第5話 Level 1:はじまりの町ギムダ
はじまりの町ギムダ。
門をくぐった途端、人いきれにむっとした。気がした。
どこを向いても人、人、人。しかもみんな冒険者! ファンタジーな格好をした人ばかり。実生活であんなシースルー着てたらつかまるし、そもそも武器なんか装備してたら、銃刀法違反だ。
だけどリングワールドにそんな法律はないのだった。万歳!
「すごいーーー!!」
まるで夢のようだった。映画の中に入ったみたい。
自分も、武闘家の格好をしてるんだけどね。
顔かたちがどんなのかはまだ確認してないけど、だいたい自分に似たキャラクター像を選択肢の中から選ばされるから、そんな「美形にヘーンシン☆」してるわけじゃない。
それはともかく、装備だ。「旅立ちの服」なんて着てるのは自分くらいじゃなかろうか!? リンダ・リングを初期に始めた人はもうプレイ時間がかなりたっているはず。私は遅れてきたプレイヤーだから、初心者丸出しかも。
「さっさと装備変えたいよー。ねぇバッチョ、武器屋はどこ?」
「待ち合わせしてるんじゃなかったんですかぁー?」
「してるけど。買い物先にしたいかも……だって、旅立ちの服なんて着てる人いないじゃない」
「みなさん『あらあの子初心者だわ』『プッ、くすくす、間抜けな顔』って笑うくらいですよ、気にすることありませんよ」
「気にするわぁぁ!!」
しかし、やなハチだ……。
さっさとお金を使い尽くすのもなんだし、友達がいい店を教えてくれるかも知れないし、やっぱり先に待ち合わせの場所に行くことにした。
■ ■ ■ ■
この町は上から見ると丸い形をしている。分厚い外壁にとりかこまれていて、四つの方角にあいた門には魔法がかかっていて、モンスターは絶対に入って来れないという話だ。
中央公園というからには、中央にあるんだろう。
と思ったらそれは正しかった。円の中に円を描くような形で公園があり、そこから放射状に道がのびている。
二時、四時、八時、十時の方向に四本の大通りがあって、それらで北区画、西区画、南区画、東区画と大まかに分けることができる。
「まず西を目指せ」と言われたことからも分かるように、初心者の台地(スタート地点はそう呼ぶらしい)があるのはギムダの東。んで、初心者がまず入ることになるのは東門、そこに広がる東区域には「初心者のための館」が揃っている。
「説明屋さんだって! 教会、宿屋、武器屋、食堂もある? ねぇ、店によって味の違いがあるの?」
「やぁもうサラさん、まんまおのぼりさんじゃないですか。説明屋さんは別に行かなくてもいいですよ。ナイスナビゲーターであるこの僕がいますからね」
「じゃあサヨナラ……」
説明屋に飛び込んでいこうとすると、バッチョが半泣きで止めた。
僕がいるのにそんなところに行くなんて、そんなことさせやしない! とかわめくので我慢して入るのはやめておいた。……説明屋って。普通、ナビは止めるだろうか、入るの。いいけどさ。
「私は説明書全然読んでなくてリンダに怒られた人間だからね。ちゃーんとサービス満点で案内するのよ?」
「誠心誠意おつとめさせていただきますです。て、サラさんもかなりのもんでげすな! 説明書読まずに行ったらリンダは怒り心頭でやんしょ? あの人顔怖いですよね、クククク」
「あんたの口調には謎が多すぎる! 普通に喋りなさいよ」
「おやびんてぇへんだてぇへんだ~」
「どうしたハチィッ!――――てのらすな!!」
びしっと手の甲で叩くとバッチョはヒヒヒヒと笑った。
中央公園は女神像のかかげた瓶から水があふれ出ている噴水があった。
沢山の人が行き交っている。エルフがいたりして、また見とれてしまう。友達がいる様子はなさそうで、かなりきょろきょろして探した。
「あっ、サラさん、あれあれ」
バッチョが指す方向に、小さな黄色いウサギがいた。
鼻をもぞもぞさせ、くるくるした濡れたような目をしたそれは私を見つけ、跳ねてきた。
「サラさん、サラさんですね。ID番号が一致しました。サラさん、こんにちは!」
「か、かわいいぃ……!こんにちは。誰?」
ほめるとウサギは両手で頭を抱えて赤くなった。
「わたしはノアさんのウサギ型ナビゲーターですぅ。カンナといいます、よろしく」
ちゃんと頭を下げる。
「まぁご丁寧に。こちらこそよろしく」
バッチョは何事も気にしないたいらかな心でブイ~ンと宙を舞っている。
「挨拶ぐらいせんか!!」
「あっとこいつぁ失礼。僕はサラさんのナビゲーターでーす。ヨロシクネ~~」
宙返りしている。
何かすごく敗北感に苛まれてしまっている……。
なんで、私のナビは、こんなブツなんでしょうか。
ウサギときたらカワイイし礼儀もしっかりしてるし、丁寧だし、素晴らしいじゃないか!! なのにうちのハチときたら!!
「えーと、ノアさんはしばらく待ってたんですけど、ずっとここで待ってるのに支障をきたしまして~……酒場に行ってますぅ……」
「え、支障ってなに? なにか大事?」
カンナは頭を抱えてぷるぷる首を振った。
「待ってるのに飽きちゃったんですぅ……」
「…………………………」
それはなんとも彼女らしい話だった。
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