第四章 ストラス 4~6
4 中枢種族への攻撃 ……バールゼブルとグラシャラボラス
「種族融合以前の旧皇帝領復興開発長官〝地獄王〟バールゼブルは、蜜蜂に類似せる社会性昆虫の種族であり、これを蠅と形容せるは言うまでもなく中枢種族の政治宣伝なり。種族の進化及び文明発展に伴いて彼女の種族の統治者となりし者達は、〝女官〟階級なり。彼女達は生殖に特化せる〝女王〟及び〝雄〟を管理し、また営巣・巣間輸送及び戦闘に従事せる〝労働者〟を指揮する階級にして、政策立案、巣間契約及び技術開発を担当せり。またその役割を果たすべく、彼女達の羽は飛行能力を失いて頭部に移動し、命令伝達のための電磁波の発振器官に変化せり」
「帝国加入後は親衛軍に所属せるバールゼブルは、かかる形態にて生物学的に歴然と階層化されし種族に通例なるが如く、
「融合後の彼女は突如衰退に瀕したるかの如く、
「然し彼女はその後再び活力を回復して、傘下種族に同様の悲哀を与えまいとするかの如く、自艦隊の運営改革に着手せり。彼女は個々の種族及び個体の欲求や関心に配慮し、下位の種族や個体に対しては技術革新による生活向上に加え、教育や医療による資質向上と、それに
「彼女の艦隊は皮肉にも疎外されしが故に、〝銀河系戦争〟においては不名誉にも中枢種族の私兵と化して
「現皇帝の告発によりて犯罪の
「ザフィエルの討滅後、バールゼブルは生存せる他の中枢種族に停戦及び秩序の回復を求めたるが、彼女達は混乱に乗じて帝国の実権を掌握し、あるいは積年の遺恨を晴らさんとするが如く、超新星兵器の応酬を継続せり。もとより彼女達は〝脱落組〟にして、彼女達を
「グラシャラボラスは肉食の狩猟性動物より進化せる活動的な種族なれども、不幸なる星間戦争の歴史及びその後の文明発展から、平和の恩恵と友好の福利を
「なお近年の情報公開によれば、現皇帝が旧帝国の不正につきて疑惑を抱きたる契機は、グラシャラボラスが宇宙進出期に経験せる星間戦争なり。当時、同宙域の開発を担当せる現皇帝にとりて、四つの種族が同時に同等の発展段階に到達し、恒星間戦争を行うが如きは確率的に不自然な
「〝大戦〟中、現皇帝は旧帝国陣営より、文明開発省の種族と後の親衛軍種族との〝不透明な関係〟につきて非難を受けたり。然し彼女は、『グラシャラボラスの真価は、単に生き残りしことに
「
「中枢種族の超新星兵器が準備状態に入りたることを受け、バールゼブル及びグラシャラボラスの艦隊は当該青色超巨星の星系へと急行せり。旧帝国派種族は最も強大なる四種族の系列に分かれ、各々が超新星兵器の生産と供給、機動艦隊の運用、後方における指導的先住種族の監視と拘束、前線における従属的先住種族の動員と督戦を分担せり。バールゼブルは〝皇帝領の悲劇〟の拡大的再現を何としても阻止せんがため止むなく、速力に優れ、長距離精密誘導弾としても使用可能な自らの強化外殻を使用することを決断せり。彼女は敵艦隊の哨戒網を突破して当該星系に可能な限り接近したる後、外殻を分離して多方向から拠点に向かわしめ、目標から至近距離内で通常空間に復帰せしめることにより、迎撃されることなく超新星爆弾群及び中枢種族母星への同時衝突攻撃に成功せり」
「然し、ここにおいて恐るべき事態が発生せり。中枢種族は数千光年の遠方から恒星周辺を正確に探査・照準し得る超空間技術の存在を予期せざりき。故に彼女達は、反物質の効率的生産及び拠点の
「生産拠点の壊滅を知りたる敵機動艦隊は、攻撃を実施せるバールゼブル艦隊を発見・包囲せるも、外殻を失いし彼女を救いたるは、
「司令部を失いたる敵艦隊は降伏せるも、その直後先住種族の艦艇は、
5 後方艦隊の防衛……アモン
「後方艦隊は全戦役を通じて他の艦隊への支援業務に従事せるも、ただ一度、終戦直前に敵軍の襲撃を経験せり。旧帝国種族は非道にも、重力場の影響を受け難き小型の先住種族艦艇を改造して船体よりも大型の超空間駆動機関に連結し、反乱勢力内の
「帝国本土防衛司令官たる〝強健侯〟アモンは、姉妹種族のカイムと同一の赤色巨星を
「カイムは、亜空間に形成せる回廊を通じて遠方の恒星より莫大な動力を供給し得る、照射型の恒星動力砲を装備せり。この兵器は座標設定に時間を要するが故に、機動戦には不適なれど、彼女は待ち伏せによりて現皇帝とカイムを急襲せり。然し彼女はアモンを破壊するに堪えず、可動惑星上の軍事施設周辺に照射を局限せり。またアモンも、最後まで和解への希望を捨てることなく、積極的な攻撃を行わざりき。故に戦闘終了後におけるアモンの被害は惑星表面のみに留まり、力場障壁の自動反撃によりて破壊されしカイムの惑星からは、彼女の残骸を回収することを得たり」
「カイムは再生の直後、アモンを望みなき戦いによりて失うことを恐れ、戦場からの逃亡を推奨せり。然しアモンと融合して機能を回復し、中枢種族の陰謀及び現皇帝の人柄と政策、そしてアモンの喜びと希望を知りたる彼女は新帝国の陣営に帰順し、恒星動力砲の設計情報を提供せり。またストラスの先進技術及びアスタロト艦隊の建設部隊によりて、融合体の修復は急速に
「彼女達の融合は当初、カイムの再生までの一時的なものとなる予定なりしが、以後の両者の関係は極めて良好なるが故に、アドラメレクを形成せる二つの種族と同様に、恒久的なる種族間融合へと変更されたるが如し。現在におけるアモンの分離個体の基本形態が、融合以前の両種族の姿の混合体なることは、彼女達の永遠の姉妹愛の
「その後アモンは中心星域からの戦火の拡大を防ぎ、また現皇帝への追撃を阻止すべく、〝未来あるもの〟の一部と共に開発途上星域の防衛任務を担当せり。然し途上種族にとりては幸いにも、銀河系に残留せる旧帝国種族は相互の
「彼女達は〝未来あるもの〟達の監視網に気づかず同星域を通過する途中、一見したところ文明種族はもとより微生物さえ生存しえざるほどの破壊を被り、かつ明らかに他天体の破片が激突せると覚しき痕跡までも有する、凄絶な外観の可動惑星を前方に発見せり。帝国親衛軍のみが装備し得る統一力場障壁を後光の如く身に纏い、中枢種族の私兵軍団のみが持ち得べき恒星動力砲の、光り輝く出力・偏向用の結晶衛星群を伴いて行く手を
「外周星域派遣軍司令官ガルガリエルは、同星域を征服して自らの所領とすべく、この艦隊によりて中央星域の自領から、高額の資産を含む多数の物資を輸送せり。〝外周星域の戦い〟の後、これらの積荷は全て外周星域への賠償に充てられたり。また〝銀河系戦争〟の終結後、アモンの惑星はカイムの惑星の地形と生態系をも加え、美しく豊かな自然景観を回復せり。唯一の例外は両種族の和解と再生を記念すべく、衝突せし結晶衛星を修復して設けられし、水晶製の極冠の如き巨大記念碑なり。この記念碑は、二種族の融合に伴う能力の向上により増加せる結晶衛星群の、制御施設をも兼ねるものなり。アモンの恒星砲は、旧帝国残党からの襲撃に対してもよく重要宙域を防衛し、
「アンドロメダ戦役に参加せしアモンの分離体は、後方艦隊の直近に出現せる敵艦隊の通信を傍受し、彼女達が同胞と指導種族を人質として過酷な作戦を強要されし先住種族の小部隊なることを確認せり。アモンはこの敵の状況に
6 武装解除 ……サタン
「組織的戦闘が終結したる後も、アンドロメダ銀河においては旧帝国残党による散発的抵抗や、先住種族による旧帝国系種族への報復等の事件が発生せり。故に旧帝国種族につきては、同銀河での拘束または銀河系への送還の後、戦災宙域の復旧活動への従事処分が科されたり。これは、責任の少なき種族には保護及び行政処分、責任重大なる種族には裁判までの隔離及び賠償活動としての意味を有せり。問題は彼女達によりて、自らの文明段階以上に高度なる軍事技術を供与されし先住種族なり。現皇帝はかかる〝負の遺産〟が、先住種族間の紛争や旧帝国系種族への襲撃に使用されることを案じ、遠征艦隊に対策を講ぜしめたり」
「現皇帝〝
「〝銀河系内戦〟の際、旧帝国派種族に操作されし地球人の一派は、統治宣言のため月面に着陸せる現皇帝の分離体に対し、奇襲攻撃を実行せり。彼女達は原始的な核兵器を投射せるも、力場障壁によりて無効化せられたり。攻撃が失敗せる彼女達は無謀にも、装甲動力宇宙服と光線兵器による一斉突撃を敢行せり。分離体は退避を試みたるが、攻撃隊の一部が光線の反射によりて損傷せるや、直ちに多数の分離個体を送り出し、各種の近接戦兵器による攻撃も意に介さずに負傷者を救助して、彼女達の基地に
「然し彼女の出発後、地球では中枢種族の間諜によりて内戦が惹起され、多大な犠牲が生じたり。かかる悲劇の原因としては、第一に、中枢種族が当時の汝等の技術水準を著しく
「戦役終結直後のアンドロメダ銀河中核領域は、かつての地球と同様の状況にありき。故に現皇帝はアスタロトに命じ、アスモデウス及びアドラメレクの分離体の協力のもとに、大規模なる武装解除作戦を展開せしめたり。遠征艦隊の各理事種族は、随行の武器商人に扮装せる分離体または分離個体を同領域の各所に派遣し、旧帝国種族が供与せる兵器の買上げ、またはより高性能な兵器との有償交換を広告せり。買上げの代金は、戦争被害からの復旧・復興のための民生用品及び技術の購入代金に充当せられたり。交換されし兵器は後に使用不能の欠陥が判明し、損失は同様の民生品及び技術によりて補償せられたり。既に移転せる軍事技術につきては、攻撃兵器への転用が困難な対抗手段が
「その後現皇帝は、同銀河の全通信網を通じ、この〝作戦〟の内容と趣旨を説明せり。彼女はその中で特に、銀河系において自らの文明段階に不相応な軍事力を追求せし種族が招きたる、種族的な孤立や社会の硬直化・経済破綻・環境破壊、さらにはその結果としての自滅的戦争や、他種族による支配・操作等の悲劇を、実例を
「以上がこのたびのアンドロメダ戦役の事実経過にして、さらなる詳細は今後様々な情報媒体及び各惑星に帰還せる同行視察団員からも公表される予定なり。同銀河は現在アスモデウスを長とする臨時行政府による暫定統治のもとにあるも、情勢の安定後は
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