第2話 Level0:スイッチを入れたところ ~巫女リンダとの出会い


 と、いうことで。

 タイトルロール、そしてテーマミュージックとリンダリングの世界に足を踏み入れるようなムービーを満喫した後に、キャラ設定画面が出てきました!

 よーしやるぞ。


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 あなたはどんなひと?

 さぁやってみましょう! 各数値をマニュアルに従って設定して下さい。


名前

希望する職業

性格

信仰 ・善

・悪

モード ・超困難

・ちょっぴりムズ

・普通

・やさしめ

・ぬるすぎ

■■

強さに関する設定

・・・・

・・・・

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 ………………いや、寝てたわけじゃありません。

 ものすっごい大量に決めないといけないんだなー!! と惚れ惚れしておりました。まぁ、て、てきとうに書き込んでさっさと世界に突入したらいいんではないかと。思うんですが。それでいいかしら。って訊いてても誰も答えてくれないし、いいやいってみよう。


 名前はサラにする。

 実際の名前とは違うカタカナ名にするのが一般的。ジュヌビエーヌでもサルサコバッチョでもなんでもてきとーに。自分の名前も結構多いみたいだけど、私は友達と待ち合わせをしてるからちゃんと決めたとおりにしないといけないのでした。

 んで年齢とか外見とかは、実際を反映するのが望ましいってことになってる。望ましいってーかだいたいそうさせられるみたい。世界に行くと転職とか姿変えの神殿とかあるから、最初っから願い通りの姿にしてちゃ面白くないわな、という配慮らしい。

 使われるキャラクタービジョンは数千種類ある。


 んで私の希望職業は、武闘家!

 素手でばかばかモンスターを倒すっていうのをしてみたいのだ。魔法もいいけどさ。MPが尽きると役立たずになってしまうというのが好みでないのだ。

 強さに関する設定は取り説を読んでないのでさっぱりわけが分からない。てきとーに書き込んで、スタートした。




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 dive to RINDA RING WORLD! Welcome.......


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 カッと画面が明るくなって、一瞬めまいがした。

 リンダ・リング世界に接続成功。この接続の瞬間が嫌いでゲームができないって人は多い。まぁそれはともかく。

 手をにぎにぎする。

 自分の体のように、扱うことのできるアバター。違和感は特にない。自分で自分の顔をみることはできないけど、それは当然、現実世界も同じだ。


 私はどこかの神殿みたいなところに立っていた。ギリシャ神殿て感じの建物で、視界がスモークで煙ってて、すごくいい匂いがする……体感型ゲームということもあって、嗅覚もばっちり反映されてるんだな。


「…………こんにち、は?」


 目の前には金髪の女の人がいる。椅子に座って、私を見下ろしている。

 見下ろす、というのは……このひと、身長5メートルはあるんでなかろうか。にこにこと微笑む姿は母性を感じさせる包容力に満ちていた。


「リンダ・リングの世界にようこそ。私はリンダ、この世界の神に仕える巫女です」


 いんいんと響く声。すごく圧倒的だ。巫女か……女神かと思ったけど。

 ふと気づいて自分の服を見てみると、飾り気のない、デフォルトの村人の姿をしている。


「さぁ、あなたのキャラクターシートを渡して下さい」


 渡すって五メートルもある女の人の手の位置だよ。届くわきゃないだろって、顔に出たんだろう。リンダは笑って手を差し伸べた。すると私のシートが飛んでいった。

「そう、あなたはサラ、というのですね。いい名前です」

 これはどんな名前にしても一応誉められるのらしい。

「しかし、ランダムネームに身をゆだねた場合、特典として最初から400ゴールド授けられますが」

 なんですと。

「えっ、400……えーと、デフォルトは最初は50ゴールドと薬草一個でしたよね」

「はい」

 女神は気さくに微笑む。

「ランダムネームって、どんな感じなんですか」

 リンダがふと目線を上げたそちらの壁には、宙に浮いた金縁の伝言板みたいなのがあって、それに光る文字が浮かんでいる。

「ランダムネームは絶対使わないといけないものではありません。一応挑戦してみますか?」

 400ゴールドの魅力は結構なもので、私は挑戦することにした。言われるとおりにスタートと声に出して言う。伝言板にはスロットみたいに名前が流れている。


「ストップ!!」


 そして伝言板に示された名は………


「ンジャスポですね。ンジャスポ、いい名前ですね。これを選びますか」

「い、いやーーーーっっ!!?」

「ランダムネームに挑戦できるのは一回だけです。では、自分の決めた名前でよろしいですね」

 いやもおうもなく、ぶんぶん頷く。

 せめて人間名にして欲しい……なんなのよンジャスポって!! 昆虫みたいじゃないかぁ!! (後で知った話、ランダムネームはとにかくろくでもない名前しかないらしい。凄い人になるとシカaナi2テというのがあったらしい。他には「ぜつりん」とか「スライムLv1」とか。400ゴールドと引き替えにアイデンティティ売りますかってことだろうか)


 そして私のシートを判定していたリンダさんが突然カッと目を見開いた。


「サラさん。あなたは取り説を全然読んでらっしゃいませんね」


 ……ば、ばれた。つーかこの人怒ると顔が怖い。

「すみません。ちょっとその、急いでたもんで」

「腕力999、体力999、知力999……と全て999で埋めましたね。こんな数値はありえません。そっこくマニュアル通りにやり直して下さい」

「そのー、やっぱり、やんないといけないですか」

「全てデフォルトの設定で行うコースもございます。その際は初期で「呪いレベル5」がかかった状態でのスタートになります」

 呪いにまでレベルがあるんかい。とつっこんだのが素人の浅はかさ。リンダ・リングでは全ての技や魔法は各種一個しかなくて、それがだんだんレベルがあがっていくらしい。例えば「ファイヤーレベル1」だと「あらパンを焼くのにちょうどいいわね♪」て程度だけど最高レベルになると天を焦がすようなのが放射されるらしい。

 そして呪いレベル5というのは「戦闘中だんだんHPが減っていく。装備した武器がダメになる速度が早まる。お金を落とす」ものらしい。

「……えーと、自分で頑張って設定します」

 言うとリンダさんはにっこり微笑んだ。


 苦節一時間、ようやくのことで「武闘家サラ、レベル1」は誕生したのだった。




名前 サラ

職業 武闘家

性格 あきっぽい

信仰 善

モード やさしめ

■■

強さに関する設定

レベル1

HP 18

MP 0

RP 1

カルマ 0

体力 13

腕力 10

知力 3

敏捷度 15

・・・ ・・・

装備

武器 なし

防具 頭・なし

腕・なし

体・旅立ちの服

足・普通の靴

アイテム ・やくそう

・地図レベル1

・なし

・なし

・なし



 いや、その。表にしてみるとごっついシンプルみたいだけど、細かく細かく設定が決められてて性格項目だけで10はあるのよ。信じて。


「サラさんは残念なことに取扱説明書を読んでくださっていないようですので、わたくしリンダからごく簡単にゲーム説明を行いたいと思います。よろしいですか?」

「はーい」

 なんか嫌味効いてる気がするが、いい人だ。


「リンダ・リングとはすなわちリンダの円環。わたくしの力の及ぶ世界のことをリンダ・リングと申します。この世界は剣と魔法こそが力。そしててドラゴンに代表されるモンスターが跋扈するところです。

 そしてもうひとつ。リンダ・リングとはリンダの指輪。伝説の武器を装備したものだけがその指輪を手に入れ、そして「最果ての楽園」に至ることができます。それこそがグランドエンディングといわれるものです。しかし、未だそのラストを見たものはいません。

 助言しておきましょう。ステータスの中に「RP」というのがあります。これはリンダポイント。あなたの行動、あなたの装備したもの、あなたのレベルによってこの数値はだんだん上昇していきます。単純に言うと、あなたが強くなればなるほどこのポイントが高くなる、と思って下さい。この値が高くなりすぎると、きっと困ったことになります。」


 すごい強調して言ってくれるのはいいんだが、全然具体的じゃないからひたすらに脅されているみたいだ。

 つまり、「レベルを上げすぎるな」ってことらしい。


「しかしリンダポイントの上昇を恐れて低くしたままだと入れない場所、得られない情報、アイテムなどがあります。つまり、上げすぎず下げすぎず、を心して下さい。推奨は20P程度です。

 それぞれの町には道具屋、宿屋、装備屋などの設備があります。町によっておかれている物資は異なりますし、欲しい物を手に入れるためにはお金が必要です。モンスターを倒してお金を手に入れましょう。その場合カルマ値はあがりませんが、もしあなたが追いはぎ、強盗などの犯罪行為に手を染めた場合はあがります。それらの行為はやめておきましょう」

 それらの行為……できるってことか。


「サラさんは善神信仰ですので、町に着くたびに自分の信仰する神に捧げ物(アイテム・お金など)をしておくことをおすすめします。すると生き返り料金が割引になったり、アドバイスが聞けたりと色々と特典があります」

 それって………神殿、いいのか。

「あのー、悪神信仰だった場合はどんなことするんですか」

 そもそもリンダは巫女、この世界の善神悪神の両方に仕えて世界のために祈る、そんな存在であるらしい。いや今は単なる道先案内人なんだけど。

「夜の町で行われる黒ミサに出席し、盗品やお金、モンスターの死骸などを献上します。カルマ値が高ければ高いほど生き返りの際のゾンビ化の確率が低くなりますが、カルマ値が高いと実生活において大変困難な状況に陥ります。推奨カルマ値は30p、これだとゾンビ化確率は13パーセント程度です」

 うぅっ、ぶるぶる。程度って、十分高い数字じゃないか。

 でも黒ミサってなんなんだ。一回見学してみたいけど。


「この世界を普通に歩くだけであなたは困難さを感じることでしょう。まず、町を目指しなさい。この神殿から出た後西を目指せばギムダの町が見つかるはずです。そして酒場に行けばきっとあなたの求める仲間が見つかることでしょう。もし、一匹狼でいたいというならそれもよろしいでしょう。

 では、サラ。いきなさい。そして戦いなさい。この世界では生きることが戦いです。そこから何かを得るとき、あなたはきっと変わることでしょう……!」


 リンダが立ち上がる。そして両手を私に差し伸べるような格好になると、大きく息を吸い込んだ。

 ま、まってくれぇと止める間もない。彼女のものすごい息によって私の体は紙のように飛んでいく。神殿から飛び出して、空から落ちていく。

 ああ、リンダの神殿って雲の上……って思い切り落下してるじゃないかーーーーーー!!!


 びゅうびゅうと耳を切り裂くような音と共に、やがて。

 どすん、と音を立てて私は地面に立っていた。そこは見渡す限り緑の平野。気持ちいい風が吹いている、ピクニックにいいわねって感じのところ。



 目の前には看板が立っていた。

 それにはやっぱり、ふさわしい言葉が書かれていたのだった。


「さぁ、はじまりはじまり」


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