第三話~神様のアプリケーション~
三日月中学、二年教室。
わめくユウヤの声がする。
「ざっけんなよ。呪、呪いなんかで人が殺されるかっつーの!」
「ユウヤに一票」
カズミがメガネのフレームを指で持ち上げながら、クールに言った。
「ちがうのよ! 呪いじゃない。神様アプリって言って、ここのところ有名な占いサイト。しかも無料なの」
ヨリコが珍しく瞳を輝かせて言い募る。
ユウヤは、
「けっ。そんなものに頼るやつの気がしれねーや」
ヨリコはユウヤを見つめて暗い顔をした。
× × ×
放課後、理科実験室の部室でグダグダするユウヤのスマホにメールが届いた。
「んあ、ヨリコからだ」
ユウヤは眠たげに頬をこする。
ヨダレがついていた。
「……」
メールには一言「あげるわ」と。
ユウヤはかっと目を見開き、叫んだ。
「なんっじゃこらー!」
スマホの画面にどこかで見たことのある、宝船が現れ、七福神が笑っている。
「ヨリコのやつ、妙なURL送ってくるから踏んじまったじゃねーか。踏んじゃうオレもオレだけどよー。画面全然動かなくなっちゃったぞ。どーすんだ……」
再び寝転がるユウヤ。
「まー、急ぎの用もないし、ほっとくか。ヨリコのやつ、よけーなことしやがって。なにがあげるわ、だ。まあ、めでたくなくもないけど」
× × ×
ヨリコが勢いよく部室に入ってきた。
「ユウヤ、福禄寿、届いたー?」
なんだか息を切らせている。
ユウヤは、目をしょぼつかせている。
「はア?」
「オレもヨリコからもらったぞ。毘沙門天」
「どれ?」
起き上がってカズミの手元をのぞくユウヤ。
「かー、かっこいいじゃねーか。それにくらべて、ふくろくじゅ? ってただの頭の長いじーさんだろうが」
ヨリコは熱弁する。
「これ、吉祥天っていう、隠れキャラがいるんだって。それでね、全部そろうと願い事がかなうんだって」
ユウヤは首の後ろをかきながら、尋ねた。
「なんでくれたの?」
「ダブリよ」
「へー、願い事ねえ」
「あ、こんなことしててもしかたないわ。もっとゲットしなくちゃ」
「どこで?」
ユウヤはまだちょっと胡散臭げだった、もとより噂なんだろうし、胡散臭いといえば胡散臭い。
だが、ヨリコは華やかな笑顔で答えた。
「サイトのゲームで!」
「課金するやつ?」
「タダよ」
ユウヤは疑いの目を向ける。
「どーせレアキャラの吉祥天とやらは課金しないと手に入らねーんだろ? そんなのムダムダ」
かまわずスマホをいじるヨリコ。
「あ! 弁天様ゲットしたわ!」
カズミが横から覗き込む。
「なに? 見るの?」
「いや、七福神の紅一点がどんなセクシーな格好をしてるかと」
「エロイなあ! もういや! 男どもは恩をアダでかえすんだから」
「エロイの?」
ユウヤが身を乗り出す。
カズミが首をかしげた。
「あんまり」
× × ×
ユウヤは帰路の途中、歩きながらつぶやいた。
「願い事ねェ……ま、都市伝説、としでんせつ」
スマホが鳴る。
ユウヤは制服のズボンのポケットから取り出した。
「お、直ってる。なんだよ、またヨリコか……なんだ?」
ユウヤは思わず叫んだ。
「吉祥天が手に入ったァ?」
× × ×
ユウヤは私室にて、スマホを持つ手が震えている。
「願い事がかなうんだよな……」
どういうわけか汗が止まらない。
ユウヤは壁に貼ったグラビアに目をやる。
「いや、あんなの目じゃないぞ! ヨリコのやつ、本当に課金してないらしい……ということは」
スマホをいじって、サイトを調べる。
「だ、大黒天が手に入った。案外いけるぞ、このゲーム」
× × ×
朝、徹夜明けのユウヤの目にはクマが。
閉めっぱなしのカーテンの隙間から、日光がさしこんでくる。
「恵比寿も布袋尊も入手した。残るのはえーと、頭が働かん」
× × ×
「のこるは……」
ボーっとする頭で唸るユウヤだった。
学校へ行ったら、カズミがこともなげに教えてくれた。
「寿老人だろう」
「なんで詳しいの?」
「そんなことよりいいのか?」
「?」
「今日テストだろう。ユウヤのことだ、クソゲーにハマってテスト勉強してないんじゃないか?」
「しまったァアアア」
ユウヤは廊下を走り倒して、ヨリコを見つけると、拝み倒した。
「頼む! 寿老人と吉祥天ゆずって。お願いしますううう」
「なあに? せっぱつまって。寿老人はいいわよ。ダブってるから」
「吉祥天も、お願い!」
「えー、これもらったものだからなあ! ちょっと無理!」
ユウヤは般若のような形相で、ヨリコの肩をつかんだ。
「たのむ。オレを救うと思って!」
一瞬、沈黙があって、ヨリコは画面を見て。
「そこまでいうなら、いいけどね」
「やったー! 助かったー」
ヨリコは少し笑って、
「なあにもう、夢中なの? けど、願いは一つしかかなわないから……もういない。大切な願いでもあったのかしら」
× × ×
ユウヤはテスト中、くらくらする頭を抑えて、
「うう、眠い。しかし七福神、願いを叶えてくれ……」
心の中で唱えた。
『テストに合格、テストに合格……』
カバンの中でスマホが光る。
ユウヤはうとうとしながらつぶやく。
「あー、しかしこの眠気がどーにかならないか……」
スマホが光を失う。
「ん? 頭がスッキリしてきたぞ。よっしゃ、楽勝! って、アレ? こんな問題、授業でやったっけ? あれ……?」
END
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