6 闇中の乱戦
松明を拾うと、部屋の状態を見て回る。部屋の半分は天井からの土砂で埋まり、その土砂で他に続くであろう通路も塞がっていた。
地上へ通じるであろう階段もあるが、地上の建物が崩れた瓦礫で厚く塞がれて。この道は、ここまでのようだ。
結局最初の部屋に戻ってきた三人は、最後の大きな通路に進んだ。
「ここはあれだな。地上の建物を地下で繋ぐ通路だったんだな、きっと」
小さくなった松明を新しい物と代えながら、グンナロが呟いた。
「ろくな物が無いかもって事?」サラの瞳に失望の影がうかぶ。
「けど。精霊結晶はもう少し下にあるんだけど?」
「更に地下があるわけね」すぐさま輝きを取り戻し、にっこり微笑んだ。
何とも便利な性格だと、亮は羨ましく感じる。
通路を進むと左右の壁に、いくつもの扉が現れた。
中は3メートル四方ほどと小さく。崩れたベッドと机があるだけのシンプルな部屋だ。
グンナロとサラが、左右を手分けして探索しながら進んでいると。サラの開けた扉からスケルトンが飛び出してきた。
サラは冷静に剣を抜き放つと、電光石火の一撃を放つ。スケルトンの首が一瞬にして切断され。亮が驚く間もなく、スケルトンは崩れ落ちた。
「余裕しゃくしゃくー」亮に向かって悪戯っぽい笑顔を見せる。
その時、更に通路の奥からスケルトンが走ってきたが。それは、ちょうど部屋から出てきたグンナロに、難なく粉砕された。
「細々と物があるな」気にする様子もなくそう言ったグンナロの手には、いくつかの小さな宝石があった。
「狙いはでっかく、ベテシュ王家の秘宝よ」
とはいっても、サラも細かい物を置いていくつもりは無いらしい。亮のリュックに、何かぱらぱら放り込んだ。
そのまま進むと通路は突然終わり、一行は広いホールにたどり着いた。
壁の形から円形の部屋だと思われるが。広すぎて、その全景を照らし出す事は出来ない。
部屋の中央には、縁に手すりのついた、大きな穴が開けられていて。床の一部が、穴の中心へ数メートルほど橋のように続いている。
その周囲に二体のスケルトンがうろついていたが。グンナロとサラが突撃し、一瞬のうちに排除された。
「でっかい穴だね」
部屋の大半を穿つ大穴を、サラが覗き込む。
橋は先ほど見えていた長さで終わっており。そこからは、下り階段になっていた。亮がランタンで階段下を照らすと、一瞬何かが煌めき。サラも気になったのか、確認しにゆっくり下りていく。
そのとき、亮の耳に微かな足音が聞こえた。
グンナロを見れば。気付いた様子もなく、サラの様子をのぞき込んでいて。兜が耳を覆っているので、物音を感じづらいようだ。
亮が素早く周囲を照らすと、闇の中を駆けてくる、四体のスケルトンが照らし出された。
「グンナロ、敵だ!」
グンナロはすぐに反応した。
唸るような雄叫びと共に飛び出し。盾で殴りつけ、松明を打ち付ける。
すぐさま松明を投げ捨て、メイスに持ち替えて一体を粉砕したが。続けて繰り出した横なぎは、踏み込みが足らず。腕を吹き飛ばしただけだった。
三体のスケルトンに掴みかかられ、全身を使ってふりほどく。間合いを離した隙に、一体を倒したが。闇の中から更に三体のスケルトンが駆けつけてきた。
「何体いんだぁ、こいつらぁ!?」
グンナロが、思わず情けない声をあげる。その時、別方向からスケルトンが現れ、亮に襲いかかってきた。
亮の眼前を閃光が走り。スケルトンの目の穴に飛び込んだカトラスの刃が、その後頭部を貫く。サラは盾を打ち付けて剣を引き抜くと、亮に後ろに行くように言って。新たに現れた二体のスケルトンに向かっていった。
グンナロは肩で息をしながら、七体目を打ち砕いた。
いくら弱いといっても、無数に現れるのでは徐々に圧されていく。
サラの武器は切断が主なので、スケルトンを相手にするにはメイスほど有効ではない。
それでもなお、新たに数体のスケルトンが闇から姿を現す。
亮は苦戦する二人を見て、不甲斐ない自分に対し、怒りで頭が沸騰する。恐れている場合ではない。
ランタンを階段のすぐ脇に置くと。残っていた松明に、落ちているサラの松明の火を移す。それを周囲の闇に投げ。敵の姿を確認し易くした。
「俺は大丈夫だ、こっちまで下がれ!」
亮がいるのは、穴の階段まで続く橋の部分。
狭くなったこの場所なら、スケルトンに背後を取られないよう注意を巡らせる必要がなくなるのだが。
現在は、スケルトンを亮に近付かせないように、二人は前に出て。結果的に広い所で戦っていた。
亮は斧を手に前に出ると、叫びと共にサラにまとわりつく一体に振り下ろす。それは、頭部をかすめ、右肩を大きく叩き斬り。スケルトンの右腕が床に落ちる。
「大丈夫なの?」
サラの問いかけに「大丈夫だ任せろ」と斧を握り直して応える。
正直な所。深く考える事をやめているので、かろうじて何とか大丈夫といった感じだが。それを言うのはやめておく。
「父さん橋まで下がるよ。少しお願い」
グンナロは「あいよ」と短く応え。三人は一斉に下がる。グンナロが一人で全員を食い止めている間に、サラは盾を外すと亮に渡した。
「鎧無いんだから気をつけてね。父さんの左を抑えれば良いから」
いまいち考えが読めなかったが、亮は頷きを返し、盾を腕につける。
それを確認したサラが自分の剣を差し出すのを見て、サラが前線に出ないのであろう事はわかった。
「あたしは後ろから助けるよ。無理はしなくていいからね」
「何とかやってみるさ」剣を受け取ると、亮はスケルトンに突撃した。
踏み込みも、体捌きも一切なく、ただ全力で剣を振り下ろす。頭部に入った一撃は、深く頭蓋骨にめり込んだが。両断するほどの威力はなく。手首にかかった痛みを堪えながら、剣を引き抜いた。
スケルトンは、すぐさま噛みついて反撃してきたが、盾で受け止める。
がりがりと表面に噛みつく音を聞きながら、全体重をかけて押し返したが。そこ隙をもう一体に襲われ、慌てて剣のナックルガードで殴りつけて引きはがす。
よろけたスケルトンの頭が、次の瞬間消滅した。
メイスを振り抜いたグンナロが、にかっと笑う。兜の隙間からでも、玉のような汗をかいているのが分かった。
改めてスケルトンに向き合うと、亮の背後から閃光が脇をかすめて走る。閃光はスケルトンの頭部に当たると炸裂し、その大半を吹き飛ばす。
亮は、またも突然、目の前のスケルトンが倒されて驚いたが。振り返り、松明を構えるサラの動きを見て状況を察した。
サラは、静かに呪文をつぶやき始め、空中に複雑な図形を描く。それは発火の呪文より、複雑で長く、丁寧だ。
詠唱の終わりと共に松明の炎を手で払うと、それを受けた炎の一部が横に飛び出す。
それは、すぐさま
確かにこの通路では、三人並ぶ事は出来ないだろう。素早く敵の数を減らすには、これが一番早く思える。
それでも、目の前に群がるスケルトンの数はまだ多く。残る数など考えるのを止め。無心で剣を振るい続けた。
数分後。白骨の山を前に、死んだように座り込む三人の姿があった。
グンナロは兜を外すと、その涼しさに大きく息を吐いて、鎧の襟元をばさばさと扇ぐ。
サラは顔面蒼白で、うなだれながら精神疲労から来る頭痛に耐えている。
亮はと言えば。今頃になって足が震え、目眩と吐き気もあり。更に、全身にいくつかの打撲を負っていた。
「おまえら、大丈夫か?」
グンナロの呼びかけに、亮は「何とか」と応え。サラは微かに手をあげた。
亮はリュックから水の入った革袋を取り出し、グンナロに渡す。グンナロは一口あおると、サラに放る。サラも一口飲んで、革袋は亮に戻ってきた。
「やったじゃねぇか、リョウ。助かったぜ」
そう言ってグンナロは、亮の背中を乱暴に叩く。打撲の上を叩かれ、声も出せずその場に突っ伏した。
「いやぁ、わりぃ」申し訳なさそうに頭をかく。
「スケルトンに殴られた時より痛ぇ……」
それを聞いたグンナロが、爆笑した。それから立ち上がり。動けない二人を置いて、残りがいないか、周囲の探索に出た。
「どんだけスタミナあんだよ、あの人」
「動けるなら、もっと一人で戦って欲しかったわ」
サラのぼやきに、二人は同時に吹き出す。
亮は何とか起き上がると、サラの側まで行き。武器を返した。
サラは渡された自分の剣を見ると、唸る。
「酷い刃こぼれ。これじゃ打ち直さないと」
「あ、ごめん」
リュックから砥石を取り出し、刃にかけ始める。
「捻ったでしょ。まったく。他人のなんだから、大事に扱ってほしいですよ」
「すみません」
謝罪に満足したのか、よろしいと頷いた。
一通り手入れを終えると、砥石をしまい。代わりに包帯の入った袋を取り出す。
「ほい、じゃあ服脱いで」
「はぁ!? なんで!?」
「怪我してるんでしょ? 鎧着ているわけでもなし。さっさと脱ぐ」
大丈夫と言い張ったが、怪我した肩を掴まれ悲鳴をあげ。断る事が出来なくなった。痛みに顔をしかめながら、渋々、服を脱ぐ。
「変わった服だよね」
「ほっとけ」
最後にTシャツを脱ぐと。突然サラが、おぉと声を上げる。
「なんだよ?」
「肩噛まれた? 綺麗な歯型」
見れば綺麗に紫の点線が描かれていた。
「みたいだな。覚えてないけど」
何しろ必死だったのだ。今思えば、むしろ覚えている事の方が少なく感じる。
サラは傷に軟膏を塗り、包帯を巻いて。一通り応急処置が済んだ頃、グンナロが鎧を鳴らしながら帰ってきた。
「遺跡内のすべてのスケルトンとやりあったらしい。なんもいやしねぇ」
どうやら、ついでに探索もしてきたらしく。リュックに持っていた宝石を放り込む。
グンナロによれば、四方に通路が伸びていて。来たときと同じような部屋が並んでいたらしい。それら通路は最終的に土砂で埋まってしまっていて。そこで引き返したと話す。
亮は今までの道のりと、グンナロの話から。この遺跡の構造を石畳に書いた。
この階は。正方形の中にXを書いた構造のようで。正方形の角には部屋があり。以前は、それぞれ地上への階段があったはずだ。
いま、自分たちは遺跡の中央。Xの線が交わった所にいる。
「んじゃ、後は下だけ?」
「そうだな」
「問題がなければ行こう」再び服を着た亮が、立ち上がって確かめるように何度か屈伸をする。
「大丈夫なの?」
サラの心配そうな眼差しに、亮は笑顔を返す。
さっきの戦いは、亮に十分な自信をつけさせた。サラやグンナロの強さをみて、自分の弱さもわかったので、分相応の自信というやつだ。
「サラこそ大丈夫か?」
茶化すように言うと「誰に言ってんのよ、誰に」と、跳ねるように起き上がる。
「じゃあ行くか」
グンナロも起き上がって。最後の松明に火を移すと。三人は並んで、下り階段を進んでいった。
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