幕間 神の座する空の果てで

「…………ン?」


 遥か空の果て、空には常に星が瞬き、眼下には星が息吹を奏でる光景が映る。

 そこにただ一人、神と呼ばれた者が座していた。


「始まりは憎しみ……」


 百年余りの時を過ごしたその場所で、彼は待っていた。

 いつ現れるとも知れない、希望の種火を……。


「その果てに待つのは希望か……絶望か……」


 絶望に転じようとも、止まることは許されない。

 今止まることは、この世界の滅亡を意味しているからだ。

 だからこそ、長い時の中でも一人でも耐えられた。


災厄マギステラのまま終わるか、マギステラ魔法の太陽となるか……」


 そう呟くと、傍らに気配を感じ、その方を見る。

 そこに居たのは銀色の長い髪を持つ、少女のような見た目をした生き物であった。


「来ていたのか……ミストルティン」


 ミストルティンと呼ばれた生き物は、彼に歩み寄ると


「ああ、今までにない爆発的な気配の増幅を感じたのでな」


「オレもそれは観測した。だが、まだ足りない」


「今は足りんだろう。だが、間違いない…………芽吹き始めたぞ。お前さんが蒔いた種が、ようやくな…………」


 そう言ってミストルティンは彼の肩に手を置き、ニィと怪しげな笑みを浮かべる。

 彼はそれに反応することもなく、淡々と言葉を返す。


「種をばら蒔いたのは貴様だろう…………オレがやったのは水やりだけだ」


「面白い言い回しだな!かかっ!確かにその通りよ!」


 心底面白そうに、ミストルティンは大仰に星空を仰ぐ。

 そして


「存分に水を撒くがよいわ!育とうが枯れようが、一度は貴様の尻拭いぐらいはわしがしてやるわ!」


「何をほざいている。お前に尻拭いされるような事態になることはない」


「そうであればよいがな……」


 ミストルティンはそう返すと、光になって彼の前から消える。

 再び一人となって、彼は空を見上げると、星空に語り掛けるように呟いた。


「オレに力があれば、何もかも救えたのに…………」


 そこにあるのは果てしない後悔と、始まりの日に交わした約束。

 大事な人と交わした、最初で最後の、世界を掛けた約束を思い出しながら、彼はただ静かに眼下の星に視線を戻した。

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