第2話 面接官デビュー

 面接には、人事部の女性がアシスタントについてくれた。

 一応、うちの会社はイベント企画会社として、一流どこであり、人気企業だ。

だけど、そんなことでふんぞり返っていても、最近の子は、入社してくれないし、入社してもすぐ5月病で消えていく。

 こちらとしては、少しでも使えそうな人が長期間いてくれそうなら、御の字ぐらいだ。と考えていかないと採用の仕事なんてこっちの精神がまいっちまうよ。と、ちゃちゃっきーに言われてきた。

 入社が決まれば、うちの部、企画部が配属予定だというし、俺も顔合わせ程度で、見ておくのも悪くはないと思っていた。


 面接会場で待ち構えていると、コンコンとドアにノックの音が響き、

「どうぞ」の声と共に、一人の女子高生が入ってきた。


「失礼いたします。桐生高校から参りました藤原 麗良ふじわら れいらです」

 綺麗に定番通りにペコリとお辞儀をして入ってきた。

 緊張しているのだろうか、写真の通り、覇気がなく、体育会系の割には、ガッツを感じない。

「どうぞ。こちらにおかけください」

 アシスタントについてくれた、沼田 洋子は、さすがベテランだ。そつなくこなしてくれる。

 面接なんてそれほどしたことがない自分にとっては、隣にいてくれて心強いと感じる。

「藤原 麗良です。よろしくお願いいたします」

「藤原さんね。はじめまして、僕は、企画部部長の笹塚です。そんなに緊張しないでいつもの学校と同じにざっくばらんに話してくれればいいからね」

 俺は、少しだけお世辞の営業スマイルをだした。

「アシスタントにつく人事部の沼田です。藤原さんとはこれで3回目かしら? そんなに緊張しないでね」

 沼田も場を和ませようと柔らかな応対だ。

「それでは、月並みな質問だけど、今までの学校生活で一番頑張ったイベントと、もし企画部に入ったらどんな仕事、企画を考えてみたいとか、自由に話してください」

 藤原さんは、今どきの女子高生がよく履いている短いスカートの裾をきゅっとつかみながら、

「あのー。ええと。私、自分で出るイベントって、体育会系だから、その、試合ぐらいしか印象に残るものないし」

「ふーん。それでもいいですよ。試合までに練習頑張ったエピソードとかあるでしょ?」

「いやー。特に、普通に練習でて、普通に試合でただけだし」

「ふつうにね……。でも、朝練頑張ったとかさ、テスト期間で大変とかあるでしょ?」

「あのぉ。『あるでしょ?』って言われても、ほんとにナイんですよね。バスケ好きなのは確かだけど、そんなに昔の根性で頑張るって言うんですかね? そういうみたいな感じの部じゃなかったし、試合も抜群にうまい子がいて、その子がうまくパスつないでくれたから勝てたようなもんだし」

「……」

 今どきの子ってこんなもんかな。でも、『就職難』という言葉がでてるぐらいだし、もう少し必死さみたいなもんってないのかね。

「じゃ、その抜群にうまい子との友情とか、頑張ったこととか」

「はぁ。部活で挨拶ぐらいで話すぐらいだし、特には……」

「あら、女子同士だとお話が楽しくなるんじゃない? 部活以外の話とか」

「いえ、別に特には」

 沼田もフォロー体制に入るが、全く響いてこない。

「あのぉ。私、はっきりいってなんていうか、いつもそうなんですよね。特になんかしてるわけじゃないんだけど、何となくいろんなこと決まってきちゃって、それがいい結果だったり。だから、自分でそれに追いつけないっていうか、実際のとこ、わかんないんですよね。自分がどうなっているんだか」

 それで、覇気のない、力のなさがでるのか。

 目標地点も見えず、なんとなくのぼんやりとした世界観。

 いつの間にやら決まっていて、お膳立てされた内容のセットメニューで「はい。○○でいいです」と、言ってしまう世代。○○でいいというのは、ほんとは△△がいいのに、遠慮して○○でいいです。と言っているように聞こえる。自分から打ち出していく力がない気持ちの表れのようだ。

「じゃ。君は、うちの社にきて『どんな企画』だしたいの?」

「えー。もう、全然、考えてなくて、『企画』とか言われてもわかんないし」

「わかんないって……」

「いやー。あちこち、受けてもダメでここだけ残って、それにここはOBがいるから助けてもらえるかもよって、就職課から言われたし」

「それって、僕の事かな? 僕も桐生高校出身だよ」

 さすがにマズイと感じたのか、

「あっ、すいません。そのぉ」

「誰がOBか調べてもいなかったの?」

「はい。全然、調べてもそれでどうしていいかわかんないし」

「OB挨拶にいけとか就職課からは?」

「言われたけど。いきなり会って何話せばいいのかわかんないし」

「……」

 さすがの沼田も項垂れ始めた。

 沼田に決定権は無いにしろ、佐々木の代わりにきちんと見て欲しいと強く言われてきているのだろう。

 日頃から人一倍責任感の強い女性だ。

「君ねー」

 俺が話始めようとした時だった

「じゃ、会社にきて何をやってくれるんですか? お茶くみですか?」

 沼田が言い始めたので、俺は眼を見開いて驚いた。

 この会社では、女子はお茶くみなんて決まりはない。

 良い意味で男女平等。

 それこそ、力仕事は男が引き受けるが、イベント内容によっては、従業員総出で対応しなくちゃというものもある。

 沼田だって人事部でいつもは、おしとやかスーツを着ているが、イベント時には、ジーンズをはいてスタッフジャンパー着て、アルバイトスタッフに指示をだしている。そのスタッフへの指示がぶれたら、イベント会場で将棋倒し、機材の破損など起きでもしたら、うちの会社には二度と仕事はなく、潰れていくだけだ。

 アルバイトの採用は人事部で行っているのだから、沼田も相当気を張り巡らして、仕事をしている。

「ああ。はぁ。まぁ、最初ってそうなんじゃないですか?」

「うちは、お茶くみなんて必要ありません。お茶を飲みたければ社長であれ、自分で用意します」

 沼田は、はっきりと言い放った。

「そうですか。じゃ、私には無理かもですね……」

「藤原さん。わかりました。今日はもう帰っていいですよ。お返事は後日いたします。何か、質問はありますか?」

 沼田は、顔に似合わないぶっきらぼうな物言いをした。

「はい。あのぉ。どうせ最後になっちゃうから聞きますけど、笹塚さんは、どうしてそんなに『やりたいこと』って拘るんですか?」

「ああ。それはね。うーん。少し、時間あるかい? 20分ぐらい話すようになるけど……。ちょっと、待っててね」

 俺は、取りあえず、面接室からでると、自販機でジュースを3本買った。

 険悪なムードの面接室に戻り、

「はい」

 と、沼田と藤原さんにジュースを渡した。

「笹塚部長。すみません」

「いや。あとで佐々木に請求しとくよ」

 ニヤッと俺が笑うと、

 沼田も気持ちを切り替えたのだろうか、クスッと笑った。

 藤原さんは、小さな声で、

「スミマセン」

 と呟いていた。

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