ジディスフィアレ・リディスリーヴ

@fw_no104

 平静を装って回廊まで抜けると、いつの間にか中庭は雨景色に変わっていた。

 さあさあと、細かな音がする。空は大理石のような色で淡く光っていた。

 辺りに誰もいないのを確認して、彼は懐から戦利品を取り出した。

 思わず息を呑む。

 僅かな光の下でも、それは輝きを放っていた。紫紺のその奥には、微かに茜色が見える。

 彼は頬が自然と緩むのを感じた。

 間違いない。これで絶対、あいつに勝てる。

 不敵な笑みを浮かべたまま顔を上げた彼の前では、まだ静かに雨が降っていた。

 静かにーー。

 そんなわけはない。

 都合のいい話だと思った。宝物庫に忍び込んでも、誰も来ないなんて。そこからここまでの間に、誰ともすれ違わないなんて。

 彼は振り返った。

 中庭にも、回廊にも、その向こうに長く続いた廊下にも、誰もいない。

 さあさあと雨粒が庭木の葉に当たる。空は相変わらず変な色で光っている。

 これは、きっと夢だ。

 そういい聞かせながら、彼は駆け出した。

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