第13話 外道の鬼追い(オマケ)
「潮時だな」
家々の窓に明かりが灯ってゆく様子を目を止め、
「逃がしてもらえるとでも、思ってるの?」
皐月が、男の顔を見ながら鼻先で
「何が可笑しいのよ?言っとくけど、あんたが素手だからって、容赦する気なんて無いから」
「いや、だって君……」
「?」
「ずっとチラチラ見えてるんだけど、いくら何でもクマパンは無いでしょう?」
ワンテンポ遅れて、皐月の顔がみるみると赤くなる。男の方は、抑えが効かなくなったように笑いが止まらない。
「な…ちょ、み、見たわね!」
唸りを生じさせて、
やがて皐月が息を切らせてその場に膝をつくと、そっくりな顔をもつ二人の少女が、いつの間に戻ったのか、男の両脇に
「すいません、やっぱり邪魔が入っちゃいました」
「あ、やっぱり?」
納得したように言いながら、男は、くるりと背を向ける。左右の二人もそれに倣ならい、三人は、
「御主人様~、もしかして、またセクハラですかぁ?」
いいかげん困り果てたように、背の低いほうの少女が言った。
「いや、だってさぁ、可愛かったから、つい…」
心底うれしそうに言う男の顔を見て、背の低いほうの少女は、不機嫌そうに疲労感たっぷりの声を出した。
「つい、じゃありませんよ、まったく!私達は、
「そうそう、いいかげん、立場というものを自覚していただかないと」
どちらが姉で、どちらが妹なのか、そもそも二人は姉妹なのか、二人の少女が、左右からステレオで説くように言う。
「いきなりキスして、嫉妬に狂った
背の低いほうの少女が、もう片方の少女にも、強い口調で戒めるように言った。言われたほうは、急に頬を淡く染めて、恥ずかしそうに両手を自分の頬へと当てる。
「だって、だって見鬼の視線ってさ、私たちには……わかるでしょ?」
頬を赤らめ、もじもじと語尾が小さくなってゆく。もう片方の少女も、
「と、とにかく、現在の渡辺、坂田、碓井の見鬼は未熟です。彼等が見鬼として成長してしまう前に、しかけちゃいますよ?」
念を押すような口調だった。
「はい はい は~い」
とてもよく似た二つの顔のうち、片方が明るく応じると、もう片方は、軽く唇をかんだ後、深い溜息をついた。いつのまにか、月が昇りはじめている。
それにしても────
低い月に目を止めながら、男は、つい思ってしまう。
────それにしたって、千年だぞ、千年。俺も
この千年間、地べたを這いずる者たちの行いは、遥か天空の傍観者の目に、果たしてどう映っていることやら。
柄にもなく抱いた、自らのそんな思いに、男は思わず失笑した。
つい出てしまったらしい小さな笑いを耳にとめて、背の低いほうの少女は、視線だけ動かして男の横顔を見た。高いほうの少女は、小首を傾げながら、不思議そうにまじまじと男の横顔を見る。
男は、顔を近づけてきた背の高いほうの少女の顔だけ、ウザそうに押しのけた。
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