第15話 Event1:天国までご案内しよう
「は?」
たぶん、ノアがフリーズの呪文をかけてたんではないと思うけど、みんなしばらく固まっていた。
私の手の中にあるでかい鍵。それは、ドーラが首からかけていたものだ。
「…………バッチョさん」
「なに」
「そんなことってありえるんですか。サラさん武闘家っていってたけど、実は盗賊だったんですか」
「さーー……」
首を傾けるバッチョ。
「とりあえずスキルチェックをしましょう。サラさんのウィンドウを立ち上げます。いいですよね」
「あっ、ダンメェェー!」
なぜか止めるバッチョ。私は、やめてくれと言うつもりもなく成り行きを見守っていた。
そして立ち上がったウィンドウは。
サラのスキル:
・泥棒のように素早い
・石投げ(ダルビッシュぐらい)
・口が悪い
「待てやこのハチ」
ぶーーーーんと解き放たれて行こうとしたバッチョをむんずとつかんだ。
「なにこれ? なにこれ? な・に・こ・れ?」
「やや、やだなぁ。サラたんのスキルだよぅー」
「こんなもんがあると知らなかったけど、なんかあんたが勝手にいじってるとしか思えない有様というか惨状なんだけど、それはどういうことなのか教えて下さる」
「ピーピピー♪」
「ああっ、もうっっ」
「待って下さいサラさん。泥棒のように素早いと、ときどきすごく得なことがあると思いますよ。今回みたいに、こんな風に鍵が手に入るなんてこと普通ないですよ。本来ならダンジョンから退避命令がでるところですが」
そ、それは勘弁。という顔になった私とノア。
「でも、これなら別にいいんでは……そうかー、スキルにはこういうやり方があったんですねぇー。もちろん盗賊じゃないですから鍵開けとかトラップ外しは無理ですけど、その素早さがあったらかなり、いいんではないでしょうか~。
なんだかんだいって、一芸に秀でた方が絶対に得ですよ~。
ノアさんも。ノアさんは炎の魔法に適性がありますから、コンスタントに全部の魔法のレベルを上げていくよりは、まず炎系魔法を最高まで高めることを考えるべきです。そうなると……すっっっっっごく戦闘力に傾いてはいますけど、かなり強いパーティになるんでは、ないでしょうか……そのぅ、シロウさんが早く見つかるといいですね………」
すっっっっっごく、のあたりにかなりの力がこもっていたが、まぁ悪い気はしなかった。これからはレベルが上がったら絶対すばやさをあげることにしようっと。
「ノアは炎に適性があるんだ」
「ギムダの町で魔法使いギルドにいってね、チェックしてもらったんだ~」
「え!? 武闘家ギルドなんていうものもあったのかな、もしかして。行ってないけど」
武闘家ギルド。
そんなものはなかったのだが、武闘家の集まりはあった。「武闘大会」という名の……まぁそれは先の話だけど。
■ ■ ■ ■
階段をのぼっていくと、えーと、なんといえばいいのか。向かうは壁。左右に道が分かれてて……階段の部屋はふきぬけみたいに二階分になっていて、二階あたりには壁にそってぐるりと廊下が造られていて、のぼってきた対岸の方面に次に続く扉があるはずだった。
その絵がなかったら。
べたべたとぬりたくった油の量はサラダオイル何本分になるだろうか。という問題でもないのか。しかし、かなり暑苦しい絵だ。髭を生やした、ダリみたいな顔の男が私たちを見下ろして嘲笑している。
それはもうあざやかな嘲り。
声まで聞こえそうなほど。
「レディたち、二人でどこへ行くのかね」
聞こえてるし。口がアヒルのようにとんがったかと思うと、男は喋りだした。人を馬鹿にしたことはあらわなのだがあくまで上品さは失わない。なかなか見どころのあるケンカ売りじゃないか。
「私はここしばらく退屈していたのだよ。お相手下さるかね……天国までご案内しよう! 聖女が君たちを迎えてくれる!!」
いきなり、ボス戦!?
音楽が変わった。そうだ、そうだ、ボス戦だ!! そういやドーラにいきなり魔法をぶっ放されたときは音楽が変わらなかった!!
「行くよ、ノア! 目ぇ閉じるの忘れないでね!!」
「絶対勝とうね!」
ノアが魔法の詠唱を始める。それをきくと、すこしだけちょっぴり、えー、戦意がそがれるのだけど。だけど威勢の良いノアの声を聞くのは気持ちがいい。
先制パンチが入る。
敵がひるんだ所に、ノアの飛ばした炎が飛んでいく。
やっぱり絵なだけあって、炎に弱かったらしい!
男が大きく息を吸い込む。私たちの体制が整ったところに、ブオオオーーッッと氷の風が吹いてきた。もちろん男の口から。
「きゃーーっ」
ノアが悲鳴を上げる。一気に視界が赤く染まった。一発でノアのHPが一桁になるほど削られる攻撃だったのだ!! ヤバイ。
次のターンにすぐ薬草を使った。
えー、このゲームでは問答無用で相手の口の中に薬草を突っ込むことを、回復という。ノアは吐き出しそうになったが、
「HP低いんだから! 我慢して食べなって!!」
と、止めた。
回復したノアが怒りにまかせて再びファイヤーを放つ。魔法にクリティカルヒットはないんだけど、反対属性の魔法をぶつけるとたしか攻撃力が30パーセント増しだったと思う。
絵の男は劣勢になるに従ってだんだん表情が変わった。
最初の余裕ある表情が、困った顔に。悲しげに。苦しげに。そして真っ青に。男の背景の花園も、だんだん花が枯れて来るんだから面白い。
吹き出される吹雪は、毎ターンだったら非常にやばかったけど、私たちのレベルが低いせいか、3ターンに一回だった。しかもときどき意味なく力を溜めている。
「あっ……これはやばい」
「君たち、多勢に無勢だと思わないのかね」
「絵心というものを教えてさしあげよう……」
「あっ……これはやばい」
男はぶつぶつ言っている。
ノアが危険になるたびに私が薬草を使う。ああ、ここをでたらどこかで「美味しい薬草」を入手しなければ、きっといつか私が焼かれてしまうわ。
ゴゴゴゴゴ……と炎に包まれる花園を背景に、髭もかれおちそうにしおしおになった男が語りだした。
「聖女は言った。悲しげな、静かな声で。
『世間が私を呼ぶ名で決して私を呼ばれますな。それは必ず災いを呼ぶでしょう。私の真の名を知っているのは私の姪だけ。彼女の真の名前をとなえたとき、彼女は語るでしょう。私の名を』
……私の知っているのはそれだけだ」
絵が崩れ落ちていく。どろどろと額ごと油が溶けていく光景は、疲労感が消し飛ぶほど壮快だった。
私たち、戦った、そして勝った!! ノアと手に手を取り合って大喜びした。
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