三日目 人の本性
東京内は結界のおかげで大爆発の影響を受けてはいないが、侵入してきた悪魔の暴動で街は昨日より一層崩れていた。
やはり、こんなのは信じられない。
でも、受け止めないといけない現実。
目の前に映るもの、映らないもの。全てが現実。
俺は、車の窓越しに見える景色を眺めていた。
避難所の近くに車を停め、現地に向かった。
停めた車は周辺で任務をこなしているレシスト局員が本部に乗ってもって帰るらしい。
「事故られてたら呪ってやる」とか黒兎さんは言っていたけど。
「行きの途中で車体を壁に引きずって塗装が剥がれてたあれは何だったの」
俺はそう黒兎さんの言いたかった。
避難所の場所はなんとびっくり。以前通っていた高校近くの広場だった。
もしかすれば、依桜と柚晴が避難所にいるかもしれない。局長は依頼という形で避難所の治安を見てこいと言ったのかもしれない。
「そんなことないと思うよ」
局長に感謝しないといけないな。
「だからそんなことないって」
恐そうな人だけど、ちゃんと俺の事を考えていてくれたんだな。
「そろそろおじちゃんの言葉を無視しないでくれるかい」
肩を必死に揺すってくる黒兎さんをそれでも無視し続けた。
「大事な事を言うから志輝君、無視しないで聞いてね」
一応黒兎さんの話に耳を傾けた。
「おじちゃん達がレシストなのはなるべくばらさないようにね。もの凄く面倒な事になっちゃうから」
レシスト側にも都合があるだろうから言ったりはしないけど。
「避難している人に聞かれるんじゃないですか」
続けて白猫が。
「君達、どこから来たの?とりあえずこっち座りな。昼間からだけど一杯どうだい。みたいな感じで聞いてくるかも」
居酒屋でいそうな酔っぱらいのおっさんの真似をして言った。
若干棒読みなのとか色々間違っている事を指摘したいが、素性を聞かれたりはあるだろうし。
「なになに、設定とか考えちゃってる。兄弟で避難しにきました。みたいな」
笑いながらおちょくってくる黒兎さんは後で殴るとして。
「設定は決めといた方がいいですよ。話が合わなくなったら一気に怪しまれますし。なにより、言葉に詰まって、黒兎さんがテンパりそうなんで」
黒兎さんは白猫と目を合わせ。
「おじちゃん、なりそうかな」
と尋ねた。
白猫は考える間もなく、首を縦に振った。
純粋な瞳で、即答されたせいで黒兎さんに相当なダメージがはいったのは確実だろう。
案の定、黒兎さんはプルプルと震えだし、こちらを向き、涙目で。
「志輝君、おじちゃんのライフが全損しそうだ」
俺は手を肩に置いて。
「回復魔法、かけましょうか」
できる限りの提案をした。
少し間をあけて口を開いた。
「......お願いするよ」
顔を伏せて、覚えたての回復魔法、(ファーストエイド)を黒兎さんの右胸に一分程かけた。
噴水周辺に設置されたベンチにひとまず腰をかける。
気ままに遊んでいる子供達をボーッと見る黒兎さんが変質者に見えたり。
綺麗な花を眺める白猫が本当に猫に見えたり。
穏やかだな。
青空を見上げながらのんきに思ったりして。
それとなく、視線をチラッと横へ動かした。
ため息を一つついて。
「全然穏やかじゃない」
視線の先では、悪魔の存在を知っているだろう人達が膝を抱えて固まっていた。
辺り一帯に暗いオーラが立ち込めていて、こっちの気分まで暗くなりそうなほどだ。
そんな空気の中で二匹の小動物は声を揃えて。
「今ごろかよ」
「今ごろなの」
一匹はへらへら笑いながら。もう一匹はあくびをしながら言った。
ベンチに座った時から思っていましたよ。
心地の良い日射しに気持ちの良い爽やかな風で大事な事を忘れていた。
「こんなゆったりしていいんですか。パトロールみたいな、見回りとか情報収集とか。悪魔の目撃証言とか多そうですし」
少し悩んでから黒兎さんは明るい顔で言った。
「めんどくさいからいいんじゃない。やんなくて」
怒りの衝動をなんとか抑え、なるべく優しい口調で問い質した。
「めんどくさいからって、やらない訳にはいきませんよね」
「優しい感じで努めてるんだろうけど。顔ひきつってるよ。志輝君」
表情に出ないようにする事さえ困難なってきてしまったようだ。
二日前までは表情に出なかったのに。
「なんか、ごめん。別にめんどくさいのだけが理由じゃないんだ。今の人達の状況を見ればなんとなく分かるよね。凄く、ナイーブになってるんだ。信じたくないんだよ、この状況を。自意識過剰でとにかく誰かのせいにしたいんだ。そんな時に、パトロールなんて目立つ事をやってたらどうかな」
急な重い雰囲気に着いていけず、答えるのが遅くなってしまった。
「怪しまれると思います。あいつは別の目的で避難所にいるんじゃないかって」
でも、普通の状態ではそんな事は考えないと思う。思いたい。
精神が安定しないから、自意識過剰になって。善い行いを悪い行いとして見てしまう。
「だから、最初に言ったように、おじちゃんはレシストの事を他の人に言ってほしくなかったんだ。聞いた事もない名前を聞いた時、人はまず疑いをかけるからね」
頷いて返答し、また空を眺めた。
未曾有の危機が人を襲った時、人は同じ種族を敵として見てしまう。
黒兎さんは、遠回しながらも、そう伝えたかったのだろう。
それが、誰もに言える事だとしたら、俺は誰を信じればいいのだろうか。
「安心しな。志輝君には、おじちゃんや白猫、レシストの局員達がいる。だから一人じゃないよ。ちゃんと、信じれる人は周りにたくさんいる」
不意に言われた言葉に涙が流れそうになり、慌てて袖で拭い。
「はい」
明るい声で返事をした。
俺は、その言葉で心が温かくなった。
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