第18話 青龍の悩み……龍人視点

 青龍は就職した聡の為に資金を貯めたものの、その財力で本人に知られないようにサポートした方が良いのか考えていた。


『我が君が知ったら、怒られるかもしれない……』


 何も怖れない龍だが、唯一聡に嫌われると考えるだけでゾッとする。


「青龍、まだ何か悩んでいるのね」


 町内に引っ越しの挨拶をしてきた赤龍が、やれやれ疲れたとソファーに座りながらからかう。


「挨拶周り、お疲れ様だったな」


 白龍が赤龍の為に、お茶をいれてやる。青龍は「挨拶周り?」と、怪訝な顔をする。


「隣の小母様に引っ越したら、挨拶周りをするものだと叱られたのよ」


 庭の手入れをしていた赤龍は、道から見ていた隣の住人に気づいて挨拶したら、あまりの美貌に見惚れていたご婦人は慌てて世間話を始めた。


「どのような方が引っ越して来られたのか解らないので、不安に感じていましたのよ。お若い方達だからご存知ないでしょうが、引っ越したら近所に挨拶周りをするものなのです」


 世間体など赤龍は気にしないが、聡に文句を付けられたら困ると思い、菓子折を持って町内に挨拶して来たのだ。その挨拶周りで、山崎の御前が困惑しているだなんて赤龍は考えてもいない。


 赤龍が聡の為に挨拶周りをしたのだと知った青龍は、ぐだぐだ悩んでいるのを止めて、できる限りサポートしようと決めた。


「それにしても……聡ちゃんが黄龍として覚醒しないのは、やはり男とは結婚したくないと抑制しているからじゃないかしら? だって、女の姿だったらキスでも何でも有りっぽいもの」


 ザッと青龍から殺気が発せられて、まだキスしてないと慌てて否定する。


「そうだなぁ、聡の年齢なら性的に大人になっても良い筈だ。それを抑え込んでいるから、黄龍として覚醒しないのではないだろうか?」


 白龍の言葉で、青龍も悩む。黄龍として覚醒して欲しいが、無理強いはしたくない。


「青龍が過保護だから、聡ちゃんはお子様のままなんじゃない? 貴方は黄龍として覚醒しなくても、永遠に平然として仕えているでしょうけど……」


 青龍は赤龍に「そんなことはない」と否定したが、黄龍になった聡が他の龍を選ぶかもしれないと不安も感じていた。


「黄龍が伴侶を選ぶのは、自然の摂理だ。何時までも、この穏やかな生活が続かないのは青龍も解っている筈だ」


 白龍に言われるまでもなく、青龍も赤龍もいずれは黄龍をめぐって激しい争いを勝ち抜かなくてはいけないのは解っている。


「我が君……」他の龍と飛び去る黄龍を想像するだけで、身が妬ける。しかし、それ同様に青龍は聡が自分の保護下から去るのも辛く感じるのだ。


「青龍、貴方は聡ちゃんを神聖視しすぎているのよ。彼も大人になったのだから、欲望を持っているわ。それなのに、澄ました顔で側に青龍がいるから、黄龍として覚醒しないんじゃない?」


 いつも超然としている青龍が、悩ましい様子を見せたので、赤龍はここぞとばかりに攻め立てる。


「おい、赤龍! それぐらいにしとけ」


 白龍は別に青龍を心配して庇ったわけではない。そろそろ聡が帰宅する時間なので、青龍が変だと心配を掛けてはいけないと思ったのだ。



 しかし、その日はなかなか聡は帰宅しなかった。

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