8 白鳳騎士団
「先ずは白鳳騎士団について話そう」
小一時間ほど黙って歩いて、岩場が無くなり、灌木の小さな森が点在する平原に入った頃、ルイスがポツリといった。
「白鳳騎士団は4つの隊に分かれていて。ルドガープの6領の内、直轄領と騎士団領を抜かした4領の出身者が各領地毎に集まっている。リオ殿下を狙っているのは、リンデル領の隊だけだ」
「つまり、敵は白鳳騎士団の4分の1って事ですか。……どれくらいなんです?」
「白鳳騎士は光の章印保持者のみに限られるから数は少ない。騎士団全体で百人超える程度だよ」
1隊25人強。亮には騎士団としての規模は分からないが、25人は少ないと感じた。
「現在のリンデル隊の隊長はクラウディオという男ではあるが、彼の独断ではなく、もし直属の領主であるリンデル伯も絡んでいるなら領兵も出ているだろうな」
そうなると数百という数が追加される。一気に数が膨れ上がり、亮は苦虫を噛み潰した。
「続けよう。各領地の領主が、己の領地の隊から隊長を選び出し。4人の隊長の中から更に4領主と国王陛下の投票によって、騎士団長が選任される仕組みになっている。そのため各隊と所属領との関係は強く。先程、領主との繋がりに触れたのもこのためだ」
「領主様がリオ殿下を殺そうとしているなんて……どうしてそんな」アダムが呟く。
その呟きを聞いたルイスは、ふと悲しげに表情を曇らせた。もうすぐ説明すると、話を続ける。
「リンデル隊のクラウディオは。3年前、騎士団にエニグスの危険を注進してきたカナカレデス殿の話を唯一聞き、エニグス発生前のセヴァーに独断で隊を駐留させて、その被害を最小にくい止めた」
「む、敵にしては先見の明があるな。それに、カナカレデス殿はウィザードであろう? 上に立つ者がウィザードの話を聞くというのも珍しい事だ」
亮も確かにと頷いた。
王子を亡き者にしようなど、どんな極悪人かと思っていたが。民衆の為に動くその姿勢にギャップを感じる。
それとウィザード云々は気にはなったが、理由を尋ねるわけにもいかないので、触れない。
「ああ、そのせいもあって、現在、団内ではクラウディオの評判が高まっている。反面、現騎士団長のミリアーノは、この3年間のエニグスに対する対応の遅れから、その能力を疑問視する声が上がりだしている」
「対応もなにも、エニグスに関してはクラウディオに一任されているんですけどね」リオが溜め息まじりに、そう付け足した。
「騎士団長選任選挙……」
亮は側にいたアレッサが自問するように呟くのが聞こえ、自分も引っかかっていた言葉だと記憶を探った。
「今、ザルパニで!」
亮が声を上げると、ルイスが深く頷いた。
ザルパニに到着した時、兵士に騎士団長の選任選挙が行われると言われた。ルイスが言っていた騎士団の内情が関わるならこれしかないだろう、しかし。
「そんな事のために……?」
「そうだよ。ミリアーノにとって殿下の運ぶ太陽の輝石は、起死回生の一手。それを妨害し、騎士団長の座につくのがクラウディオの狙いだ」
「それに、セヴァーまでの途上で私に何かあれば、私を護衛していたミリアーノのエシラン隊の責任という事になって好都合という事もあります」
「この非常時におよんでなお、王族の命を巻き込んで権力争いとは。相も変わらず人間は悠長であるな」
ニカイラに言われて、残る人間達は苦笑いを浮かべるしかない。亮も、どの世界だろうと人間は変わらないものだと、内心思っていた。
「それが最良だと思っているのさ。自分がトップに立てれば今より良く出来るとね。そのためなら殿下の命も騎士団の名声もささやかな犠牲でしかない」
「でも、リオ殿下がいなかったらいつまでもエニグスに怯える事に」
「そうでもないですよ、別に私ではなくても輝石があれば、炎と光の双印を持った人はいますし。それに私がいない方がリンデル伯にとっては都合が良いでしょう」
「殿下!」
ルイスの声を受けて、リオは口をつぐんだ。
「リンデル伯の関与に関しては、はっきりとしていない。すまないが今のは聞かなかった事にしてくれ」
まだ何かあるのかと訝しんだが、梃子でも口を割りそうにない。亮は諦めて話を変えた。
「それで、セヴァーに着いた時の安全はどうなるんですか? 騎士団頼りでしたし」
「セヴァーには2隊の白鳳騎士団が駐留している。1隊はクラウディオのリンデル隊だが、残りは地元のレアリード隊だ。こちらは味方になってくれるはずだ」
さてどうしたものかと、亮は思案した。
騎士団内でのゴタゴタに巻き込まれ、リオ殿下暗殺の事情を知ったからには見逃してもらえる事もないだろう。
もとより知っていようがいまいが、数人の旅人を口封じする事に躊躇はないだろうが。
結局自分の立場というものがわかっただけだ。亮は胃が落っこちていくような不安感を覚え、人知れず小さく溜め息を着いた。
敵は白鳳騎士団で、頼みの味方も白鳳騎士団。
クラウディオの存在が騎士団が清廉潔白な集団ではないと物語り、それが枷になって頼みのレアリード隊を信用しきれない。
それは全員、恐らくルイスですらそう感じていると思われた。
それでもルイス達はセヴァーに行くのだから、亮も従わなければならなかった。
身を守るのも、保護を訴えるのも結局はルイス達頼りで、別の街に一時避難するというのも無理に思える。
別の街に思考が及んだところで、ふと思い出した事があり。亮はそう言えばと小さく呟いた。
「そう言えば。どうして騎士総本館に戻って新護衛隊を編成しなかったんですか?」
ルイスは、それは……と言いよどむ。
「私が頼んだのです、このまま秘密裏にセヴァーまで連れて行ってほしいと」リオがルイスの後を引き継いだ。
「騎士総本館まで戻ると、どうしても事情を説明しなければなりません。総本館には騎士以外にも働いている人はいますし、騎士団の王族殺しなんて刺激的な事件はあっという間に広がってしまいますから」
「マズいですか?」
「ルドガープは強固な軍隊を持っていません、ランサスやバニエスタを抑えるには白鳳騎士団の威光が必要なのです。バニエスタが怪しい動きを見せている今、白鳳騎士団が内部分裂しているのを知られるのは避けたいので」
バニエスタはルドガープの東に隣接する国だ。
亮の持つ地図では全景はわからないが、記されている範囲で見てもルドガープよりも大きい国ではある。もちろん、縮尺があっていればだが。
「もちろんクラウディオを野放しにするつもりはありません、内々になりますが処分はします。そのためには騎士団長になってはほしくないというのもあり、実は選任選挙の為に急いでいたというのもあるんです」
「なるほど」
選任選挙でクラウディオが騎士団長になってしまえば、就任直後に騎士団長が更迭される事になる。
そうなると事件の裏を探ろうという動きが出てもおかしくないからか。
亮は一応は納得した素振りを見せてはいたが。ルイスの反応の事もあり、少々腑に落ちない気分ではあった。
それでも延々と考え事しているわけにもいかない。見通しが良いということは、敵に見つかり易いということだ。
先程の騎士を逃した事で、こちらがこの平原に入った事は知られている。騎士が仲間と共に探索に出たとしたら、見つかる可能性は高い。
探索範囲の広さだけがこちらの利点で、徒歩と馬では速度が違いすぎる。出来る限りこちらが先に発見し、身を隠さないとならない。
そのためには常に周囲には気を配っている必要がある。
平原といえど緩やかな起伏が続いていて、所々に灌木の林や、背の高い草の茂みなどがあって、身を隠す場所には困らなかった。
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