第21話 黒龍!
俺は女子社員達からカラオケに誘われると、断らなかった。他にも数人の若手を誘って10人で、カラオケ店に向かう。後から黒龍の策だと知って腹が立ったけど、日頃お世話になっている森さんからの誘いは断れない。
「カラオケ店で食事っていうのも、なんだから簡単に食べれる所を予約しておいたのよ」
新入社員とは違い、ベテランOLの森さんは、リーズナブルなのに美味しい店を知っている。こじゃれた居酒屋には、日本全国の地酒や焼酎が揃えてあった。
「へぇ、色んな地酒が置いてあるのですね。聡も飲んだことのない銘柄があるだろ?」
女子社員達は何となくベビーフェイスの俺はお酒が弱い印象を持っていた。
「えっ? 聡さんは飲めるの?」
「ええ、まぁ普通に飲みますよ」
大人っぽく見えないから、酒が飲めないように思われていたのかなと俺は反発する。軽い食事をしながら、俺は黒龍が勧める酒を飲んで少し頬を染めた。
カラオケに行くのが目的なので、居酒屋では長居をしなかったが、ハイペースで飲んだ俺はこの時点で少し酔っていた。
「聡君、大丈夫なの?」
森さんが心配したが、黒龍は「聡は1升は軽く飲みます」と笑った。
「へぇ~、意外だよねぇ」
一緒にカラオケに行くメンバーから声が掛かり、俺はそんなに子どもっぽく思われているのかとガックリする。カラオケ店も新入社員の飲み会で行った店とは違い、お洒落だし、綺麗な店で、俺と黒龍の歌に全員が驚いた。
「ちょっと、マジに凄いわ!」
「げげげ、98点だとよ!」
他のメンバーが歌っている間に、黒龍はせっせと俺にお酒を飲ませる。
「ねぇ、この歌を歌ってよ」
✳︎
女子社員達からリクエストが次々掛かるので、聡はそんなに飲んでいる自覚は無かったが、結構な量を飲んでしまっていた。先に腹拵えをしているので、カラオケ店ではオツマミ程度しか食べなかったし、黒龍はそろそろ俺の限界だと笑う。
女子社員とデュエットを歌っている聡に、少し苛ついたが、ここを出たらと黒龍は精一杯の自制心を働かせる。
「ねぇ、聡君、かなり酔っているんじゃない? 頬が赤くなってるわ」
森が心配して、黒龍にこれ以上飲ませない方が良いと小声で注意する。
「聡はああ見えてウワバミですよ。それに酔ってもタクシーで連れて帰りますから」
「あっ、黒龍君は同じ家に住んでいるんだものね。じゃあ、安心だわ~! 次の曲は私のよ~」
前田から新入社員の面倒をみてくれと頼まれていたので、アフターファイブとはいえ酷く酔っ払わせてはと心配していた森だが、黒龍が家に連れて帰ってくれるならと安心した。その黒龍が送り狼になろうとしているとは、森は考えもしなかったのだ。
「へぇ~! 綺麗な夜景だね~」
ホテルの最上階のラウンジで、聡は黒龍とウィスキーを飲んでいる。カラオケ店を出た時点で、かなり酔っていた聡を黒龍は連れて帰りますと、タクシーに乗せて皆とは別れた。
「聡はもう酔っているから、真っ直ぐに帰るしかないよね」
自分を子ども扱いされるのに聡が反発するのを見越して、黒龍はもう少し飲み足りないなぁと溜め息をつく。
「酔ってなんかないさ! 次に行くぞ!」
酔っ払いは、何故か酔ってないと言いたがる。黒龍はタクシーに行き先を変更させた。
ホテルのラウンジで、夜景を眺めながら何杯かストレートで飲むと、聡も流石に拙いのではと思ってきた。
「ちょっと飲み過ぎたみたいだ」
水を一気に飲み干しても、頭がくらくらする。
「聡、聡、少し休んで帰った方が良い。タクシーで気分が悪くなったら困るだろ」
タクシーに乗ると考えただけで、聡は無理だと青ざめる。
『しまった! 飲ませすぎた!』
黒龍はちゃっかりとチェックインを済ませておいたスイートルームに聡を連れ込むのには成功したが、ダブルベッドの上ですやすやと熟睡されてしまった。
『黒龍!』3人の殺気の籠もった声が、黒龍の頭の中で響く。
『聡が酔ったから、休ませているだけだよ』
とほほな気持ちで、せめてネクタイだけでも解いてやろうとした黒龍は、ハッと伸ばした手を止めた。
「黄龍……」
酔って意識を手放した聡は、黒龍が触ろうとした気配で目をあけた。
『黒龍!』 警告を発した瞳は、人間のものではなく、金色に輝いていた。
「黄龍になったのか?」
一瞬、目をあけた黄龍は、その次の瞬間には目を閉じてしまい、気配も無くなった。
『黄龍!』他の3人が部屋に現れたが、そこには聡が酔ってすやすやと寝ているだけだった。その夜、黒龍は他の龍人から、びしばしと説教をされる羽目になった。
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