kiss5
朝ごはんを食べてゆっくりしている、今がタイミングだ。
心を決めて、思いきって言った。
「──私も頑張るから。」
パソコンを打つ手を止めた亜樹の振り返った顔は驚いていた。
「どうした?」
「だって、ここ高いでしょ?」
私の言葉を聞いた次の瞬間、彼は眼鏡を外して笑い出した。
なにか変なこと言ったかな?私はこの部屋で居候させてもらってる身だから、役に立ちたいって思ったのに……。
「ここは親父払いだから、気にしなくていいけど?」
「……でも、私居候だし「そんなの気にすんなって俺が言ったんだから、もうこの件には文句言うなよ」
珍しく語気も荒く言い終えると眼鏡をかけてパソコンに向き直った彼……怒った?黙っていると、亜樹もずっと何も話さなかった。
「──亜樹、怒ってない?」
このままの状態が続くのは耐えられないと思って声をかけても返事がない、本当に怒ってるんだ。
怖くなって、顔をソファーに埋めていると──頭を撫でられた。
「そうだよ……俺は今だって怒ってるよ」
「ゴメンなさい、理解のできない馬鹿な子で」
「違う、俺の思いが上手く届いてなくて…自己嫌悪だから」
顔を上げると、眼鏡の奥に困ったような瞳……綺麗だなと思っていたらキスしていた。触れるだけの、いつもしてくれるのを真似た。
「あ、飛鳥……ちゃん?」
「えっと、つい、綺麗だったから」
私の言葉を聞いた瞬間、背中を向けられた……どうしたの?
亜樹の様子を見ようと思ったら、止められた。
「見るな……俺、今スッゴい恥ずかしいから」
彼をじっくり見ると、耳まで真っ赤だ……私まで恥ずかしい。
浩兎に遊び人や変態と言われていた人と思えない。この人は本気で私と向き合ってくれている。
「──外、出てくる」
どこか遠くに行ってしまうような不安に駆られ、亜樹のTシャツの裾を掴む。
「待って、私も行く」
「飛鳥ちゃんはついて来なくていい、俺が頭冷やしたいだけだから」
私に目線を合わせることなく、私の手を離してベランダに行く亜樹。
遠くに行かない彼なりの配慮が、なぜか……くすぐったい。
「──浩兎呼んで、皆でご飯食べない?」
ベランダへ行って、話しかけた。すると、嬉しそうな顔をして笑ってくれた。
「それいいな、賛成。桃も賛成か?」
私の後ろからダッシュでやってきて、亜樹に桃が飛びついた。
「連絡取ってみるね?」
「いや、俺が連絡する」
一緒に室内に入る時に考え込んだ顔をしていたけど、大丈夫かな?
浩兎に電話をかけている間、私は桃と遊んでいた。
そこへ電話に耳を傾けたままリビングに戻ってくると、私に渡す。
「もしもし?」
『──もしもし、飛鳥?』
「その声って……もしかして、桜二!?」
『あ……分かった?今日、俺も行くから』
「本当っ!?」
私が亜樹の方を向くと、腕で丸を作っていた。
桜二に会うのは、二週間ぶりくらいかな。学校でほぼ毎日会っていたから、なんだか変な感じだな。
『6時くらいに行くから、よろしく』
「了解、亜樹に代わるね」
彼に電話を返すと、突然笑い出した──何話してんだろ?
気になっている私を見て、「またあとで」と言って電話を切った。
「……いいの、桜二呼んでも?」
「いいよ。だって、飛鳥ちゃんの大事な友達だろ?」
「ありがとう。ところで、さっき笑ってたけど何で?」
桃を抱きしめて、心底幸せそうに笑った。
「飛鳥ちゃんのこと」
「え……?」
言われたことが考えていた事と違って、時間が経つにつれて理解できていく。
私のこと?何を二人で話したの?
「飛鳥ちゃんが可愛いって話しをしてた」
「や……やめて、恥ずかしい」
「いいじゃん、さっきの仕返し」
ニヤッと笑って、抱きしめられた……前言撤回。やっぱり、遊び人か変態だ……浩兎に見られたらヤバい。
「──俺、いつか話すから」
「何か……秘密があるの?」
頷いて、すぐに顔を上げたと思ったら柔らかいモノが唇に当たっていた──キスされた。
「二人だけの秘密」
そう言うと、もう一度キスされた。
結んだ約束が一つ増えた。
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