第22話 妨げる者

 ないものはないんだって言っても、君にはわかってもらえないのかなぁ


 そりゃぁ、君が何をほしがっているのか、僕は十分に分かっているつもりさ

 君はここにたどり着くまでに、いろんなものを見てきたんだね

 そして旅を続けるために、いろんなものを犠牲にしてきたし、

 君一人だけの力でここまで、これたわけじゃないっていうんだろう?

 でもね、そんなこと、僕には関係がないのさ

 この旅を始めようと思ったのはほかならぬ君自身だ

 君は誰から頼まれたのでもなく、また誰かから命じられたのでもない


 君がいなければ、君のために道を開き、闇夜を照らし、雨風をしのぎ、雪をかき分け、船を渡し、波を乗り越え、砂漠をさ迷い、命を削ったりすることはなかったと思うよ


 君は君を守ってくれる人を置き去りにしてここまで来た

 君は君を押し上げてくれる人を踏み台にしてここまで来た

 君は君に飲み水を与えてくれる人から潤いを奪い

 食料を与えてくれる人から糧を奪った


 そうまでして、ここまできたんだ

 それに見合うだけの対価を君は求めているんだね

 わかる

 わかるよ


 でも、それに見合うものなんて、世の中にあると思うかい?

 

 たとえあったとしても、それははたして持ち帰ることができるものなのか考えたことがあるかい?


 たとえばそれは、それに見合うだけの黄金だったとしよう

 でも、そんな黄金は重くて君一人ではとても持ち帰ることができない

 君は仕方がないので、黄金を運べるだけの馬や人を雇わなければならない

 君がここまできた道のりを、その黄金を背負って、帰らなければならない

 馬も人も飲み食いしなければ動けない

 はたして、君が帰り着くころには、黄金はどれだけ残っているのだろね


 たとえばそれは、飢えも渇きも癒してくれる果実だったとしよう

 でも君たちが帰り着くころにはすべて食べつくしてしまうかもしれない

 或いは果実はみんな腐ってしまうかもしれないよね


 じゃあ、病を治す薬はどうだろう?

 君たちがここに来るまでに病気で苦しんでいた人たちを治すだけの薬となると

 はたしてどれだけの数が必要なんだろうね?

 いや、それよりも彼らがそれまで生きているかどうかが問題だよね


 貧困をなくすことも、飢餓から救うこともできない

 病気や怪我も治すことはできない

 そんな君たちを満足させてあげられるようなものが、この世の中にあると思うかい?


 なるほど、命か


 君たちがここに来るまでの間に失われた命を取り戻すことはできるよ

 飢餓で死んでいった子供たちも、病に倒れた母親も

 荒波にのまれた漁師も、物取りに殺された商人も

 でも、そのためには君たちがここにきたことをなかったことにしなければならない

 君たちはここに来なかったし、だから彼らを看取ることもなかった

 君たちの存在そのものが、なかったことになれば、彼らの死もなかったことになる


 どうだい?


 僕にも君にもゆっくり考える時間はある

 それまでの間、君がここに来るまでの間の話を聞かせておくれよ

 人が苦しみ、死んでいった話を

 人の業の話を

 僕はね

 それが大好物なんだよ

 それなしでは生きていけないくらいにね

 だから君が旅立った日から今まで見てきた『死』や『苦』について話してよ

 僕は君たちの――


 一太刀


 たった一太刀で邪魔者は姿を消した

 真実に近づけば近づくほど

 虚構は我を惑わそうとする

 多くの人が挑み、志半ばで息絶えた

 その怨念が、この地には染みつき、よどみ、集まっているのかもしれない

 昼となく夜となく、奴らはやってくる


 我、惑わず

 我は求める

 なぜ人は苦しまなければならないのか

 なぜ人は死ぬと解っていて生きなければならないのか

 なぜ人は無になれないのか

 この世の理を治める者よ

 我は求めん

 理の真を求め、虚ろなる構えを破り捨てる


 我、再び心を解き放つ

 我、思わず

 思わないこともせず



 どうしても得ようというのかい?

 そうまでして欲しいのかい?


 僕にはわからないよ

 なぜ、君は求めているものがあると信じられるんだい?


 まぁ、いいさ

 君には恐れ入ったよ

 もし本当に君が望むものが手に入ったら、僕にも教えてくれないかい?

 そのとき、また来るからね


 また会おうね

 僕はいつも君のそばにある

 生きるものすべてのそばにあるんだ

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