20.イツキ少年の華麗なる作戦


 指輪の探知魔法を頼りに森を進むと前方からの強い光が彼らを照らす。

 巨木の間から光の先を眺めるとそこには巨大な壁が聳え立つ。高さ数十メートル、横幅は数キロ。そのすべてを巨木の森が包み込み上空からはこの都を視認することが出来ない構造になっていた。

 城壁の中央には瓦の屋根を有する古風な櫓門。そこを守護するように棍棒を手にしたオークが立ち並ぶ。人間の体にイノシシの顔を有した亜人種で、頭部はとても大きく身体のほとんどを占めている。巨大な門の前にいるおかげで目立たないが、彼らの身長は3メートルを超えた巨漢だ。服装は西洋の軍服みたいなデザインで統一されておりここが権力に管理された国家だということが窺える。


 木陰に身を潜めながらイツキは段取りを説明した。

「半透明のフィレスを連れて行けば確実に怪しまれる。まずは俺が単独で潜り込んで内部事情を探ってくる、お前はここに隠れて待機してろ」

 彼が白騎士からローブを剥ぎ取ったのもこのためだった。人間に自由が許されていないこの地で、自身が人間だとバレれば不都合が多いのではないかと判断したからだ。本来なら周りの目など気にするに値しないがフィレスが動けない以上、慎重に行動して損はないと彼は思ったのだ。

「いいけどよ、どれくらい待ってりゃいんだ?」

「知らん。荷物はお前に預けていく。お前一人なら二日はもつだろ。それとコイツもお前の担当だ」

 イツキは荷物の中から食料などを彼女に渡し、先ほど捕らえた長耳の白キツネを差し出した。白騎士は目を輝かせた。

「あたしがか? いいのか? ほんとか?」

「勘違いするな、オモチャじゃない。連絡手段に使うんだ」

 よそよそしい手つきで受け取るとゆっくりと胸に抱き寄せた。

「連絡手段? こいつで……」

 抱きかかえた白キツネをじっと見つめながら少し考え込むと、

「あ~わかった、コイツに手紙をくくりつけてそれで」

「違う」

「じゃどうすんだよ」

「殺せ。今、俺の探知魔法スキルにはそいつの反応がある。もし何かあったらその反応を消して非常を知らせるんだ」

 白騎士の目から光が消えた。

「……」

 うつむく彼女。

「おい、わかったか?」

「……や」

「は?」

「や!」

「なんでだよ」

「やだから!」

「わがまま言うな」

「やだやだやだやだやだやだやだ」

「なら命令するしかないな。お前は俺の命令には逆らえないことをもう忘れたのか? 手間をかけさせるな。何かあったらそいつを殺」「あぁぁぁああぁあああ!!!」

「バカか! 大声を出すな!」

「うるさいうるさいお前は嫌いだ!」

「このクソ犬……とにかく、何かあったらそいつを」「あぁぁああああああ!!」

「おい!」

「あたしのイスカンダルをいじめんな! イスカンダルはあたしが飼うんだ!」

(もう名前をつけてやがる……。こいつ、俺に最後まで言わせない気か。いいだろう、立場の違いを教えてやる)

 イツキは大きく息を吸った。

「何かあったら! そいつを!!」彼の肩にかかる重みに口が止まった。

 一瞬の判断で誰かに手を乗せられているという判断に至った彼だったが白騎士とフィレスは前方にいる。なら誰だという疑問に行き着いたとき、口を開けたまま彼の後ろに視線を向ける白騎士に目が止まった。そして先ほどとは明らかに違う彼女の絶叫が響く。 

「あぁぁぁぁあああああ!」

 巨漢のオークが数体、彼らを取り囲んでいた。

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