初恋

@karikura

終わりのはじまり

kiss

  いくつかのキスと嘘を交わして、私は何を得たんだろう?


 キスは何度も重ねられて、嘘を何度も結ばれる。




「浩兎《ひろと》、私を助けなさい」

 前の席から振り返り、けだるそうにニヤニヤ笑うのが少し可愛い。

 浩兎は悪い子なのに、頭はぴか一だから先生は何も言えないんだよ。いつも助けてもらってる身としては、文句は言えないんだけどね。

「俺、絶対お前の執事にだけはなりたくないから」

「ひどい、私のことなくせに」

「そうだな……で、今日は何だ?」

 相変わらず冷たい態度だけど、こういうところ好き。

 私のは、恋とは違うって思うんだ。皆は違うって言うから内緒にしてるのは、自分でも上手く説明できないからだけど。

「明日数学当たっちゃいます、お願い」

「いつもおしえてるだろ?やれよ」

 怒りながらもきちんとノートを差し出してくれる……けど、受け取ろうとしたら目の前が真っ暗に。

「な、何?」

「俺には絶対見せてくんないのに何で、飛鳥《あすか》に見せるかなぁ?」

 この声は……桜二《おうじ》?

 柔らかな手の感触、優しくて暖かい。

「振り返るな……俺、これ恥ずかしいんだから」

 耳にかかる吐息に恥ずかしいと言う言葉さえ信じ難くなるけど、彼は本当にそういう人だ。

「振り返らないけど、手は外して……お願い」

「絶対振り返るなよ」

 目の前が明るくなり、驚いた浩兎の顔が見える。何に驚き、そんな顔をしているのか分かってるけど振り返らない。

「今日もいい男だよな、そこまで真っ赤じゃなかったら……桜二」

「うん、私も桜二の声が

 初めていい声だって思った人だけど、私は彼の外見がカッコよすぎて苦手だ。

 外見を自慢することもない恥ずかしがり屋さんで、私と同じくあまり勉強は得意じゃない。


「…漣《れん》はまた寝坊?」

「俺はここだよ」

 窓から入って来たこの人は、私の彼氏をしてくれている。

「漣じゃなくて俺じゃダメ?」

「当たり前だろ。自分の顔、ヤバいくらいカッコイイ奴が言うな」

 私が言うと怒られるから言えないけど、漣はカッコイイ。外見とかじゃなくて、まとってる雰囲気とかが同い年の子達とは全然違う。

「漣が言うセリフじゃない」

「浩だってそのピアス全部外せば、優男だろ」

「一生外さなかったら、恐いまんまだろ?そっちの方が断然いい」

 どちらも譲らない性格故に、ふて寝半分と本気半分で寝始める漣。また、寝れてないのかなぁ?

「今日、泊まる?」

「うん、飛鳥と寝たいし……行く」

 さらりと女の子がドキッとするような言葉を口にするんだから、こっちも対応に困る。

 私は時々分からなくなる漣を恋する意味でなのかどうか。もともと私達はお互いを守るために付き合っている。

「お前ら、その付き合い方やめたらどうだ?」

「それは無理だろ……だって、飛鳥のいない朝なんてやだからさ。だから、飛鳥の家に行かない日は寝てないし」

 そこまで関係は深くないし、これからも深くなることはない。私達はお互いを守るために一緒にいるだけだから。

「俺もそれ気になってた。もし、飛鳥に彼氏出来たらどうするんだ?」

「桜二は本当に王子様だなぁ。そんなの出来ないように、俺が彼氏なんだよ」

「二人には、恋愛の自由がないってことだよな……それって結構切ないぞ」

 恋愛の自由?この関係が恋に何か問題が起きるのかな……私は出来ればこのままでいたい。

「そんなことより、帰らね?」

「えぇ?俺、担任に呼び出されたから来たのに。」

 相変わらず、漣の学校へ来る意味が分からない。

 気が向いたら朝1番に来たり、放課後にフラッと……なんて自由に学校へ来てるわりにテストを受ければ上位入り込み。

 浩兎と桜二は待つ気はなかったようで先に帰った。

「じゃあ、私いつものところで待ってるね」

「おう、ゴメンな」

 ニカッと笑い謝る漣が廊下に走り去っていった。

 いつも課題をこなしながら図書室で漣を待つ。

 窓際で夕陽を見ていると、もう少しで一日が終わると感じてなんか寂しい。

 今日が終わって、明日が来るのが何故か嫌でしょうがない。今日だけじゃない、毎日毎日そう思いながら生きている。

「迷って、いるのですね?」

 後ろから不意に声をかけられ、驚いた。すばやく振り向いた先には知らない男性が。

「どちら様ですか?」

「俺?知らないんだ~」

 知らなかったことを嬉しそうに笑う彼がかもしれない。しかも、懐かしい……初めて会ったはずなのに。

「はい、だって今初めて会ったんですから」

「そっか、そうだね。俺は亜樹《あき》……君は?」

 私が自己紹介しようと口を開いた瞬間、左肩を引っ張られ……キスされた。

「何するんですか!?」

「可愛かったからキスした、ダメかな?」

 か、可愛かったから?そんな感情で皆、キスをするの?

 私は付き合ったことない、だからキスもしたことがない。

「分からない……キス、したことないから」

「フ~ン、どうだった?」

 したすぐ後に皆、感想聞くのかしら。

 彼の……亜樹の唇は少し湿っていた。そして、グレープフルーツの香りがした。

「……恥ずかしいけど嫌じゃない」

「俺も嫌いじゃないよ、飛鳥ちゃん」

「何で、名前知ってるの?」

 驚く私を見て、また嬉しそうな顔で笑うからドキッとした。

 私をからかってることは分かっているはずなのに、心揺さぶられる。

「キスしてくれたら、答えてあげる」

「私、下手かもよ?」

 亜樹は、私の言葉を無視して目を閉じてキスを待つ……何だか忠実なる犬の様で愛らしい。

 ゆっくりと、だけど短いキスをした。

「どうかな?」

「う~ん、まぁこれから教えてくから」

 思うより先に首が横に動いた。

「……やじゃない」

 私が自分の行動を否定したのが分かり、亜樹は苦笑いしながら頭を撫でてくれた。

「無理しなくていいから……また、会おう。番犬くんが戻ってきそうだし」

 教室の窓から出る前に、口の前に人差し指をそえて……内緒ねと口パクで言われた。

 いたずらっ子みたいな笑顔を残して消えていく背中。

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