第22話 あれ?……龍人視点
『あれ? 何時もと違う天井……』
ホテルのベッドで目覚めた聡は、ぼんやりと天井を眺める。
「お目覚めですか? 我が君」
青龍は声を掛けながら、カーテンをあけた。
「ええっ~! ここは……もしかして、ホテルに泊まったの? 確か……黒龍と……飲んでいた筈だけど……」
ガバッと起き上がった聡は、服を着ているのにホッとする。
「上着とネクタイは外しました」
隣室で赤龍と白龍に見張られている黒龍は、自分がネクタイを外してあげようとしたら、黄龍が威嚇したくせにと不満に思う。
「なんで青龍には触らせたのだろう?」
ソファーに座っている黒龍の愚痴に、赤龍と白龍から冷たい視線が投げつけられる。
「当たり前よ! 酔った聡ちゃんをホテルに連れ込んで、何をしようとしていたの」
「当分、聡の側に近づくな!」
他の龍達に一晩中叱りつけられた黒龍だが、全く反省してない。
「何を言ってるんだか、黄龍が目覚めかけているのに」
そう口にしたが、その黄龍に威嚇されたのには黒龍も少し凹んでいた。龍人達は一瞬覚醒した黄龍の波動を思い出し、ゾクリとする。
「おはよう……」着替えたものの、まだまだ寝足りない様子の聡だ。
穏やかな聡の気配に龍人達は癒されたが、黄龍を得たいとの欲望も感じる。
「昨夜は飲み過ぎたから、部屋で休ませたんだよ」
疑惑の目を向ける聡に、黒龍はしゃあしゃあと言い訳をする。
「確かに、飲み過ぎたかも……」
「そうだよ、気分が悪いと言ったから、部屋を取ったんだ」
聡が黒龍の言い訳を信じているのを、他の龍人達は呆れてしまう。
『青龍、少し過保護過ぎるから、聡ちゃんが世間知らずになってるわ』
赤龍の苦情を青龍も少し真面目に受け止めた。
『だが、一つわかったこともある』
白龍の言葉に、全員が聡を落とさなければ、黄龍も手に入れられないと頷いた。しかし、その聡は男と恋愛する気は無いと公言しているのだ。黄龍に覚醒すれば、本能に任せた行動をとると考えていたが、どうやら聡の意志で相手を選ぶようだ。
折角、一流ホテルに泊まったのだからと、ルームサービスで朝食を食べて家に帰った。
聡は中国語の練習をしなきゃと部屋に籠もったが、他の龍人達は何となくリビングに集まっていた。
「少し同盟について、話し合っておきたい」
全員の非難の目に、黒龍は肩を竦める。
「黒龍、お前は会社を辞めろ!」
元々、聡と同じ会社に勤めるについては、他の龍人達は同盟違反だと感じていた。
「じゃあ、青龍は聡を毎朝起こすのを止めるべきだし、白龍はご飯でつるのを止めなきゃね。赤龍も聡の服の管理や掃除を止める?」
他の龍人達から、それは聡の為にしていることだと抗議の声があがる。
「だから、私も聡の為に同じ会社に勤めているのさ」
全く反省の色が無い黒龍に、他の龍人達は怒りを覚える。
「しかし、昨夜のように正体を無くすほど酒を飲ませて、ホテルに連れ込むとは!」
青龍の鋭い視線にも、黒龍は平然としている。
「聡を落とさなきゃ、黄龍は覚醒しない。皆も昨夜でわかっただろ! 私は自分のやり方で聡にアプローチするだけだ」
偉そうだぞ! と白龍が黒龍の頭にゴチンと拳骨を落とす。グオオオオ……と、黒龍の怒りが雨雲を呼び寄せる。
「止めて! 庭に花を植えたばかりなのよ!」
赤龍が黒龍を、ちゃんと話し合いましょうと落ち着かせる。
「聡はもう11歳の子どもではない。大人なのだから、無理強いとかは駄目だけど、手出しをしないという同盟は無効にするべきだ」
黒龍の言い分にも一理あるのは、全員が感じていた。
「それと、酔わせてホテルに連れ込むのは別だがな」
白龍と青龍は、どちらかというと聡を子ども扱いしがちだ。
「その件は置いといて、確かに黄龍を覚醒させるには、聡ちゃん……いえ、聡が大人にならなきゃ駄目みたいね」
赤龍は何時までも子ども扱いは駄目だと、呼び方も改めなくてはと思う。青龍は聡が黄龍として覚醒してくれるのを欲する気持ちと、何時までも側にいてお仕えしたい感傷的な気持ちで揺れ動いていた。
「我が君が自発的に黄龍として覚醒するのを待つしかない」
白龍も今の穏やかな生活が気に入ってるので、青龍の意見に頷く。
「私も聡や皆との生活は心地良いわ。でも、それで黄龍は覚醒するのかしら?」
赤龍の意見はもっともなのだ。
「聡が誰を選ぶのか、皆も不安だろう。それに、今の聡も好きだから、黄龍になったら変わってしまうかもしれないと、臆病になるのもわかる。でも、このままじゃあ……子龍が持てないじゃないか!」
子龍! 全員がうっとりと子龍を思い浮かべる。龍人としては性的な経験もあるが、黄龍が不在だったので、子龍を持ちたいと切望していたのだ。
黄龍は何故か人間の形で誕生し、子龍を残して生を全うする。龍の寿命は長いが、黄龍と盟約を交わした時点で、同じ時を過ごす。まだ若い聡だが、できれば子龍を全員が持ちたいので、早く覚醒しなくては、人間の短い生などアッという間に終わってしまうのだ。
「あれっ? 皆で集まって何を話しているの?」
勉強に疲れて、お茶を飲みに来た聡を見て、白龍はそろそろお昼を用意しようと席を立った。
「中国語の練習を手伝いましょう」
赤龍はサッとお茶を、リビングのテーブルの上に差し出す。黒龍は自分もと言いかけたが、青龍に別室へと連れ去られて、アクアプロジェクト課について詳しく質問された。
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