第23話 黄龍なのかも……
俺は赤龍と中国語の練習をしながら、龍人達は何故どこの国の言葉も話せるのだろうと疑問を持った。
「聡? どうかしたの?」
赤龍が質問したので、俺は前から聞きたいと思っていたことを尋ねることにした。
「ねぇ、何故、僕が黄龍なんだろう? 赤龍は産まれた時から、龍だったの? 何故、僕は人間として産まれたのに、黄龍なの? だって、皆みたいに外国語も勉強しないと話せないし、変な力もないし」
赤龍は、こういうややこしい質問は青龍にして欲しいと思ったようだが、俺はの真剣な瞳に応える。
「何故、黄龍だけが人間として現れるのかは、私にもわからない。龍人達が人間と交わって、その子孫から黄龍が現れると考えているけど、何故かは誰も知らない」
聡は天宮家が龍神祭で祭宮を10年に一度、花嫁として捧げていたのを思い出す。
「もしかして、僕の祖先の祭宮が龍人と……」
赤龍はポッと頬を染めた聡が何を想像したのか察して笑った。
「ねぇ、じゃあ、そのうち天宮家に女の子の黄龍が産まれるかもしれないね。そうしたら、赤龍みたいにハンサムなら、きっと上手くいくよ」
赤龍は黄龍との盟約の意味を全く理解していない俺に、深い溜め息をついた。
「聡、私達はもう貴方と盟約を結んでいる。一生、側から離れないと誓ったのだ。他の黄龍は、次の世代の花嫁になる運命さ」
俺は側にいると言われても、自分は男なのにと困惑する。赤龍はややこしい話だけど、過保護の青龍が全く俺に話してない盟約の内容を説明する良い機会だと考えた。
「もう聡との盟約は結ばれて、私達は聡と一生を共にする。聡が亡くなる時は、私達も死ぬ。だから、子龍を残したいと皆も必死なんだ」
えええっ~! 俺は思いがけない盟約の内容に驚いた。
「ちょっと待って! 龍って、凄く長生きなんでしょう? なのに、僕が死んだら、死んじゃうの?」
まだ若い俺だが、龍のように何百年も生きるわけではない。赤龍は動揺している俺の肩を抱いて、瞳を見つめながら告白をする。
「私は何百年も孤独で生きるより、聡と出会ってからの日々の方が愛おしい。こうして、黄龍と巡り合えた幸運に、日々感謝している。黄龍としての目覚めは近い、私達の誰を選ぶかは聡の気持ち次第だよ」
華やかで、いつもはふざけた口調の赤龍の、真剣な告白に、俺はくらくらしてしまう。
「選ぶと言われても……男なのに……」
躊躇う俺を、赤龍は魅了していく。
「黄龍になれば、交尾の衝動に支配される。その時に、誰を選ぶのか、考えておいた方が良いよ」
赤い髪が燃え立ち、華やかな顔立ちに、俺は惹きつけられる。
「でも、一人を選べないよ!」
俺は赤龍の腕を振りほどいて、立ち上がって叫ぶ。これ以上、側にいたら魅了されてしまう。
「赤龍! 何をやっているんだ」
台所で昼食を作っていた白龍は、中国語の練習どころか、俺を誘惑しているのに気づいて、リビングに駆け寄った。
「白龍、聡はもうすぐ黄龍として目覚める。青龍みたいに、何もかも隠しておいてはいけない」
白龍は赤龍のシャツの襟元をつかみあげる。いつも、優しくて料理を作ってくれる白龍の怒った顔を見るのは初めてだ。
「白龍、止めて! 赤龍は悪くないよ! 僕が質問したのに、答えてくれただけだよ」
隣の部屋で黒龍からアクアプロジェクトについて聞いていた青龍も、リビングの騒ぎに駆けつけた。
「青龍、本当なの? 僕と盟約を結んだ青龍、赤龍、白龍、黒龍は、僕が死んだら、死んじゃうの?」
俺に負担を掛けないように、話してなかったのにと、赤龍を睨みつける。
「そうだよ! だから、子龍を持ちたいんだ」
青龍の後ろから、黒龍が先に答える。
「我が君……」余計な事を言った黒龍や赤龍を怒るより、つらそうな俺を心配して、手を伸ばしかける。
パシン! 青龍の手を、俺は退ける。
「青龍、誤魔化さないで、ちゃんと教えて欲しいんだ! もし、本当に僕が黄龍で、皆の花嫁だと言うなら」
俺が自分が黄龍だと認める発言をしたのは初めてだ。龍人達は、覚醒したのかと期待を持つ。
「我が君、もしかして……」
欲望にかすれた声を、俺は首を横に振って否定する。
「僕には黄龍だという自覚なんてないよ! でも、皆がそうだと言うなら、そうなのかもしれない……ねぇ、黄龍が交尾したら、僕もエッチしたことになるの? 子龍を産むって、僕が産むの?」
龍人達は顔を見合わせる。
「どうなるのだ? 黄龍との交尾と、聡とは関係無いのかな?」
兎も角、落ち着いて話し合おうと、ソファーに座る。俺は龍人達が狼狽えているのを初めて見た。
「黄龍と盟約を結ぶのは、僕とが初めてなの?」
盟約を結ぶと、黄龍が亡くなれば死んでしまうということはと、俺は推測した。
「えええっ~! もしかして、全員が……未経験なの?」
後ろめたそうな顔で、性的な体験は経験済みだと察したが、龍としては未経験なのだと気づいた。
「僕なんか、黒龍が邪魔するから、エッチどころか、デートすら経験無いのに! 皆、ちゃっかりと経験してるんだ」
口々に長年の孤独に堪えかねたのだと、言い訳をする。
「聡と盟約を結んでからは、そんなことはしていない!」
異口同音の宣言に、俺は真っ赤になる。
「別に……僕は男とは……」
そう言いながらも、龍人達が綺麗な女の人といるのを想像すると、チクンと胸が痛む。俺は、自分が男と付き合いたくないからと、龍としての交尾や、子龍についての知識を得ることも無視してきたと反省した。
「盟約で僕が子龍を産むしかないなら、詳しく教えて欲しいんだ。青龍達は親龍から何か聞いてない?」
龍人達は、大きな溜め息をついた。
「親龍は黄龍が亡くなれば、死んでしまいますから、あまり記憶にないのです。本当に幼い時に亡くなりましたから」
全員が首を横に振る。
「もしかして、黄龍は交尾して子龍を産んだら、命を落とすとか……」
真っ青になった俺に、幼い時とは100歳以下だと龍人達が口にする。
「黄龍は人間としての生を全うしたんだね」
動物の中には交尾、産卵したら、命を落とす物もあるので、その点はホッとした。
「前の黄龍は4頭と交尾したの?」
目の前に4人の龍人がいるということはと、聡は想像した。
「まぁ、そうなるな」
白龍も幼い時の記憶を紐解いて、微かな黄龍の面影を思い出す。煌めく金色の幻としてしか、記憶していない。
「どんな人だったの?」
聡は前の黄龍は、女の人だったのか? それとも自分みたいに、男だったのか? 興味を持った。
「私達は黄龍とは直接は会っていない。黄龍は、親龍の盟約の相手だったから。それに、幼かったので龍人の姿にはなれなかったら、人間である黄龍とは会うことはできなかった」
聡は自分が産んだ子龍にも会えないのかと、まだ産んでもないのにショックを受けた。
「もし、僕が黄龍になったら、誰か一人を選ぶと思っていたけど、4人龍人がいるということは、選ばなくていいの?」
龍人達は、真っ赤になって、一度に4頭と交尾はできないと慌てて説明する。俺も真っ赤になって、そうなんだと撃沈した。
「我が君、黄龍としての目覚めが近いのです。誰か一人を選ばなくてはいけません」
青龍も、俺に覚悟を迫る必要を感じたようだ。
「選ぶ……他の人とは別れるの?」
青龍は交尾した後、卵が孵るまでは、他の龍は近づけないのが安全の為だと話す。
「まさか、卵を傷つけたりしないよね!」
龍人達は他の龍の卵を失えば、次の発情期が来るのではと期待して、理性を失うかもしれないと返答を避けた。
俺は自分が時々自分でないような不思議な感覚を持つことが増えていたので、もしかしたら黄龍なのではと感じていた。しかし、交尾したり、卵を産むとかは、全く想像の範疇を越えていたので、やはり無理だと頭を抱えた。
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