第11話 Event 1:ゾンビは時間がたつとスケルトンになるのか?
「罠って、一体どういうことよ」
「あの女の子はモンスターです。えーと、中ボスですね。パーティ全員で彼女に対峙して一定時間が過ぎると彼女は『不可避呪文』をくりだしてくるんです」
「ふかひ呪文!?」
ふかひって、ふかひって、フカヒレじゃないよね。
……フカヒ、という言葉を頭の中で漢字化するのに少しの時間が要った。
「するってぇと、なに。あの強烈な門が出てくる呪文は、絶対に避けられないってこと!? 中ボス!? ええーっ、あんな序盤で。詐欺じゃない!」
バッチョは神妙に正座したままうなづいて、言葉を続けた。
「サラさん、別に怪我してないでしょ? ダメージはないけれども、パーティメンバーをこの屋敷の適当なところにバラバラに飛ばしてしまう、そんな呪文なんですよ」
「ママとかなんとか、言ってたじゃない……」
「あれもゴーストのひとりですよ。言ってることに大した意味なんてナイですね、はっははは。次会ったらきっと違うこと言いだしますよ~」
「んじゃあ、頑張って全員合流しても、あいつにまた出会ったらまたバラバラにされちゃうってことなのね」
だいたい、あんな可愛い女の子が出てきて、すぐに「敵だ!」なんつって襲いかかることができるわけがない。ぼやぼやしていたらすぐあの呪文が放たれてくる寸法ってこと。
な、なんて悪辣なダンジョンなんだ。
自分たち以外は一切信用せず、幼女だろうが赤子だろうが接触、即、デストロイ。そんな猛者どもにしか攻略できないんじゃないか。
「なんでもっと早くそれを言わないわけ」
「それはもちろん、禁止条項だからですよ!」
バッチョは踏まれてなるかとばかりにぶーんと宙に浮かんだ。いや、別に踏むつもりはなかったんだけど。
「それは実は敵ですよー! とか、それって罠ですよー! とか、いちいち事前に教えたりなんかしたら、ゲームが成立しないじゃないですか。ていうかどんなぬるゲーだよそれ。ナビは、基本的にはプレイヤーが自分の身体で体験した罠や魔法のことしか説明できないんですよ。当然ですよね、ぷりぷり」
ぷりぷりした尻は人差し指で跳ね飛ばすことにして。
「まぁ、そりゃそうか……じゃあとりあえず、二人を捜さないとな」
こんなやつだけど、バッチョがいてくれてだいぶ落ち着いた。
雰囲気たっぷりの地下室(ゾンビ在り)に一人でいるのは、いやすぎる。
ノアのことは、心配といえば心配だ。魔法使いだし、一人で戦うのは辛いだろう。
シロウに関しては……実力は別に不安じゃないのだけど……気になって仕方がない。この気持ちはなんだろう。どんな面白いことになっているだろうか!? タンスの中に閉じこもったりしてないだろうか。一緒にいるナビがあの、なんかいわく言い難いキャラだしな。トラウマにトドメがささってないといいけど。
■ ■ ■ ■
地下にはなにも、宝箱とか絵とかはなかった。
「あ、はしごがあるじゃない」
ドアを一生懸命探してて、壁に張りついたはしごに気づかなかったのだ。失敗失敗。と、それを登っていった。
地下から外に出るのは、それが唯一の手段だった。
ひとつひとつしっかり足を乗せながら、のぼっていく。天井にあいた穴に頭から出ていく。
はじめに見えたのは、白いなにか。
真っ暗な部屋に、白いものがぼんやりと浮かんでいる。身体をあがってきた床の上に乗せる自分の仕草が、いやにのろくさと感じられた。実際は、すごく素早かったに違いないのに。
「……だれ?」
カチ、カチと音がする。なにか噛み合わせたような。
「だれかいるの」
肩をぽんと叩かれて、振り返る。
そこに立っていたのは、スケルトンだった! 私はもちろん驚きました。驚きましたともさ。だけど、驚いて悲鳴あげて気絶したりなんかしたら、お先真っ暗じゃない!?
というか、気絶するほど繊細ではなかった。
「いっ、いやぁぁぁっっ」
悲鳴なのかかけ声なのか、区別がつかない大声を出して、思い切りそのスケルトンを突き飛ばした。
ガスッ!!! と、めちゃくちゃいい音がして、頭の上の(もはや定位置か?)バッチョがクリティカルヒットですと解説した。床に散らばったスケルトンの部品が、ふたたび結合して、立ち上がる。
それで、また私の攻撃ターンだった。足の裏で全身全霊の力を込めてけっ飛ばす。するとスケルトンはばらばらになって地面に散らばると、消えた。
「いやー、なんだか分かりませんけど強いですねサラさん! 最高! 明日の勇者は君だァ!」
「ほんとにぃ? なんか運がいいみたいだよね! やー、ははは。行こ行こ」
私は鼻歌まじりに、次に出てきたスケルトンもノーダメージで倒してしまったのだった。これはなんというか、いいじゃありませんか!
すごく戦闘が楽しい。さすがだR=R社! 自分の体を動かして戦闘を体験するゲームはいっぱいあるけど、R=R社が一番レベル高いって本当だわ。
「いやもうサラさんたら。おだててもなにも出ませんよー」
「照れるな照れるな勤労社員」
「そんな、確かにそうなんだけどファンタジーぽくないこと言うのやめてくださいよ。RPあがりますよ」
「それは勘弁」
なにか自分かすごく強くなったような気がしてたけど、なんてこたない。シロウがいないから、敵のレベルが下がっていたのである。
ウィンドウを立ち上げると、ちゃんとマップがでる。
えーと、はしごでのぼって来たこの場所は、三階らしい。この屋敷どれだけ広いんだろう? 分からない。マップはほとんど真っ暗表示になっている。踏破した場所のみ表示されるということね。
のぼってやってきたスケルトン部屋の扉を出ると、左右に廊下がのびている。
右。そして左に扉がある。
さて、どっちを選ぶか……。
「どっちにしよー、バッチョ」
「知りませんよ、ちゃんと自分で決めてください。ぼくはただのナビだしぃ~」
「……うーんと……」
なにか、ずるずると雑巾を引きずって歩いてるみたいな音がした。
ずる……ずる……ぺちゃ……と。出てきた扉を背中にして、ごくんと唾を飲み込んだ。いやだな、いやだな、と思いながら、それでもやっぱりそちらを見ないわけにはいかない。
廊下の右側から。それはそっと顔を出した。
想像してみて欲しい。曲がり顔からそっと顔を出したゾンビが、私を見つける。ずるずるに溶けた顔は一部分骨が露出してたりして、そんな顔でニタリと微笑まれたのだ。背筋が凍る。これはゴースト屋敷なんかにはつきものの、あったりまえのゾンビじゃないかと思ってもそれでもなお、ぞーっとしてしまう。
そして、そいつが、一瞬の後に全力疾走でこちらに来ようものなら!
「いいいいいやぎゃーーーーーーー!!!!!」
何語? と自分ツッコミをしているさめた部分があったにせよ、私は十二分に驚き慌てふためいて絶叫し、反対方向に、つまり左方向にダッシュした。
やっぱり一人はいやだ! 悲鳴を上げても張り合いがないというか、やっぱみんなで「いやーんゾンビよー」「腐ってるー」なんて和気あいあいとやりたいもの! どうでもいいけど、ゾンビは時間がたつとスケルトンになるんだろうか!?
ああ! こんなとき可愛らしく悲鳴をあげる才能、それがホラームービーのヒロインに必要なものなのね! 私はほんとにおよびでない悲鳴をあげながら走りに走った。そしてあやしい手つきでどうにか扉をこじあけると、中に飛び込んだ。
そして、飛び込んだ私が見たものは。
「来るなーっ!!」
とぶんぶん杖を振り回している……ゴーストに壁際に追い込まれた、ノアだったのである。
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