10.七英雄
少女の掌に収束する魔力。男は何かをボソボソと呟いている。
「……私は人類種統括指揮官……この私が……この、私が……」
自身の末路を悟った男は最後の抗いを見せる。
「
と男は叫びながら聖剣を素早く抜刀すると同時に大きく薙ぎ払う。少女の片腕を斬り飛ばした。
宙を舞う真っ白な右腕。
わずかに生まれた隙に体勢を立て直し距離を取ると、男は間髪入れずに次の攻撃を仕掛けた。
聖剣より放たれた神力の斬撃波が魔物を背負う少女に命中、吹き飛ばされた彼女は民家に突っ込み土煙が辺りに立ち込めた。
そして地面に落ちる生々しい右腕。間もなくしてそれは黒く焼け焦げ、灰となり風化した。
「……は、はは」
例え魔種であったとしても聖剣が有効なのに変わりはない。男は確かな手ごたえを感じていた。剣先を土煙の方へ構えた。敵を視認した瞬間に止めの大技を叩き込む魂胆だ。一瞬たりとも視線は前方から逸らさない。男の脳裏に浮かぶ確かな勝利への
男の背後に音もなく浮かび上がる魔方陣。前方にばかり注意を向けていた男はそれに気づかない。
土煙の中、彼女はその呪文を発動させた。
『
金属音が鳴る。男が握っていた聖剣が地面に落下した音だ。
見えない一瞬の力によって男は魔方陣に貼り付けられた。両手を広げたその様は十字架を体現している。
「なんだッ、こ、れは……!?」
煙の中から右腕を失った白髪の少女がいまだ泰然として姿を現す。おもむろに切断面を確認すると、背中に取り憑いている山羊頭の頭蓋が口を開く。無論、彼の頭の中に響くその声は周囲には聞こえていない。
『抜かったな小僧。儂の力を有していながらこの様とは』
「うるさい。試すには丁度いい」と言い目を閉じた。
(……損傷部位、解明。構成材質……水分60%、炭素18%、たんぱく質20%、血液7%、損失6.5%……)
「……
切断面より生え出す骨格。瞬く間に筋肉や血管が包み込む。その様子は植物の成長を連想させ、次の瞬間には死人のように真っ白な肌まで復元された。具合を確かめるように軽く握る動作を繰り返す。
貼り付けにされた男はそれを目の当たりにしていた。
「バカな……超再生、だと……貴様らは、一体……」
魔物を背負った少女が再び歩み寄る。男を見下ろしながら問う。
「お前には聞きたいことがいくつかある」
拘束されながら男は憫笑した。
「っは。下等種風情が尋問の真似事か」
「お前の言っていた『七英雄』とはなんのことだ?」
「理解力も乏しいようだなぁ! 誰が答えるものか」
少女は男の右肩に手を添え、一言。
「……
彼の右腕を半透明の立方体が包み込むと、それは重力に従うまま落下する。地面には結界に隔離された右腕が“ボトッ”と無造作に落ちた。
右腕の切断面より噴出する赤い鮮血。
「あぁぁあああああああ!!!」
叫び悶え苦しむ男。
「はぁ、はぁ……愚民が……貴様らに教えることなど、何もないわ」
次に少女の手は男の左肩に乗せられた。男の顔から血の気が引いた。何をされるか予測出来たからだ。
「よ、止せっ……! わ、わかった……い、いいだろう、教えてやる……かつて魔王を討伐した、七人の英雄……き、貴様らを、裁いて下さる存在だ。ヒ、ヒハハッ」
「御託はいい」
白髪の少女は地面に落ちていた聖剣を拾い上げた。握った手からは煙が立ち上る。魔力を扱う者にとって神力で形成された聖剣は触れるだけでも有害だからだ。それでも構わず剣先を男の大腿部に突き刺した。
「……っ?!」
男は声にならない声を漏らした。
「下等種と見下す割には見当違いが目に余るな。俺たちは元より帝国を潰すつもりだ。一体何がどうしたら後悔するというんだ? ……まあいい。魔王の遺品は今どうなってる」
美声とは裏腹に白髪少女は躊躇なく剣先をひねった。大腿部の傷口が開き苦痛に顔を歪ませる男。
「いっ……!! ……た、例え知っていようとも貴様らには言うものか……。反乱分子であるならば尚の事……。魔王の遺品は不朽体としてそれそのものに強大な力が宿る……貴様らのような輩の手に渡らせるわけにはいかん」
激痛に悶えながらも男の忠誠は固い。
これ以上の収穫は見込めず、ここに立ち止まる必要はなかった。その場から立ち去ろうとした時、遥か後方より光りの一線が彼女に向かって飛んでくる。それは神力を有した、聖剣だ。
被弾直前に気づいた少女は高速で飛んでくる聖剣を視認、軌道を見極め魔力を右腕に集中。闇を纏った右手で着弾寸前の聖剣を受け止めた。が、その衝撃を相殺するまでには至らず、足元が地面を削りながら聖剣と共にそのまま10メートルは後方に押しやられる。
攻撃を受けながら射線を逆算し位置を特定。新手は数百メートル先にある塔の上であると把握。すかさず受け止めた聖剣をそのまま投げ飛ばした。
命中すると老朽化していた塔は大破。地響きと共に崩れ落ちていく。ガレキが落下、散乱する中から一人の人影。
『チッ。この距離でもバレんのかよ』
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