景も生まれていた。
「あれは……?」
爆発の爆風を受けて地に伏せていた萩野は、その身を挺して庇ってくれていた親野辺と嶋野木の下から顔を上げた。
「――綺麗……」
西の空からキラキラと星屑の火の粉が舞い散っている。
飛び逃げようとしていたビクトリアの黒きタール体は、光に飲まれて消滅し。眩い光の粉となって舞い散っていたのだ。
「……やった、のか?」
都心でオーロラを見上げることになろうとは。
「……驚いたな」
世には、凄いことをやってのける人たちがいるものだ。
それが己たちの活力にもなろうとは――。
親野辺と嶋野木は互いを見やり、ふっと笑みを溢し合った。
――何だよこれは。ちっとも悪くない。
「……夜!」
「……雪」
雪夜と夜乃は、高い空中で抱き合っていた。
落下に伴う風圧で頬がぷるぷると震えるものも擦り合わせて、互いの無事を確かめ合った。
「ごめんね、夜。気づいてあげられなくて……」
「いいんだ、僕が……。僕の所為で……」
ひしと抱き合う二人の体は、地上目掛けて落下してゆく。
そこへピックスが滑り込むようにして走り込み、車体の背で二人を受け止めていた。
「夜っ! 雪っ!」
一足先にピックスに拾われていた夜鷹が、二人をまとめてキャッチして縫い止める。
「鷹っ!」
夜鷹も夜乃をぎゅっと抱きしめていた。
「夜のばか! 何で一人でやろうとかっ!」
その間、アンディはピックスの操縦で苦しんでいた。
「くっそ!」
滅多なことでは故障などしてこなかったピックスの、推進動力に問題が発生していた。
先に発生した大規模なプラズマスパークの影響を受け、永久機関であるはずの動力源がオーバーフローを起こしていた。
思う通りにピックスが動かず、ついには浮遊の力を失い、ピックスはただの鋼鉄の塊となって落下の一途を辿った。
「わああああっ!」
「ちょっ、アンディ!?」
「駄目だ! 失速した!」
「そんなぁ!」
高度五千メートルから、超重量級の列車は落ちていた。
「最悪、お前たちは墜落の直前に飛び降りろ!」
「アンディはどうするの!?」
雪夜からの質問に、アンディは沈黙を貫いた。
「……落ちてないか?」
フレアのカーテン直下に、落下の物体を捉えた直人が指をさした。
すると宗谷は、通信を繋いでいた。
「アロウズ。バックアップ」
『――了解。アロウズよりシーラトゥーへ。
宗谷はいつもの笑みを携えて言った。
「ありがとう、アロウズ」
瞬く間に降下した鋼の車体が、地表への激突まで残り十秒を切った際に。宗谷は
ピックスの車体が落下していたのは、とある公園の池だった――そこへ。発動された水面転移により、夕夜たちを背に乗せたままピックスは。爆心地で壊れ、破裂した水道管より形成された大きな水たまりの中からせり出て、事なきを得るのだった。
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