3章 イベント1:突撃、ゴースト屋敷
第9話 Event 1:入り口からやばい……
「んじゃ、行くとしますか!」
と私は扉に手をかけた。
ぎぃ、と気弱なきしみをたてて扉は開き、中をのぞき込んだ。
ごくりと唾を飲み込んだ。
なにか視線を感じた気がしてきょろきょろしていると、後ろから押されてそのまま進んでいった。
はじめてのダンジョン、そのはじめの一歩は、おそるおそるだった。
まず目の前に広がったのは広間。二階まで吹き抜けになっていて、中央階段が真ん前にあって、階段は壁に当たって二方向に分かれ、二階右側と左側にドアが二つずつ並んでいる。
そして階段をのぼらない場合。一階には二つのドアがある。
でも、両方とも狂ったように釘が、板がうちつけてあった。
まるで、なにかがでてくるのを恐れたみたいに。
「……………ねぇ」
「………うん」
「まずどっから行く?」
「そうだね、まず……帰ったりして」
と、何気なく入ってきた扉を振り返った。
そして総毛だった。
「お前たちはもう帰れない」と血文字でドアに書かれていたのだ!
「やあああああああっっっ」
「わ、びっくりした」
……シロウのいたいけな悲鳴の方に驚いてしまった。
「なんだよこれ、前はなかったぞ!!」
「あ、二回目だからヘ・イ・キ☆と思ってましたか兄さん。違いますヨー、毎回趣向を変えてあるんですよー」
「趣向!? これ、これが趣向だってか!!?」
シロウはバッチョを両手でつかんでぎゅうぎゅう握りしめて問う。こわがるもの、バッチョをもつかむ。……なかなかいい感触だからな。
「マップはどうする? ノア、覚えててくれる?」
「うん。いいけど」
「だいじょうぶですよー。ダンジョンはですね、ウィンドウでマップを呼び出せます! 一回行ったところは表示されます。全部表示させたい場合は、ダンジョンの地図を手に入れないといけません」
「そっか! マッピングが必要ないなら、ちょっと楽だね!」
この場所は、「大階段の間」とでもいえばいいだろうか。目の前の大階段が二階につながっている。二階は階段を見下ろすことができる細い廊下で、右側に扉が二つ。左側にも扉が二つ見える。その向こうにはなにがあるのか、はかりしれない。
怖がっているシロウは放っておくとして、ノアとどちらの道を行くか相談した。
「四つの扉かぁ。いきなり罠満載だったら困るね」
「全部鍵かかってるのか、調べないと。行こ!」
調べたところ、三つの扉には鍵がかかっていて、開いているのはひとつだけだった。
この屋敷をさすらうのも、まずは一本道で迷う余地はないということだ。
「じゃあ、誰が開ける?」
三人でしーんとした。
「ほら、君が来たいって言ったんじゃないか、サラ」
シロウが言った。
伝家の宝刀「男でしょう?」をぬくには分が悪いので、きっと睨むだけに留めておいた。ノアは、
「ほら私魔法使いだし。魔法使いは後衛だからね。後ろにいるから」
と笑顔で言い放った。
ずるいと言いたいところだけど、いきなり戦闘になっても大変だから、確かにそれは一理ある。あるけど、いや、いいんだけど、えーと。
私も開けたくない。だって、外のガイコツの牧歌的な感じと扉の血文字のホラー感、あきらかにレベルが違ったんだもの! 油断させるにもほどがあるわ!
「いや、もう。いい! 開けてやるわ。私はあの伝説の恐怖ゲー「静岡」を真夜中一人でクリアーした女だぁ!」
「あ、あのゲームを。特に最新作の4が怖いと」
「怖かったぁー!!」
バッチョが嬉しげに話に乗ってくるが、乗せてる場合ではない!
気合いを込めて扉を開いた!!
バサバサバサバサ!!
と、コウモリがいっぱいあらわれた!
音楽が切り替わる。
戦闘だ。
パーティじゃ、初めての戦闘だ!
■ ■ ■ ■
シロウが剣を構え直した。敵は四匹。コウモリって小さいもんだと思ってたけど、これはデカイ。ゾウの耳くらいあるような。
「サラさん攻撃攻撃! ぼーっとしてちゃいけませんよ!!」
「あ!」
カンナの声に体が動いた。
武闘家は一番素早く動けるのだ!
空中にいる奴らの一匹の足を捕らえて、思い切り地面に叩きつけた。
ガスッ! と音がして、敵にダメージを与えた感触。でもしとめきれなかった。コウモリはへろへろと宙に戻った。
「あぁ~~、なんていう凶暴な。なんで普通にパンチを決めないですか!」
「えっ、だって空中にいるのにパンチ当てても効かないでしょ!?」
「違いますぅ、格好は関係ないです、触っても撫でてもパンチでも今のでも、ダメージは一緒です」
「この女の凶暴さは今に始まったことじゃねぇ……あれは……そう、はじまりの台地でのことだった」
「思い出を語ってる場合じゃありませんよバッチョさぁん!」
なんかお笑いがかったパーティだよなとシロウがひとりごちている。そこで、
「1、2、3、ファイヤー!!!」
と叫ぶ声がして振り返るとノアが杖を振りかざしていた。い、いろいろとなにかツッコミポイントがあるんだけど、今はそれどころじゃない。
出てくるはずの、炎が。出てない! 魔法を失敗してるのだ!!
「そ、その杖欠陥品なの!?」
「ええーっ! お金貯めて買ったのに!!」
コウモリの一斉攻撃が始まった。四匹で私たちを取り囲み、ビシバシと当たってくる。HPが減っていく~!!
「このぉ!」
とやり返そうとするが、当たらない。
「ああーっっ、ダメです。ノアさん、パーティに加入した魔法使いは、目を閉じて呪文を唱えないと」
「だっっれが決めたそんなルールーーーーー!!!!!」
ノアが怒り心頭の叫びをとどろかせたところで、シロウが攻撃を放った。戦士はやっぱり、重いらしい。そして同時に私も、体が動かせた。
「でやぁっ!」
とシロウが手つかずのコウモリを倒し、私はさっきダメージを与えていたコウモリにとどめの一撃を加えた。つもりだったけど、しとめきれずにコウモリはよろよろとまた宙に浮かんだ。
パーティのRP平均のせいで、コウモリもレベル1や2じゃないのだ。
ああ、カルマなんてためるんじゃなかったぁぁ!
目を閉じて放ったノアの魔法が、二匹のコウモリを倒した。(レベル2のファイヤーだから、ターゲット一匹とその隣にいるモンスターを倒せるんだそうだ)そして残る一匹がへろへろと攻撃してくる。
私はそれをひらりとかわした。返す刀でパンチを当てると、モンスターは地面に落ちて、消えた。
開けられた扉の先は、狭い部屋だった。
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