第16話 Event1:仲間は敵だった

 タラッタラッター♪ と小気味良い音楽が流れる。レベルアップだ!

「おめでとー!」

「やったねやったねー!!」


 私たちはレベルアップした。ノアは、魔法「ファイヤー」のレベルを上げた! これでまた戦闘が楽になるぞ。私もレベルアップした。二人でしばし、ステータスをいじる作業に没頭する。


「いやーしかし、低レベルなだけあって面白いほどレベルが上がりますなぁ」

「ハチは発言禁止」

「ちょっ、ヒドイッッ」

 300ゴールドと、聖水と薬草数個、そして絵心のペンを手に入れた。


「なにかなこの絵心のペンて」

「アイテムでしょ? イベント系じゃなさそうだけど。画家なんてクラスはないよね、カンナ」

「はい~」

「じゃ売り飛ばせばいいでしょ。いくらになるかなっと!

 楽しみになったところで、次の場所いこー!!」


 私は元気良く、絵画男が消えた後にあらわれたドアを開けた。まさかこの扉を開けるとラスボスが待ってるなんてこたぁあるまい。なんてったってまだ一個も謎といてないもんね!

 と、自信満々だったのだが。


「………………!!!!!!」


 バタン、と扉を閉じた私にノアは驚いた。

「何? 一体どうしたの? なにかあった?」

 私は今自分が見たものに対してこんな反応を示してしまったことを反省しながら言い訳の言葉を考えつつしかしどんな顔をしてもう一回扉を開ければいいのか分からず懊悩していた。

「どうしたのってばー」

「………モンスターがいた」

「え!?」

「や、言い間違い言い間違い」

 間違ってない気もするが

「モンタがいた」


 モンタの存在を覚えてらっしゃらない方もいらっしゃるだろうが私も今まで忘れていた。

 シロウのナビである。いつもやつの鎧に隠れているが、その極悪そうなこの世の何も気にいらなさげな、「こんにちは」って言われたら「……………ああ……」ってなにか貴様滅茶苦茶面倒そうに返事しやがってこちとらだって別にてめぇへの挨拶で無駄なカロリー消費してる場合じゃねぇんだよホントにようってやさぐれたくなるような、ああそう、やさぐれハムスター。

 それが扉の前にちょこんて座ってたんである。


「サラさん……心の中の言葉を口にするのはやめた方がいいと……」

 カンナの返事はなによりもまずそれだった。





■ ■ ■ ■




 ぎぃ、と扉を開けるとモンタはまだそこにいた。

 どんよりとしたまなこに私を映すと、


「あんたら……どこにいた……」


と言った。カンナが説明しようとするが、それを遮ってモンタは

「いい……聞いても仕方がない……うちのマスターはこちらで待機している……」

 ひょこ、と進んでいく。


 扉の向こうの部屋は来た方と同じく吹き抜けになっていて、向こうの壁には二枚の絵が掛かっていた。


 右側に、黒い服を着た魔女の絵。

 左側に、白い服を着た聖女の絵。


 二人は対比するような立ち姿で並んでいた。二枚の絵は壁全面に広がって私たちを見下ろしているが、この絵は襲ってきはしないだろう。


 二つの絵の中央には豪華な時計がある。

 今の時間は、二時半。


 モンタは進んでいく。この部屋には長いテーブルが置いてある。二人の女の絵を眺めながら晩餐をとる趣向でもあるのだろう。私たちに振る舞ってくれる者はないようだけど。

 テーブルには白いテーブルクロスが並んでいて、そして気味の悪いことにマネキン人形みたいな洋装の人形たちが談笑の表情を顔に張りつけて、時のとまったお茶会を楽しんでいるかのようだ。かれらのまえに並んでいるのはご飯じゃなくて、お茶セットだ。

「お茶したいよねぇ」

 ノアが言った。賛成賛成大賛成である。できればケーキ、クッキーでもいいから食べたい。

 けど、そんなの無理よね、うん。


 と、モンタを見失ったら私たちやつに全滅させられる気がする。いや愛想がないだけで実は気のいい奴だったりして……でも愛想が悪すぎるからなぁ……。



「シロウはどこで待機してるってぇー?」


 部屋の隅に置かれているばかでっかい壺の前でモンタは止まった。

 そして振り返り、怨念の籠もった目で私たちを眺めた。

「………ここで」

「はい?」


 私たちはしーんとしてそのばかでっかい壺を見上げた。




■ ■ ■ ■




「集金ですよーーー!!」

「朝ですよーーーーー!!」


「おめでとうございます、五泊四日のハワイ旅行に当選されましたああー」

「ああっ、美人なお姉さんが現れた!!」


 えっどこですどこですと首を振るバッチョをアタックしてから私はガンガン壺を蹴った。

 壺の中からはうめき声がする。


「うううううう……ごめん、ごめんみんな」


「ごめんじゃねぇぇぇ!! 悪いと思うんだったらさっさとでてこい!!」

「根性焼き直して上げるからー、さっさとでてきた方がいいと思うよ? これから十秒たつ事にだんだん手段が苛烈になっていくと思ってね」

 ノアはピンポイント攻撃のごとくに杖で壺を殴っている。いつの日か確実に穴が開くと思う。あつい説得の言葉に返ってくるのは悲痛な泣き言ばっかりである。


「ごめん……、みんなごめんっ!! さっさと俺を置いてこの部屋をでてった方がいいと思うー!! いいから、俺を置いていってくれぇー!!」


「なにふざけたことばっかぬかしてるかなぁこの馬鹿戦士!! なんなのさその冒険態度!! あんたリンダリングなめてんじゃないでしょうねぇ!!」

 がんっと壺を蹴る。しかしなんつーか、気が弱そうなわりに決意が固いというか? いくらなだめてもすかしてもでてくる気配ってもんがない。

「こうなったらもう」

 ノアが言う。

「上からファイヤーの魔法そそぎ込もうか」

「いやんノアちゃんそれいい感じ」

 カンナが飛び上がってやめてくださぃぃぃ!! と絶叫する。

「カルマばっかり上げてどうするんですか!!」

「別に高くないよほら、さっきのレベルアップでも不思議とカルマが上がらなかったの。ラッキー」

「ラッキーじゃありません、うえーん! それだけはやめてくださいぃー」

 カンナに耳をぷるぷるされながら頼まれたのではノアに断る術もない。かわいいんだもんなぁ。うちのハチと来たら飛んでるよ。しかも疲れたら私の頭で休んでるよ。


「おい、お前たち」

 しーんとして私たちを見ていたモンタが言った。

「…………」

 ひたすら恐い顔で迫ってくるので私は身を退いた。

 ぼーん、ぼーん、ぼーんと時計の音がした。

 私の背中が誰かにぶつかった。あ、すみませんと反射的に謝ったところ、ポロリとその人の首が落ちてきて私の手の中に落ちてきた。あまりのことに硬直して手の中のそれをまじまじと見つめてしまった。

 マネキン人形の濃い化粧。大仰な笑顔。


「ハァイ、お嬢さん。そろソロおやツの時間でスのヨォ」


 ぱくぱくした口でそんなこと言われてみんさい。私は悲鳴を上げてその首を床に叩きつけた。敵だということははっきり分かったんで、思わず。


「いっタァい、凶暴ね、マリア激怒しチャッた」


 叩きつけた首はふわふわ浮いて、立ち上がった人形の元にかえっていく。テーブルについていた人形たちが立ち上がる。カタン、カタンと木の音がする。


「倒しちゃオっと。チなみニネぇーマリアレベるは20なノ。どウお?」


 首がふわふわ浮きながらケケケケケケと笑う。様相よりも言葉の内容にぞっとし、そしてノアの傍に走り寄った。戦闘態勢、と言っても!

「だから言っただろぉー、逃げろって!!」

 壺の中の馬鹿戦士がのたまった。私とノアの声は、絶妙なシンクロを果たしたのだった。


「言ってねぇぇぇぇーーーーーーー!!!!!!!」



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