第七戦 新人狂想曲

「おい、なんだこれ……」


 基地の工房に呼ばれたアルスは、目の前に置かれた珍妙な新兵器を見て表情を無くしていた。


「なにって~ドリルに決まってるじゃないですか~♪」


「これを俺に使えってか!」


 というアルスとミリーの一問答をしているのを傍らで見ていたメリナダは、溜め息をついて一枚の紙をアルスに渡した。


「これを見ろ。この間、測定し直したお前の量子掌握量だ」


「はぁ?……って、リアクターの許容量越えてんじゃねぇか!」


「そうだ、このままだと他の兵装に過負荷が掛かるからな。新しい兵装を追加して出力を分散する事になった」


「いや、それならデュランダルの出力調整すりゃ済むんじゃねぇのか?」


 そうアルスが疑問を投げかけると、ドリルを抱えたミリーが近寄ってきて、ドリルをアルスに手渡した。


「それは無理なんですよね~。リアクターの出力を分散するだけならそれでいいんですけど~、分散したい出力は量子掌握量なんですよね~」


「じゃあリアクター増設とか出来ねぇのかよ」


「リアクターを増設すると~今度は過剰動力で各種装備があっという間に焼き切れてしまいますので~……今のままでも焼き切れてご臨終ですけど~」


 そう言って、ミリーは整備中の分解されたフレスヴェルグに目をやる。

 それにつられてアルスもフレスヴェルグを見ると、最近は訓練ばかりなので装甲には損傷は少ないものの、広げられた内部部品はどれもこれもくたびれており、交換とかかれた札が貼られていた。

 まさしくご臨終である。


「すげぇな、あんな風になるのか」


「ええ~そうですよ~……ここ一ヶ月ですでに三回目の大幅な部品交換です~」


「三回って……さすがにねぇだろ…………」


 と言ってアルスはメリナダを見る。

 するとメリナダは目を伏せ、ただ静かに頷いた。

 それに合わせるように、ミリーは指を立てて見せる。


「一回目は私が着任した直後で~、二回目は二週間前ですね~。それに合わせて今回の新装備開発と訓練でここ一ヶ月眠くて仕方ないです~」


 そう言ってメリーは目の下にクマを作った顔のまま、アルスを死んだ魚の目で笑って見ていた。


「こっち見んじゃねぇ…………」


「うらめしや~」


 そう言ってミリーはお化けのまねをやりだして、アルスは距離をとった。

 その様子を見ていたメリナダは


「ええい話が進まんだろうが!」


 そう叫んで二人に拳骨をお見舞いした。


「痛っ!」


「いちゃい!」


 二人が立ち直るのを見て、メリナダはミリーに


「これが終わったら休んでいいから、早く説明をして試験を終わらせるぞ」


「はい~!」


 そして休みの許可をもらったメリーは元気を取り戻し、アルスの持っていたドリルをもう一度受け取り、説明を始めた。


「これはですね~、リアクターを介さずに動かせる新装備なのですよ~」


「リアクターの動力じゃ動かないってことか」


「はい~その通りです~。代わりに掌握したマギカ粒子それ自体を動力として稼動するようになってます~。そうすることでリアクターに流れ込むマギカ粒子を抑えて、生産される動力を下げる事が出来ます~」


「なるほど」


「稼動部にリアクターの核でもあるマギカ量子結晶を使ってて、訓練しだいで自身の一部のように扱えるようになるはずです~。今はドリルですけど~、基本はクローアーム形態で運用してもらう事になると思います~」


「変形するのかよ……」


「変形しますよ~♪先端はタングステン鋼で、基幹部分には装甲にも使われている純粋鉄を使っています~」


 説明を聞いたアルスは、改めて新装備を見た。

 まだ試験品の為、一切塗装がされていないため鉄がむき出しのままだ。

 稼動部にはクリスタルのようなマギカ量子結晶で出来た部品が見える。

 そしてアルスはミリーからドリルを受け取ると、少し離れてマギカ粒子の掌握を開始した。

 すると自然とドリルに組み込まれた量子結晶が反応し、金色の輝きを放ち始める。

 それを確認して、ミリーはアルスに声をかける。


「手首を回すイメージでマギカ量子を運動エネルギーに変成するんです。それで回ります~」


 アルスは指示されたとおりにイメージと変成を行うと、ドリルが回り始めるのを確認した。


「なるほど……そういうことか」


 感覚を掴んだアルスは、なにを言われることも無くドリル形態からクロー形態へと変形させた。

 その大きさは、人一人を掴めるほどに大きく、鷲の足を模した形状をしていた。


「おお~流石ですね~!」


「ほう……」


 その様子をメリナダは感心したような、懐かしいような顔をして見ていた。

 そして


「その様子なら、すぐにでも訓練で使えそうだな。よし、そのままどこまでの性能が出るのか測定するぞ」


 そう言ったメリナダを、ミリーが絶望の表情で見た。


「……後は私がやっておく。ミリー、お前は今日はもう休め」


「お疲れ様でした~!」


 と、すぐさま工房を出て行ったミリーを二人で見送った。

 その様子を見ていたアルスは哀れむように目を細める。


「……限界だったんだな…………」


「お前が原因だがな…………」


 メリナダはそう言って、タバコに火をつけた。






 とりあえず、とコクーン艦橋で訓練をしていたリグレッタは、メリナダお手製戦闘シミュレータと格闘していた。

 ただのゲームのように思えるが、これがなかなかにハードで一通りの作戦もクリア条件を満たせていなかった。

 それもそうである。

 友軍は平均値であるものの、敵軍はこの422部隊を基準にしたデータを使っており、ハードを通り越してもはや鬼畜であった。


「改めて思うんですけど、戦力的にクリアできるように出来てませんよね?」


 そう呟いて、あっという間に制圧されてゆく友軍マークを眺めながらキーを打つ手を止めた。

 そして訓練に随伴していた箱……もといロウが垂れ幕を下げる。


『バランス崩壊の極み』


 教官は当てにならなかった。


「はぁ……ガレッタさんならもう少し教えてくれそうですけど……」


 そう言って傍らの箱を見るものの、垂れ幕が下がる様子は無い。

 最初こそガレッタが各種計器の見方や、火気管制システムの操作方法など必要な事を教えてくれていたのだが、一通り教え終わるとあまり相手にしてくれなくなったのである。

 原因の一つに、リグレッタがすぐに覚えて正確に運用出来てしまったというのもあるが…………。


「嫌われてるんですかね……」


 リグレッタは自身には身に覚えが無いものの、どこか自分を避けているような感じがガレッタからしていたのである。

 すると、突然頭の上に手を置かれ声が聞こえた。


「嫌ってなどいないでござるよ……」


「え?」


 バッと後ろを振り返るも、そこには人影など無かった。


「ロウ……先輩?」


 そう思って箱を見るも、箱は微動だにせずそこにあったままだった。






 その日の夜、ガレッタは箱を探して基地を散策していた。


「まったく、必要なときはいるくせに、用事があるときは探しても見つからないのですから困ったものです」


 一通り探し回って、ガレッタは諦めて兵舎の自室に向かって歩き出す。

 すると、兵舎の入り口でアルスを見かけた。


「ヴィアイン伍長、どうしたのですか?ここは女子兵舎ですよ……まさかとは思いますが……」


「変な勘違いしないでくれよ。食堂の奴からミリーが飯食ってないから早く呼んで来いって言われて来たんだ」


「おや、ミリーさんは本日はあなたの新しい兵装の性能試験があると聞き及んでいましたが、一緒ではなかったのですね」


 そう言われたアルスはばつが悪そうに頭を掻きながら、


「どうも俺のフレスヴェルグが原因で寝不足らしくてな……」


 ああ、なるほど……とガレッタはおおよその事情を察して頷いた。


「そういうことなら、あの子に頼めば呼んできてくれるのではないですか?」


 ガレッタの言うあの子とは、リグレッタの事だ。


「それを頼んでかれこれ10分ほど待ってんだが……戻ってこねぇんだよ」


 そう言ってところで、兵舎から元気な声が聞こえてきた。

 件のリグレッタである。


「お兄ちゃん!」


「悪りぃな、ミリーの奴どうだった?」


「ミリーさん揺すっても叩いても起きません!」


「こうなったら隊長呼んで叩き起こしてもらうしかねぇな……」


 兵舎から出てきたところで、リグレッタはガレッタの存在に気がついて、あわてて敬礼をして、姿勢を正した。


「ガレッタ先輩お疲れ様です!」


 それをガレッタはいつもの冷ややかな視線で一瞥すると、


「お疲れ様です。では、私はこれで……」


 そう言って兵舎の中へと入っていった。






 逃げるようにアルスとリグレッタと別れ、まっすぐに自室に行き鍵を開けると、部屋に入るなりすぐに鍵をかけた。


「はぁ……」


 溜め息をついて背を扉に預けると、その傍らに先ほどまで探していた箱がいる事に気がついて、さらに溜め息を漏らす。


「不法侵入とは感心しませんね」


 そして垂れ幕が下がると思っていると、箱のふたを開け、中からロウが姿を現す。


「不法侵入は拙者の専売特許でござるよ」


 それに少し驚くものの、すぐにいつもの仏頂顔に戻るガレッタ。


「何のようですか?」


「それはこちらの台詞でござる。拙者を探していたのでござろう?」


 図星を突かれてさらに不機嫌な表情になるガレッタを見て、ロウは溜め息をついてやれやれといった様子で肩をすくねた。


「あの子の事でござろう……上手くいっていないのは聞いているでござるよ……」


 ロウがそう言うと、ガレッタはギロリとロウを睨みつける。


「あなたにだけは言われたくありませんね」


「そう睨まないで欲しいでござる……今、あの子は隊長謹製のシミュレータで苦戦しているでござるよ……拙者では教えてあげられないゆえ、教えてあげて欲しいでござるよ」


「あの子が苦戦?ありえません」


 そう、戦律の再来と呼ばれた天才がそうコンピュータごときに遅れをとるとは考えにくい。

 それこそメリナダが何かシミュレータに仕込んでもいない限り……と、そこである事を思い出す。


「そう思うのなら、一度でいいからあの子の訓練に付き添って欲しいでござる」


(まさか、そこまで似ているというのでしょうか……)


 戦律と呼ばれた男が唯一苦手とした事があることを、ガレッタはよく知っていた。


「わかりました。そうさせていただきます」






 翌日、アルスは新装備の第一次実践運用試験のために、ミリーを伴って訓練場を訪れていた。

 比較的に小さい基地の為、訓練場の使用許可は簡単に下りたのである。

 ちなみに、メリナダは基地司令部で今後の活動方針と、作戦目標の指示を受けに行っているため不在であった。

 アルスとミリーに去り際に


『無茶をするんじゃないぞ!いいな!これ以上私の胃に穴を開けてくれるなよ!!』


 と釘を刺して行ったが、果たしてこの二人にそれが届いたのかは定かではない。


「で、何からぶっ壊すんだ?」


「いきなり飛ばしますね~。そういう悪乗りは大好きですよ~♪」


 いや、届いていなかった。

 アルスは早速、訓練場に配置されたダミーターゲットのコンクリートブロックの前に立ち、左手に持ったドリルを量子掌握と同時に動かして、準備万端というようにミリーにアイコンタクトを送る。

 それを見たミリーはアルスから離れ、各種計測器を内蔵したお手製端末を起動し、目の前に複数の半透明のモニターを展開した。

 それを見たアルスが


「それすげぇな……」


「特許取得済みです~」


 とミリーはえっへん!と胸を張って自慢げにそう言った。

 ARMsに搭載されているモニターは、網膜投影であるため、それを見ている本人しかモニターを確認できないのだが、ミリーの使って見せたそれは他の人間にも見る事が出来るという、いままでのフリーディスプレイ技術からしたらとんでもない品物である。

 ただし、量産化に難ありということで、あまり普及していないのだった。


「それよりも先輩~、早いとこデータを取ってしまいたいのですが~」


「ん?ああ、わかってる」


 そしてミリーにせっつかれる様に、アルスは左手のドリルを回転させ始める。

 ドリルの回転速度が目に見えて上がっていき、粒子フィールドがその勢いを受けてグニャりと歪んで見える。


「回転速度は上々です~」


 そしてそれを聞いたアルスは、さらに回転速度を上げ、ついには掌握したマギカ粒子のほとんどがドリルに飲み込まれるように流れを作っていた。

 その余波は十数メートル離れたところで観測しているミリーのところまで届き、ミリーの雑多にまとめられた髪がバサバサと激しく波打つ程である。


「いくぞ!」


 そんな状態のドリルをアルスは思い切り突き出し、轟音を響かせ目の前のコンクリートブロックをものの見事に貫いた。

 その強烈な一撃と引き換えに、左手のドリルはその先端部分が消え去って、もうドリルでもクローでもなくなっていた。


「…………壊れやがったぞオイ……」


 アルスは半眼でミリーの方を見ると、顔から血の気が引いたように青ざめているのが分かった。


「重大な強度不足ですね~……ですがそれよりも~…………」


 とミリーはアルスがぶち抜いた先を指差して


「…………あれ、師匠になんて説明しましょうかね……」


 そこには、見事に穴が空いたコンクリートブロックに、さらにその向こう側にある壁にも同じような穴が空いていた。

 穴を覗くと、その更に向こう側にも穴が続いている。

 アルスは振り向く事無くミリーに告げた。


「……ズラかるぞ」


「あいあいさ~!」


 二人は脱兎のごとく訓練場を後にしたのだった。






「あの馬鹿共はどこ行った!!!!」


「ひぃ!?」


 日々メリナダ特製戦闘シミュレータで訓練しているリグレッタの元に、血走った目でアルスとミリーの二人を探していたメリナダが訪れた。

 あまりの形相に、リグレッタは思わず悲鳴を上げた。


『ここには来てない』


 と垂れ幕を出したのはいつものロウである。

 それを見たメリナダは、顔面を鬼の形相に進化させ、リグレッタに告げる。


「奴らを見つけたらすぐに私に報告しろ…………イイナ?」


「り、了解でありますです!」


 このとき初めて、リグレッタは見ただけで人を殺せるんじゃないだろうかという顔を目撃する事になってしまった。

 もう涙目である。

 そしてメリナダはリグレッタの元を後にして、またどこかへ駆けていった。


「心臓が……」


 安堵と同時に胸を押さえ、嫌な汗が出てくるのがわかった。


「お兄ちゃんとミリーさん、大丈夫かな?」


 その呟きに、垂れ幕はちゃんと答えた。


Guilty有罪!』


 それを見て、リグレッタは遠い目をして二人が締め上げられる図が脳裏をよぎる。


「……もう駄目かもしれないです…………」


 そういていると、メリナダと入れ替わるようにしてガレッタがやってきた。


「なにをしているのですか?」


 リグレッタの様子を見て、ガレッタはロウに尋ねる。


『実はかくかく云々で……』


「……なるほど、あとで用務員にそこの箱を処分してもらえばいいのですね?」


『中身は処分しないでお願いだから!』


 と、いつもの調子で二人のコミュニケーションは始まった。


「先ほど、例の二人が訓練場でやらかしたと聞きました」


「……何をしたんですか?」


 恐る恐る、リグレッタは事情を知っているらしいガレッタに尋ねてみる。


「実践運用試験中に、新兵装を暴発させて基地に風穴を開けたそうです。幸い怪我人はいないという事ですので、始末書で済ませるそうですが、当の本人たちが雲隠れして隊長がブチギレたと……」


「なんで逃げちゃったんですか二人とも~!」


 余計に自体を悪化させていたのはアルスとミリーである事に、二人の近しい人間として頭を抱えるリグレッタなのであった。

 そして、そんな様子を見ていたロウ


『もはや背水の陣……』


 他人事のように垂れ幕を下ろした。

 しかし、ガレッタの方は憂いたような、羨ましいようなよく分からない表情を作り


「いいのではないですか。これくらいが普通でしょうし……」


 そう言ってガレッタは目を伏せたのだった。

 リグレッタはそれを見て、良くは無いような……と苦笑いを浮かべた。


「それはそうと」


 とガレッタはリグレッタを見て


「シミュレータに苦戦しているとお聞きしましたが、私でよければアドバイスしますよ?」


「本当ですか!?」


 リグレッタは嬉しそうに目を輝かせ、椅子から身を乗り出していた。

 その様子にあっけにとられながらも、ガレッタはリグレッタを落ち着かせるように肩に手を置いて椅子に戻るように促す。


「一先ず、そのシミュレーターの様子をやって見せて頂けますか?」


「あ、はい!」


 そう言われ、リグレッタはシミュレータを起動して、一通りの流れを見てもらった。

 そしてそれを見たガレッタは、頭を抱えて溜め息をついた。


「まさかとは思っていましたが……」


「え?な、なにか不味いところでもありましたか?」


 ガレッタの予想は的中していた。

 この様子では、おそらくどれだけやってもクリアにたどり着くのは不可能だろう。


「変わって頂けますか?私がやってみますので、よく見ていてください」


「はい!どうぞ」


 ササッと席をガレッタに譲り、リグレッタはモニターの見える位置に移動して様子を見る。


「では、はじめます」


 そう言ってガレッタはキーボードを高速で撃ち始め、それに呼応してシミュレータ内の友軍が侵攻を開始する。

 そこからが早かった。

 瞬く間に敵を分断し、撃破不能と思われていた敵を括弧撃破して、本隊を制圧したのだ。


「すごいです!どんなにやっても分断できなかったのに……」


 リグレッタは正直に感想を述べる。

 それに対し、ガレッタは


「このシミュレータは単純に、分断できるタイミングがあらかじめ設定されていたのです。ですので、その時までに部隊を配置し、分断しなければ後にも先にもそれが出来なくなる仕様だったようですね」


「え?それって普通の作戦で役に立ちます?」


「立ちませんね」


 二人の間にしばしの沈黙が流れた後、ガレッタがリグレッタを見てこう言った。


「リグレッタさん……あなた、ゲームが苦手でしょう?」


 そう言われビクッと身体を振るわせるリグレッタ。


「えと……はい、実はそうなんです…………」


「やはりそうでしたか……隊長に進言して、演習訓練のほうに回れるようにしておきますので、このシミュレータでの訓練は避けたほうがいいでしょう」


「あ、はい……」


 リグレッタは怒られているような錯覚を受け、シュンと落ち込んでしまう。

 それを見たガレッタは静かに立ち上がると、やさしくリグレッタの頭を撫でた。


「怒っているわけではありません。誰にでも得意不得意はあります。ルールに縛られない自由な戦法……それがあなたの長所なのです。だから、それを精一杯伸ばしなさい」


 そう言って、ガレッタはリグレッタの頭から手を離すと、めったに見せない微笑をリグレッタに向けていた。

 そしてそれを見たリグレッタは、なんとなく嬉しくなって、満面の笑みで


「はい!私、もっとがんばります!」


 そうして、二人は笑い合っていた。

 最後に二人の様子を見守っていた箱が、


『計画通り』


 と垂れ幕を下ろして、ガレッタに廃棄物のシールを張られていたのだった。






「不味いです~」


 そう言ったのは、目下逃亡中のミリーだった。


「しょうがねぇだろ。もうここ以外は全部手が回ってんだ」


 そう返したのは、同じく逃亡中のアルスだった。

 二人は今、コクーンの機関室に逃げ込んでいた。


「先輩が規格外すぎて冤罪着せられてます~」


「おい、悪乗りしといて逃げられると思ってんのか?」


「ですよね~……この流れだと私のほうが一発多くもらう予感しかしないです~」


 そう言ってミリーは眉間に皺を作り、うなり声を上げ頭を抱えていた。

 アルスはそんなミリーに目もくれず、機関室の入り口付近に気を配る。

 その時だった。


「み~つ~け~た~ぞ~!」


「ひぃ!」


 悲鳴を上げるミリーの方を見ると、その頭上に般若の化け物メリナダがいるのが見て取れた。


「なんだこれ……」


 アルスがそう呟いたのとほぼ同時、機関室のドアが勢いよくバンッと音を立てて閉まったのだった。

 その音に驚いてドアの方に一瞬気をとられていると、次の瞬間、ミリーの悲鳴が木霊する。


「たしゅけて先ぱごびゃ……」


「ミリ助!?はっ……!」


 アルスが視線を戻した先には、タンコブを抱えたミリーが倒れていた。

 しかし、メリナダの姿はどこにも無く、あせってその姿を探していると


「逃げられると思うなよ」


「なっ!」


 すでに背後を取られていた。

 そしてすさまじい衝撃と共に、アルスの意識は寸断されるのだった。

 後に、艦橋から悲鳴を聞いて駆けつけたリグレッタとガレッタが見なかった事にして戻っていったのだが、何を見たのかは誰にも話さなかったらしい。 

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