kiss2
亜樹が出てからすぐに扉が開く、言っていた通り漣だった。
「ゴメン、遅くなったけど……今、誰かいた?」
「いなかったけど」
私は初めて嘘をつく、亜樹と私の秘密の時間とキスにしておきたいから。
漣に話せば、きっと亜樹を嫌う……これから出会うことがなくても。
「帰ろうぜ?俺、腹ぺこで死にそうだ~」
「うん、私もお腹減った」
帰り道でふと考えた、キスについて。
私は初めてだったけど多分、亜樹は何度かしている感じだった。
漣もしたことあるのかな?私とのこの関係を築く前の彼を私は知らない。
「……漣ってキスしたことある?」
「はぁ?もしかして、お前……俺のこと試してんの?」
試してるってどういう意味で?ただ聞いただけなのに、間違ったこと言ったかな?
「試してなんかないよ。ただ、聞いてみただけ。」
「フ~ン、してみる?」
漣の言った言葉が理解できない。私達ってそういう関係じゃないはずだよね、一人で違うって勘違いしてるだけ?
固まってしまった私を見て、苦笑いしながら頭を撫で回す。
「冗談だろ、冗談。俺は、絶対お前にはしないから大丈夫」
「……だよね。私達に限ってありえないよ」
私は自分でも驚くぐらい大きな声で笑っていた。
私達は本当の恋を知らない、知りたくない。
知ることによってお互いの関係をなくすことになる気がして。
家に着いた時に、ふと私を見てため息をついた漣が少し気になった。
晩御飯を食べ終わり、すぐにお風呂へ入って私のベッドに向かったから何も聞けなかった。
眠る漣はまるで捨てられて涙を流しそうな子犬の様だった。
昔から変わらなかった……涙をいつも我慢してた。漣の一番目のお父さんが亡くなった。その時は私のベッドで一日中二人で泣いた……それ以来、漣は泣いてない。
時々、そんな漣の代わりに私が泣くようになった。そんな時はいつも漣が抱きしめてくれた。
朝方、うっすらと眼が覚めた。隣を見ると漣の抜け殻だ、どこに行ったの?
「──飛鳥、起きちゃったか。」
「れ、ん?」
窓辺に座って、何か飲んでいた……まさか!?
思いっきり走って駆け寄り、漣からコップを奪い取る……臭いはない。
「あれ以来、飲んでないから大丈夫。お前は俺のことになると一々、気にしすぎ」
私からコップを取り返して、その何かを飲む。水だって分かってた……でも、心配だった。
「だって、漣は私が見てないといけないから──まるで、弟みたいな存在なの」
笑いながら言ったあと、死ぬほど後悔した…漣が涙を流していたから。
「俺は違う、お前を恋愛感情で好きだ」
低く悲しい声で言いながら、涙を拭いた。
部屋から出ようとする漣にしがみついて、止めようとした。
「漣!?ゴメン、そんなつもりじゃなくて」
すると、振り向いて私の両肩を強く掴んで、見つめてきた。
「じゃあ、どんな気持ちなんだよ!!俺への思いは?」
何も言えなかった、どんな気持ちか分からないから。
黙っている私を見かねて、漣は苦笑いをして答えた。
「俺の気持ちは、半端なもんじゃないからな。」
突然、強くキスをされた。亜樹とは全然違う──荒く長いキスだった。
「俺は、これで後戻り出来ないから。あとは、飛鳥の判断に任せる。」
そう言うと、漣は私の部屋から出ていった。そして私は涙が溢れ出た。
自分の気持ちに鍵をかけてきたはずなのに、久しぶりに開けられた。でも、なぜかコントロールがきかなくて……悲しくないのに涙が出て止まらない。
「……飛鳥?」
後ろからかかった声に驚き、振り返るとそこには浩兎がいた。
「見て……た?」
「ゴメン」
顔をふせて答える浩兎、誰も悪くない。
「馬鹿みたいだよね。いつか、こうなること分かってたはずだった。」
「はずだった……でも、いざとなったら何も反応できなかったってか?」
「うん」
浩兎にまで見透かされて、自分がすごく情けない。
「本当の馬鹿だな……でも、俺の妹みたいなもんだし仕方ねぇな」
そういうと目の前にやって来て、そっと抱きしめてくれた。浩兎の優しさが身に沁みて、涙が止まらない。
「苦しくって……どうすれば……いいの?」
「泣きたいだけ、泣けば。俺は側にいるからさ」
思いっきり泣いた。これで、漣との関係を終わらせるために。
五年半も続いた私達は、今日のあの一瞬の出来事で崩れ去った。
「漣は、お前の前から姿を消すと思う。」
「……もう、会えないの?」
浩兎は目線を逸らした、会えないんだ。
結んではならない嘘を結んで、解いてはならない時に解いたんだ。
「飛鳥も誰かを本気で“好き”になれ。俺は、ただ見守ることしか出来ないけど」
「浩兎は本気で人を“好き”になったことあるの?」
「──ある」
表情が曇った。もしかして、聞いちゃいけなかった。過去の浩兎を知らない、言いたくない過去なんだ。
「ゴメン、それ以上は言わなくていいよ」
「いつか話す……だけど、今は話せない。俺は本当にその人が“好き”で愛してるのは確かなんだ」
今まで見た微笑みの中で、一番幸せを感じさせた。本当にその人を愛していること、私の中にはない経験。
「俺、漣のところ行ってくるから」
「うん、私もちょっと学校行ってくる」
理由を聞きたげな顔をしていたけど、私は話さなかった。
自分でも何でこんなこと言ったのか分からなかった。
もしかすると、彼に会いたかったのかもしれない。
彼への感情が“好き”なのか、確かめたかった。
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