第24話 デート?……龍人視点

 今まで聡を過保護にしてきた青龍と白龍も、少し考え方を修正する必要を感じた。聡が昼食の後、部屋に籠もってしまったので、龍人だけで秘密の話し合いを持つ。


「我が君が黄龍として覚醒が近いのなら、少しずつ誰を選ぶか考えて貰った方が良いかもしれない」


 今更、そんな呑気なことを言っている青龍に、赤龍と黒龍は呆れる。


「いつ、黄龍として目覚めるか解らないのに、悠長すぎるよ! 私は聡とデートして、アピールする」


 白龍が何をしでかすか解らない黒龍を睨みつける。


「お前は、聡を酔わせてホテルに連れ込んだから、デートなんかさせない」


 黒龍はそんな白龍の厳しい視線を無視して、席を立とうとする。


「まだ、話し合いは終わってない」止める青龍をも無視しようとしたが、赤龍に肩を押さえられる。


「聡をデートに誘うなら、順番を決めなきゃ! ここで抜けたら、黒龍はとばすわよ」


 ちぇッと、舌打ちして黒龍はソファーに座った。どうせ、自分は順番を後にされそうだと黒龍は不貞腐れたが、デートする機会はゲットしたいので、他の3人が争うのを高みの見物をしながら待つ。


「私はこの中で一番の年長だ。我が君との親密な時間を持ちたいと思うのは、当然だ」


 そんな勝手な青龍の主張を赤龍と白龍が受け入れるわけもなく、話し合いは紛糾する。



 黒龍は年長者の陰険な言葉の投げつけあいを、ほくそえんで眺めていたが、ふと、自室に籠って勉強をしている筈の聡がこそっと外出しようとしているのに気づいた。常日頃なら、聡の気配に敏感な龍人達だが、デートの順番を巡っての争いに気をとられていた。


『このままでは、私の順番は最後だろう。デートに誘うチャンスを逃がしたくない』


 こっそりと、聡が家から出ていくのを追いかけようとしていた黒龍に、いくら言い争いしていた龍人達も気づいた。


「黒龍! 貴方は最後よ!」赤龍は青龍と白龍が止める間もなく、ジャケットを羽織ると、聡の後を追いかける。


 聡は黄龍が死ぬと他の龍も死ぬとか、子龍を残すとか、中国語の勉強をしていても、頭の中がぐるぐるで気分転換をしようと家から出て行ったのだ。


「聡! ちょうど良かった! 夏物のスーツを買いに行きましょう」


 家を出たものの、何処へ行くか迷っていた聡は、赤いスポーツカーに乗った赤龍に声を掛けられて立ち止まった。


「凄い派手な車! いったいどうしたの?」


 驚いている聡を車に乗せると、赤龍はガレージにあっただろと、笑った。


「ガレージ? 今まで中を見て無かったけど……ああ! 赤龍! 免許証あるの?」


 赤龍は聡が自動車免許を取った大学生の時にとったと言うが、信号待ちの時に「見せて!」と手を差し出されて、苦笑する。


「ほら、私の言葉を信じないの?」手の上に置かれた免許証を聡はしげしげと眺める。ごく普通の免許証だが、赤龍の華やかな顔の写真に、聡は不公平だと愚痴る。


「免許証の写真って、何だか冴えなく写るのに……」


 龍人達は容姿、頭脳、変な力に恵まれているのに、何で自分は……と、溜め息をつく。


 5月の気持ちの良い風を感じながら、赤龍と暫しのドライブになったが、信号待ちで停車する度に、派手なスポーツカーとそれに相応しい華やかな男に注目されるのが、聡には居心地が少し悪い。


「こんな車に青龍や白龍も乗るのかな?」凜とした青龍や、ガタイの良い白龍が、赤のスポーツカーを運転している姿など想像できない。


「いや、これは私の車だから」赤龍も取り澄ました青龍が、この車を運転する姿を想像して吹き出した。


「だよね~! あっ、夏服って僕のだよね? 自分のお金で買うから、ATMでお金をおろさなきゃ」


 赤龍はデートなのだから、自分でプレゼントしたいと思ったが、似合うかチェックをしておいて、後で買ってあげれば良いと考えて、聡の思う通りにさせる。


 センスの良い赤龍と夏服のスーツを買うのは、悩む時間がかからないので早く済んだ。ただ、そんじょそこらのモデルより格好の良い赤龍と一緒にスーツなどを選んでいると、周りの客や店員の視線が集まるのには閉口する。


「普段着も見てみない?」本当はもっと高価なスーツを買ってあげたかったが、聡のプライドを傷つけたくなかったので、赤龍はグッと我慢したのだ。


 普段着ぐらいプレゼントさせて欲しい赤龍は、自分もショッピングしたいからと、行きつけのブランドショップに連れて行く。華やかな赤龍と上品な聡が入店すると、ブランドショップに相応しい店長が、上機嫌で接客する。


「夏物を買いに来たんだ」


 棚に置いてあった爽やかなサマーセーターを、聡に当ててみる。


「よく似合うよ」聡は店の雰囲気からして、高いのでは? と、たじろぐ。


「これぐらいプレゼントさせてよ」断ろうとする聡を、にっこりとした眩しい笑顔で封じ込める。


 聡は赤龍の笑顔に、ドキンとして、高価なプレゼントを受け取ってしまった。店の奥で、ハンサムな赤龍を見ていた店員は、きゃ~という嬌声を手で押し殺す。


 スーツより高価な普段着だろうなと、聡は溜め息をつく。


「さぁ、少し疲れたわね、お茶でもしましょう」


 落ち着いた雰囲気のテールームで、赤龍と美味しいケーキを食べる。


「何だか、デートみたいだね」


 周りはカップルか、女の子ばかりなので、小さな声で聡は赤龍に囁きかける。デートのつもりだったのに、赤龍はガックリして、今度は女装して試そうかと悩む。


「ここのケーキ美味しいから、皆にもお土産に買って帰ろうかなぁ」


 最後の一切れを食べた聡の口の横に、白い生クリームがついていた。赤龍はしなやかな指先で、生クリームをすくいとると、ペロリと舐めた。


 先程から、華やかな赤龍とおっとりした聡を、どういう関係だろう? と、ちらちら見ていた女の子達は、もしかして! と、声にならない悲鳴をあげた。


 スッと伝票を手に持って、赤龍は聡をエスコートして席を立った。聡がお土産のケーキを選んでいる間に、さっさと会計を済ます。


『本当なら、一緒に夕食をと言いたいけど……』 


 お土産のケーキの箱を、嬉しそうに持っている聡を夕食に誘うのを断念して、赤龍はライバルが待つ家へと車を走らせた。

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