第五章 アスモデウス 3


3 四大軍事種族についての抗弁


「第三に、バールゼブル・グラシャラボラス・アスタロト及びアモンはいずれも有能、公正及び忠良を以て知られたる種族なり」



(1)バールゼブルについての抗弁


「バールゼブルは蜂に類似せる社会性昆虫より進化し、高度な群知能技術を特色とする種族なり。帝国との接触当時、既に複数の惑星系を支配せる彼女は、その〝労働者〟階級をする自動機械を開発し、各星系において使用せり。これらは単体では高度な総合的能力を持たざるも、輸送・建設・哨戒及び戦闘など特定の目的につき、集合して相互の通信及び連携を図ることにより、あたかも高度文明を有する種族の個体群が自ら編成する集団の如く、優秀な機能を発揮せるものなり。これらはまた、星系内の物質を原料として必要な限り自己増殖を継続し、大型のものでは恒星間航行を含む機動能力を備えたり。さらにこれらは、戦闘時には莫大な数量が星系内に展開し、広大な宙域を満たして激烈なる空電・雷撃の如き電子妨害及び攻撃を行うと共に、集中と拡散によりて大艦隊が出現・増加・消失するかの如き幻影を創出し、敵軍を攪乱かくらんせり。服属を求めて侵攻せる帝国艦隊の先遣部隊は大損害を被りて敗退し、これらの自動機械群を〝アバドン〟と呼びて恐れたり。これは先帝種族の言語を基礎とする帝国公用語において、〝破壊者〟を意味する用語なり。彼女が帝国への加入を承諾せるは、実に中枢種族が可動惑星を準光速にて彼女の領有する恒星のひとつに突入せしめ、星系ごと破壊したる後のことなり」


「帝国加入後の彼女は親衛軍に所属し、帝国のため効率的かつ無慈悲に他種族を征服することによりて、その地位を高めたり。これは、彼女が生物学的に厳格な階層社会を形成せる事実によるところが大なり。統治階級たる〝女官〟階級が、生殖に特化せる〝女王〟及び〝雄〟達のために〝労働者〟達を道具の如く使役するという社会構造は、これらを〝自種族〟〝上級種族〟〝下級種族〟に置き換えれば、かかる態度を極めて自然に正当化し得るものなり。これは『発展途上種族もまた偉大なる成長可能性を有し、その尊厳においては先進種族と対等なり』という新帝国の基本理念とは全く異なる発想なり。然し、帝国の拡大期においては種族間の文明発展度の隔絶が著しく、社会の統一や技術移転による恩恵もまた明白なりしが故に、かかる軍事活動に対する批判や懸念は、残念ながら当時の帝国内においては一般的となり得ざりき」


「然し、拡大が銀河系の中央部バルジから円盤部ディスクに及び、その限界が明らかとなるに従い、軍事種族の活動目的は、統一のもとで発展せる下級種族からの収奪や上級種族間の権力闘争における奉仕へと変質せり。その傾向は、銀河系外周種族に対する技術流出防止のため、先進種族による進出競争が制限されし〝開発途上星域〟が設置されて以降、特に顕在化せり」


「例えばとある中枢種族は、対立する中枢種族の系列種族に対し、支援を約して反乱を生ぜしめたるも、蜂起後はこれを見殺しとし、その討滅後に弱体化せる対立種族を攻撃して殲滅せんめつせり。この手法は以後、多数の種族によりて模倣もほうせられたり。類似の策略としては、二種族が共謀して第三の種族内における紛争勢力を各々支援したる後、内紛による衰弱に乗じてこれを共同征服する事例も多発せり。かかる状況はその後さらに進行し、ついには自らの系列種族とその対立種族を争わしめ、両者の疲弊を待って双方の支配領域を接収するが如き事例までも生ずるに至れり。統一帝国の内部において、かかる共食いの如き事変が頻発ひんぱつせる事実は、とりもなおさず統治機能の弱体化を意味するものなり。然し、これらはいずれも帝国内の治安維持を表向きの理由とし、また中枢種族の政治力を背景とした強力なる情報統制のもとで行われたるが故に、問題の所在を知り得る者は極めて少数なりき」


「親衛軍の構成種族として、バールゼブルもまた不可避的にかかる紛争に関与せり。とある中枢種族はその下級種族に密命を下し、他系列の下級種族を奇襲・絶滅せしめたるが、その直後、他の中枢種族の同盟に対抗すべき必要が生じ、相手種族との間に和睦わぼくが成立せり。状況の変更に基づき、中枢種族は攻撃を下級種族の独断によるものとして非難し、討伐のために親衛軍を派遣せり。その任に当たりしバールゼブルの分艦隊は命令に従いて侵攻し、一切の交信に応ずることなく無警告で当該種族の惑星を破壊せり。然し、攻撃直前に事情を察したるこの種族の、必死の弁明に注意を惹かれたる彼女は、密かに使節団と証拠資料を回収せり。滅びたる二つの下級種族の資産は、その後両者の主人あるじ達によりて折半せっぱんせられたり」


「任務の成功によりて、彼女は科学長官ストラスのもとで種族融合化処置を受ける権利を獲得せり。これは個体群種族全体の記憶及び人格を一個の巨大なる量子演算機構網に移転して、その能力を飛躍的に向上せしめ、帝国における最先進種族の一員としての資格を与える処置なり。この時既にストラスは、融合化が専制的性格を増幅する危険性を有することを発見し、友好種族サタンの助言に従いて、バールゼブル以後の処置においては被治階層の意識をより多く反映することを決定せり」


「然し、演算機構内に再現されし彼女の鏡像は、深刻なる自己同一性の破綻はたんから、共有人格崩壊の危機に直面せり。従来その理由とは、生来の専制統治者たる〝女官にょかん〟階級が、他の階級と意識を結びたることが原因と説明せられたり。然しながら近年の情報公開によれば、それは対外関係の再認識にも存在せり。他の階級の記憶を得たる〝女官〟の意識は、自らが下級種族や作戦対象種族に対しても、甚大な負担と犠牲をい続けたる事実を確認せり。〝女官〟の知性を獲得せる〝労働者〟の意識は、中枢種族が女官階級とは全くの別物にして、〝帝国種族〟全体の利益を図る意思も能力も有せざる、利己主義的な種族集団に過ぎざることを発見せり。また同様に、〝女王〟及び〝雄〟の意識は、従来の如き作戦の継続が、長期的視点からは種族と帝国全体の繁栄に非ずして、中枢種族間の闘争や下級種族の反乱による滅亡を招く危険が大なることを推知して、戦慄せり。融合化によりて種族全体に記憶が共有されし惑星破壊等の非人道的作戦の真相もまた、共感能力を備えたる各階層の精神に耐え難き苦痛と恐怖をもたらし、融合体の活動は著しく低下せり」


「ストラスはこれを、単に種族的な個性からくる人格量子化マインドアップローディングの不調と報告し、親衛軍の司令部に対して、能力の回復まで彼女を重要任務から除外することを提案せり。それまで中枢種族は、彼女が多数の思考能力乏しき個体や自動機械に依存せることをもって、政治的には低級種族と見做みなし、道義的非難や大損害を被る危険性の高き任務を彼女に割り当てたり。然し、彼女の成功を見て多数の軍事種族が同種の任務を志願するに至りしが故に、司令部は彼女を中心星域外縁の警備任務に転属せしむることを承認せり」


「このことは次の二点において、彼女に好ましき環境を提供せり。第一に、同任務の主目的は正規軍にも対処し得ざる外周星域からの侵攻や大規模紛争に備えての待機であり、当時これらは発生の可能性少なきが故に、正規軍や近隣種族との協力による海賊対策・災害時支援など、倫理的問題の生じ難き活動に従い得たることなり。第二に、この宙域は開発途上星域に隣接せるが故に、ストラスが同星域を所轄する友好種族のサタンに支援を求め得たることなり」


「サタンはバールゼブルに対し、彼女の行為が当時の状況からみて止むを得ざりしものなれど、現在の苦悩もまた正当であり、いかなる社会においても文明発展に伴いて、民主的・平和的政策が必要となりゆく旨を説明せり。然しまた彼女は、その実現には社会全体の平均資質向上が不可欠であり、そのためには文明発展の成果を、単なる生活水準のみならず教養や人格の向上にも活用し、権限を濫用らんようする上級者やこれに加担する下級者の摘発・矯正を含めた、適材適所の権限や待遇の分与を図るべき旨を助言せり」


「さらにサタンは彼女の群知能技術にも着目して、これを評価せり。彼女がバールゼブルの自動機械群アバドンに見出したるは、恐れや良心を持たざる安価な無人兵器の大規模使用による、無差別大量殺戮の能力に非ず。高度な操作性とそれを補う自律性を兼備せる、多機能型自動機械の活用によりて正確な情報を取得し、恐怖や憎悪に判断を誤ることなく彼我及び第三者への被害を最小限に止める、軍事力の人道的制御の可能性なり。彼女はストラスに、その実現を可能とする演算・通信技術の開発及び提供を依頼し、彼女もまた遺憾なくその期待に応えたり」


「以上の如き政策的・技術的支援を獲得せるバールゼブルは、自艦隊の改革を実行し、他の組織・種族とも連携して任地の治安向上に貢献しつつ、自らの士気と能力を回復せり。中心星域の辺境ともいうべき外縁において、かつては生物学的階層社会のもとに強権的な軍事力行使の限りを尽くしたる種族が、種族融合を契機として深甚なる苦痛を克服し、短期間のうちに民主的かつ平和的なる統治種族としての資質を獲得せしことは、いわば奇跡とも称すべき事象なり。然しそれは、この種族の優秀なる資質と、それを開花せしめ得る環境が出会いたる幸運こそが可能としたるものならん」



(2)グラシャラボラスについての抗弁


「然しながらバールゼブルは、階級社会への適応や堅牢けんろうなる外骨格のため、欲求の充足または不満足に対する心理的反応、即ち感情の表現が不得手な種族なり。この特性は競争的な交渉において利点たり得る反面、共感に基づく親密な交流に際しては不利を招く場合が存在せり。この弱点を補うべく、サタンは我に、感情豊かにして強健な我が友好種族グラシャラボラスを彼女の艦隊幕僚ばくりょうとして転任せしむべく、親衛軍司令部に推薦せしめたり」


「グラシャラボラスはイヌ科動物に類似せる肉食獣から進化し、またその宇宙進出史において悲劇的な星間戦争を経験せる種族なり。通常、かかる歴史を有する種族は高き攻撃性と好戦性を有し、他生物、特に知的種族に対する生存競争や強圧的支配を積極的に肯定せるが故に、彼女もまたその資質を期待され、親衛軍に配属せられたり。然し彼女は実際には、それ以前の時代において、かかる生物の〝宿業しゅくごう〟あるいは知的生物の〝原罪〟とも称し得る属性を、文明発展に伴いて昇華することに成功せし種族なり」


「当時サタンは文明開発省の担当種族として、我はその業務を受託せる生体情報産業種族として、グラシャラボラスの文明開発を支援せり。彼女はその優しさと賢明さによりて、我等の技術的支援を最も有効に活用せり。産児制御と食肉培養の技術は食料資源を巡る〝共喰い戦争〟を根絶し、他の生命や文化・文明を尊重する価値観の形成を可能とせり。惑星破壊兵器に対する防御戦略の採用は、彼女を近隣種族間の戦争における唯一の勝者とするのみならず、衰退せるかつての敵種族への救援を通じて、彼女を宙域内の指導的種族へと発展せしめたり。我等は今なお、この若く優秀な最先進種族の発展に関与し得たることを、大いなる喜びとするものなり。彼女は自らの努力によりて、その後の困難な境遇をも克服し、軍事種族ながらも他種族への共感を忘れず、平和の恩恵と友好の福利を追求し得る種族へと成長せり」


「彼女はその純真かつ天真爛漫てんしんらんまんにして、虚偽きょぎ虚飾きょしょくを好まざる性格から、上級種族の腐敗に伴う親衛軍の系列化・私物化という状況に悩み、軍事種族からの離脱を希望せり。彼女はその正当性に疑いなき任務につきては確実に職責をまっとうせるも、さに非ざる場合には成果もまたかんばしからざりき。また説得による戦闘の回避を通じ、反抗を口実として対象種族を殲滅せんめつせんとする中枢種族の企図を、結果的には挫折ざせつさせたる事例もありしが故に、彼女の転属もまた比較的容易に承認せられたり。彼女とバールゼブルは無二の友好種族となり、互いに効率的かつ人道的な軍事力行使の技術と、他種族の心情に対する理解や訴求の能力を提供し合うことにより、艦隊の能力をさらに向上せしめたり」



(3)〝皇帝領の戦い〟の正当性


「サタンによる公開請願の当時、中枢種族達は既に相互の権力闘争から、一触即発いっしょくそくはつの緊張状態にあり。故に請願直後から、彼女達の間では責任の所在を巡り熾烈しれつな非難の応酬が開始され、それは間もなく全面的な武力衝突へと移行せり。バールゼブルの艦隊は先帝を保護し、またその真意を確認すべく、独断で皇帝領に進入せり。既に昂進こうしんせる軍事的対立が不祥事の発覚を契機として爆発し、多数の強大な中枢種族が系列下の親衛軍・私兵軍の艦隊を動員して交戦せる宙域に、ただ一艦隊で赴くことは無謀極まる行為なり。然し彼女は親衛軍の本務たる先帝の守護のため、また恩義ある種族サタンに報いるため、そしてかつて自らが従事せる〝汚れたる任務〟の意味を知り、罪あらばそれをあがなうため、さらには彼女と愛すべき友好種族グラシャラボラスが共にある帝国の未来を守るため、先帝保護に赴くことを決定せり。彼女は直ちに物理法則の異なる亜空間へ突入し、光速の突破によるチェレンコフ放射の青白き翼を広げつつ、皇帝領へと急行せり」


「皇帝直轄領は、帝国文明の精華ともいうべき宙域なりき。同地においては先帝及び各中枢種族とその系列種族が、銀河系最高の資源と技術を動員し、多数の可動惑星や施設・艦船を集中して研究・生産及び交渉・交易活動を行いたるが故に、中心星域の外縁部と比べれば、あたかも田園に対する大都市ほどの人工的華美に満ち溢れたる世界なりき。然し、彼女が同所で目撃せし光景は、地獄絵図なりき。そこでは既に多数の超新星兵器が使用せられたるも、通常空間内では恒星爆発の影響が超光速で波及することは絶無なり。故にその地獄とは、帝国の最先進種族が他の全兵器も用いて積年の抗争を決着せしむべく、あるいは避難のための物資や移住先を争いて行いたる、相互の殺戮と略奪から生まれし地獄なり。この修羅場においては被災種族の救援もかなわず、さながら世界終焉しゅうえんの如く正視に堪えざる惨状が彼女の眼前に展開せられたり。然し、旧政権の闇を知りつつその克服に努めたるサタンとストラスや、かつて同様の苦難を経験せしグラシャラボラスより、知識と能力、勇気を得たる彼女は、希望を失うことなく事態収拾の可能性を求め、先帝の捜索及び治安回復の努力を継続せり」


「新技術の超空間駆動機関を有する中枢種族の艦隊が彼女の艦隊を発見し、超新星兵器による先制攻撃を行いし時、最初に彼女を救いたるものは、自動機械アバドンによる早期警戒網なりき。同機関が恒星の重力場によりて発着点に変動をこうむり易きことを発見せし彼女は、自らもまた恒星を破壊して敵艦隊の航行を攪乱かくらんする戦術を着想せり。副司令官アミーの航法演算支援及び同グラシャラボラスの勇戦にも助けられ、彼女は見事に敵艦隊を捕捉・撃破せり。彼女は派生被害を最小限に止めるべく、既に戦乱のため惑星群が破壊されし星系を対象として選択せり。然れどもなお、避難し得ざりし種族が犠牲となりしことは、彼女の心に新たな傷を負わしめたり」


「系列種族による超新星兵器の応酬が制御不能となり、また超空間航法の意外なる弱点が判明するに及び、同航法技術を有する高位の中枢種族群は一時的な休戦協定を締結せり。彼女達はアンドロメダ銀河に逃亡してこれを制圧したる後、同地を拠点として銀河系への再侵攻を実施するべく図りたり」



(4)〝旧皇帝領〟成立の正当性


「バールゼブルは最終的に、皇帝領の平定という、他種族には得難き功績を獲得せり。然し彼女は、重要戦犯の逃亡を許し、より多くの種族を救い得ざりしことへの反省から、旧皇帝領復興開発長官の職を希望し、荒廃せるかつての戦地の復興に尽力せり」


「彼女はまず、超新星兵器の使用によりて滅亡の危機に瀕したる星系の救援に着手せり。彼女は科学省長官ストラス及び自らの技術部門副長官アミーの協力を得て、統一力場障壁の広域展開能力及び物質・動力の回収機能を有する自己増殖型の自動機械アバドンを無数に展開せり。それらは超新星爆発の衝撃波を反射、あるいは相互に干渉せしめて被害を最小化すると共に、惑星さらには恒星の再生をも可能とせり。中枢種族は当初、かかる自動機械の使用を、他種族を使役しえきする技量なき劣等種族の貧弱なる代用品として侮蔑の対象となし、その能力の実証後には、生命なき物体を命ある者と戦わしめる禁断の呪法じゅほうの如く喧伝けんでんせり。然し言うまでもなく、技術の価値はその使用法如何いかんによるものなり。発展途上種族の文明発展を阻害し、あまつさえその生存の意思までも蹂躙じゅうりんして、自らの戦争のための傀儡かいらいと為すが如き所業しょぎょうと比較すれば、これらの復興活動は遙かに人道的、かつ洗練されし技術の用法なることは明白にして、彼女自身もまたその成果によりて哀しみを慰め、あらためて自らの使命と誇りを確認せり」


「政策面においてバールゼブルを補佐せるは、情報部門副長官のグラシャラボラスなり。現在の彼女の主要任務は、戦時責任の有無や種族間の公平等の事情も考慮しつつ星域全体の再生を図る、復興政策の立案・実施のための情報活動なり。その強靱きょうじんさに加え、軍事種族とは思い得ざる愛らしさと、親しみや快活さにあふれたる彼女の分離個体は星域各所で歓迎され、戦災に苦しむ種族に希望を与えると共に、多様な情報の収集に成功せり。自らの被害は少なきが故に、その地位の上昇を図るべく復興支援に消極的なりし種族は、彼女が宇宙進出時代にかつての敵に対して行いたる支援とその成果の記録を、諜報活動の過程において入手せり。この種族は自らの行いを反省し、真摯しんしに支援活動に協力することを約束せり」


「またある惑星の種族は援助物資を流用し、敵対惑星上の全生物を分解有機物からなる灰色の泥濘グレイ・グーと化するべく、無制限増殖型極微機械ナノマシン兵器の製造のための地下秘密施設を建造せり。これを発見せる彼女の巡察分離体は、惑星指導者に特使を派遣せり。彼女は指導者に対し、旧帝国では同種施設が漏出事故や制裁措置によりて大陸または惑星ごと焼却されし先例を涙ながらに語り、長官への報告前に撤去するよう求めたり。当初は分離体の破壊も検討せる指導者は彼女の説得に心動かされ、これを承諾せり」


「然し、この指導者の後日談によれば、特使の帰還直後に施設直上の空虚なはずの宇宙空間において、まごう方なき超空間突入の鋭き閃光が観測せられたり。この事件を報告されし彼女は、同種族が極度の恐怖と緊張を覚えたる際の典型的反応として、三個の眼から滂沱ぼうだの血涙を流しつつ六本の脚を激しく痙攣せしめたり。グラシャラボラスは、陰謀や詐術とは無縁の種族なり。然し、その上司には自らの察したる所を部下に伝うべき義務はなく、また最愛の友好種族たる副長官の分離個体が危険な任務へおもむくに際し、万一に備えて強力な隠蔽いんぺいと探査、攻撃の能力を有する最新鋭戦闘艦を密かに追随ついずいせしめたるとて、これを責めること能わざらん。指導者は自らの幸運に感謝しつつ、施設の解体を急がしめたり。大深度地下施設への攻撃においては、新帝国の人道的戦術といえども、放射性溶岩窟の形成や群発地震の発生による被害は免れ得ざるが故に、その判断は極めて賢明なものというべし」


「バールゼブルがいかにグラシャラボラスを高く評価し、また親愛の情を抱きたるやにつきては、その惑星を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんなり。その最大の〝都市〟即ち他種族との交流地域は、かつては彼女の活動拠点に特徴的なる幾何学的な機能美を備えしものなれど、現在ではグラシャラボラスの母星の如く、自然と調和せる低層建築が広がる庭園都市へと変貌せり。また、彼女の分離体が所領を調査する際は、必ず副長官の分離体を伴いたり。進入に危険を伴う超新星衝撃波の前面宙域や軍事施設の残骸等は自らの強化自動機械アバドンを用いて探査せるも、その回収後は必ず〝都市〟に持ち帰りて共同で観測結果を分析し、公式報告を作成せり」


「かかる協力の成果は、旧皇帝領における統治宣言にも反映せられたり。彼女達は、天空より破滅をもたらす超新星爆発の白熱の光輝に先行して、文明の秋を迎えたるが如き惑星群を訪問し、救援の開始を伝えると共に、同星域の歴史ある種族に敬意を表しつつ、以下の如き宣言を行いたり」


「即ち、『汝等旧皇帝領の種族は、恵まれし者なり。帝星近傍の地政学的利点から、自らの宇宙進出を待たずして創成期の帝国に編入され、その拡大に伴いて大いなる栄光と繁栄を享受きょうじゅせしが故に、帝国統治の正当性にもまた絶大なる信頼を寄せたらん。然し、〝権力は腐敗する〟との箴言しんげんの如く、旧帝国もまた、歳月の経過に伴う政権の腐敗から内戦を招来し、汝等に存亡の危機をもたらしたり。汝等の内には膨大なる生命や資産を失いて、帝国及び星間社会に対し悲観的展望を抱き、さらには絶望せる者もあらん。然し、我等新帝国種族は汝等の敵に非ず。恒星間の宇宙に願いをせて、再び汝等と共に在り、全力を以て汝等の復興を支援するべく、この宙域に到来せるものなり。汝等も知るが如く、帝国の統治形態は徐々に変革を開始しつつあるところなり。将来における旧皇帝領の復旧、さらには戦前以上の繁栄を目標として、我等は一個また一個と惑星を、そして恒星をよみがえらせん。我等が求むるは、唯一つ輝ける帝星のまばゆき光芒に非ず。星域を形造る無数の惑星の多彩なる輝きが織り成す、遥かに偉大なる光輝なり。我等の希望は汝等が、もはや理想も色褪いろあせたると思われしこの星域に再び、そして此度こたびは永遠となるべき、友好と交流の精華を開花せしめることなり。我等は汝等に対し、汝等が他種族のために何をなし得るか、また他種族が汝等のために何をなし得るかを見出し、〝全ての種族のための文明発展〟を理念とする新帝国の協働と繁栄に貢献することを、切に願うものなり』と」


「この宣言及び彼女達の事績を分析せる旧皇帝領の諸種族は、次々とこれに賛意を表明し、新帝国への帰順よりも滅亡を選択せんと言明したる種族までもがこれに賛同するに及び、ここに一自治領としての旧皇帝領が民主的に成立せり」



(5)〝アンドロメダ戦役〟の正当性


「種族融合と〝銀河系戦争〟に続く、バールゼブルへの第三の試練は、〝アンドロメダ戦役〟なりき。旧帝国種族はその広大さ故に統一と発展の途上にあるアンドロメダ銀河へと侵攻し、同銀河の中核領域を迅速に制圧せり。彼女達は同地を拠点として、新帝国による治安回復の直後から、銀河系に対し散発的な襲撃を加え来たれり。この反撃は荒廃著しき旧皇帝領よりも、復興が急速に進むその他の中心星域、及び躍進を遂げつつありし開発途上星域……後に狭義の中央星域、あるいは帝国本土として統合されし二星域……に集中せしがため、その迎撃は主として正規軍艦隊司令長官アスタロトが率いる機動艦隊、及び本土防衛司令官アモン麾下の星系防衛部隊の任務なりき。然し、アンドロメダ銀河における内乱の勃発と反乱勢力からの支援要請、及び新帝国における超空間航法の完成によりて遠征艦隊の派遣が決定され、さらにはその後反乱軍劣勢との緊急報告がなされるに至り、各理事種族の遠征参加が検討せられたり」


「当初サタンは、親衛軍に属しながら中枢種族と戦いし彼女が、旧帝国側種族から裏切者として特に憎まれしことを知り、彼女の心情と安全をおもんばかりて出動要請を躊躇ちゅうちょせり。然し彼女は、一時の誹謗ひぼうや危険をこうむるとも真の罪ある者を摘発し、かつての犠牲多き軍事活動への悔恨がもたらす痛苦を鎮むべく、分離体による遠征参加を希望せり」


「理事種族の融合体及び分離体は、いずれも自動機械アバドンの集合体からなる強化外殻を装備せり。バールゼブルは高度な技術力を保有する中枢種族との直接戦闘に備え、機動性及び攻撃力を重視せる強化外殻を選択せり。彼女はこれらを、自律精密誘導が可能な超空間誘導弾としても用いうるべく、さらなる改良をほどこせり。彼女は〝中核領域の戦い〟においてこの外殻を使用し、中枢種族の超新星兵器製造施設を急襲・破壊せり。この作戦は同兵器による中核領域の壊滅を阻止すると共に、その混乱に乗じたる敵艦隊の反撃や脱出を防止し、戦意をくじきて無条件降伏せしめることに貢献せり。同作戦は他方で、多数の超新星兵器が内蔵せる大量の反物質の落下によりて、製造施設が周回する恒星の極超新星爆発を惹起じゃっきせり。然し、彼女は作戦後直ちに銀河系から専用の自動機械アバドンを搬入してその封じ込めを行い、滅亡を免れし周辺種族からの絶大なる信頼を新帝国にもたらせり」


「戦後彼女は、防衛配備が手薄なりし天頂及び天底方向を中心に、銀河系及びアンドロメダ銀河を取り巻く光球域の内部にも自動機械アバドンを展開して、探査・警戒を開始せり。かくして彼女は、帝国外からの平和的来訪者を歓迎すると共に、彼女の楽園となるべき旧皇帝領を始め諸星域が二度と再び外宇宙からの襲撃を被ることなきよう、万全の対策整備にも貢献せり」



(6)アスタロトについての抗弁


「アスタロトは、平坦な地形と超長周期の潮汐ちょうせきにより、複数の陸地が交代で水没と出現を繰り返す惑星において、陸地の間を移動して生活する渡り鳥から進化せる種族なり。また、豊富な魚類を主食とし、農耕及びそれに伴う集権国家運営の経験も少なきが故に、自由及びその前提となる平等を尊ぶ種族なり。さらに、心理的負荷ストレスに応じて出生数が減少するという生物学的特質から、人口爆発による戦争の反復という歴史も免れしが故に、彼女が正規軍の艦隊司令官にまで昇進せるは、ひとえにその移動生活への適応や清廉実直な性格によるものというべきなり」


「然し、このとき既に帝国政権腐敗の影響は正規軍にまで及び、司令官の中には中枢種族と親衛軍の謀略的作戦への協力または黙認を求められ、あるいは自ら地方軍閥化して周辺種族に対し不正な利益供与を要求する者等が増加せり」


「自由と正義・公正を愛するアスタロトは、軍内のかかる風潮を憂いたり。彼女は領土と利権の拡大に固執せる統治種族への冷笑的言動、さらにはそれらを違法かつ非道なる手段によりさんとする種族への嫌悪と軽蔑を隠し得ざりき。彼女のかかる振舞いは、一中枢種族の好ましからざる関心を誘引せり」


「ここではピュロスと仮称すべき、実際には発音困難な名称を有する惑星の内紛鎮圧任務において、彼女の艦隊はまず当事者間の調停を試みるべく、この惑星に接近せり。然し、艦隊を率いる彼女の可動母星は、予期せぬ遠隔素粒子操作兵器の攻撃を受けて、地殻の一部を失うほどの被害を受けたり」


「事件の直後、失敗に終わりし彼女の任務を続行すべく、先帝の名のもとに親衛軍艦隊を伴いて現場に到着せしは、当該兵器の開発及び生産で知られたる中枢種族、〝炎の王〟なり。彼女は先進兵器の技術及び製造資材の窃取せっしゅという罪状によりて、惑星ピュロスを一撃で粉砕し、事件を終結せしめたり。然し、有力種族にも非ざるピュロス人が、かかる犯罪を単独で実行することは、事実上不可能なり。従って、事件の全体がこの中枢種族の策謀によるものにして、彼女達は実行犯として利用されし後、証人の抹殺及び示威じい行動のために滅ぼされたらん、との噂が帝国内に拡大せり。〝炎の王〟もまた、これにつき暗黙の威圧を加えるが如く、不気味な沈黙を継続せり」


「艦隊司令官としての能力と自信を失いし彼女に救援の手を差し伸べたる者は、サタンなり。彼女はかねてよりアスタロトの声望を知りて好ましく思いたるが故に、文明開発省の軍事部門副長官として彼女を希望し、正規軍の司令部もまた厄介払やっかいばらいの如き形でこれを承認せり。途上星域の保安任務は、中心星域外縁における親衛軍の警備任務以上に軍事出動の負担が少なく、アスタロトの回復には十分なる時間と労力の余裕が存在せり」


「サタンはまずストラスの協力のもとに、バールゼブルが保有せる自動機械アバドン群の建設・軍事技術を応用して、アスタロト艦隊の再建に協力せり。アスタロトは以後同様の被害を被りたる場合に備え、あえて惑星の再生を断念し、反対に大量の鉱物を採掘して、多数の可動小惑星及び超大型艦船を建造せり。また、修復せる母星の融合体からこれらに大型の分離体を派遣して、指揮中枢機能を分散せり。彼女の意思を酌みたるサタン及びストラスはこれに応じて高度な情報・通信技術を提供し、多数の哨戒・偵察用艦艇からも分離体を回収して自動機械に置き換えると共に、融合体・分離体・自動機械相互間の有機的な連携能力を付与せり」


「以上の如き分離体規模の最適化と、指揮・通信系統の改善は、戦闘被害による融合体・分離体の損耗を防ぐと同時に、損害を被りし場合においても、他の艦隊と同等以上の戦力を保つことを可能とせり。また指揮中枢の分散は、融合以前には分権的な社会を形成せる彼女の種族的性格とも合致して、艦隊運用の円滑性を向上せしめたり。然し、重大な脅威に対応すべきバールゼブルらの親衛軍に対して、アスタロトは正規軍の所属なり。故に彼女は多種族からなる大艦隊の連携を保ち、多様な任務に責任と柔軟性を持って対応すべく、戦闘艦艇につきては完全機械化を行わずして分離体による指揮を継続し、内部の操作性を飛躍的に向上せしめるための改良のみを実施せり」


「これらの修復と改良により、アスタロト艦隊は従来以上の強靱性、機動性及び広域作戦能力を得たり。図らずもこの能力は、内戦時に混乱状態に陥りたる中心星域において、こころざしを同じくする他の正規軍艦隊を各所において迅速に糾合きゅうごうし、社会秩序を回復することにも寄与せり」


「またサタンはアスタロトに、地球を含む多くの惑星において自ら文明開発事業を経験させ、次の二つの事実を理解せしめたり。即ち第一に、彼女がそれまで帝国腐敗の元凶とみなし、時には憎悪の念をも隠し得ざりし専制体制が、殆どの文明の発展過程においては、多くの個体が一所懸命に生産活動に従事し、その成果を分配して共同生活を営むべく、必要不可欠のものなりし時代が存在すること。然し第二に、生産及び交通・通信技術が十分に発達せる暁においては、彼女の如き幸運なる種族が先取せる理念に従い、政治的・経済的自由が拡大せる分権的社会体制へと移行すべきことなり」


「帝国内の移動生活によりて多数の種族と交流経験のある彼女は、開発事業においても優秀なる適応能力を示し、特に地球の農耕開始を支援せる際には、彼女の地球型分離個体が女神イシュタルとして地球人より崇拝され、さらにはその一名と恋愛関係に至りしほどなりき。サタンの実践的指導は他種族の文明に対する彼女の理解・交渉能力を高め、優秀な統治種族としての資質をも育みたり。彼女自身もまた自らの努力により、惑星の損傷による人格・記憶の一部喪失という悲劇を、自己の歴史に対する過信を免れて新たな歴史の創造に向かう好機へと転じ、種族的・政治的偏見にとらわれることなく、多様な文化を摂取、媒介及び創造し得る能力を得たり」


「以上の如き経緯から、アスタロトはサタンに対し絶大なる信頼を抱くと共に、自らもまた第二次内戦において多数の種族から信任を獲得し、新帝国正規軍艦隊の司令長官に就任せり。さらに、彼女から支援を受けたる発展途上種族も以後健全に発展し、内戦時のみならず戦後の復興と改革においても多大なる貢献を果たせり」



(7)アモンについての抗弁


「アモンもまた実直な種族なれど、さらに言えばこの内戦における、新帝国の理事種族中最初にして最大の被害者なり。彼女はアスタロトの後進たる種族融合体にして、規律と秩序を尊重し、帝国及び正規軍の理想に従いて軍務を果たすことにより、昇進を重ねたる種族なり。然しまた彼女は、アスタロト以上に世知せち融通ゆうずうに乏しき種族なり」


「中枢種族はアスタロトの事件以降、かかる種族が腐敗の実態を知ることを防ぎ、社会の関心を帝国の栄光へと逸らさんとすべく、彼女を〝機密保全上問題のある〟任務から遠ざけて、華々しき犯罪種族討伐などの任務に当たらしめるよう、正規軍司令部に要求せり。司令部もまた、彼女の心情及び自らの保身への配慮から、これに従いたり。故に司令部は、彼女が正当な軍功に基づきて種族融合の資格を得たる後も、彼女に艦隊司令官の地位を与えることを躊躇ちゅうちょせり。アスタロトが自らの正規軍復帰に伴い、後任に彼女を推薦したる時が正にこの時期なりしことは全くの偶然なれども、この申請もまた直ちに受理せられたり」


「アモンは副長官就任後、前任者と同様にサタンへの深き敬愛と信頼の念を抱き、彼女もまた職務の完遂に伴う資質向上を期待されしが、帝国の秩序はこれを待たずして崩壊せり。それまで帝国統治の暗黒面に関する実体験を免除されし彼女にとりて、他ならぬ中枢種族が文明開発省の職務に対し、大規模かつ悪質な違法行為を働き続けたることの露見は、彼女に大いなる衝撃を与えたり。さらに、その是正を求めしサタンと我に対する討伐とうばつの勅命が下り、あまつさえそれに対して異議を唱えたる彼女への処刑者として、最愛の姉妹種族カイムが選ばれしことを知りたる彼女の懊悩おうのう葛藤かっとうは、察するに余りあらん」


「彼女はサタンへの背信行為と考えつつも、遂にカイムへの積極的攻撃を行い得ざりき。彼女が装備せる防御兵装の自動反撃によりてカイムの惑星が破壊されし時、彼女の惑星の表面もまた多大なる被害を被りたり。然し、それ以上に融合体の精神は深刻なる打撃を受けて、彼女は戦闘不能に陥りたり。サタンは彼女にかような悲劇をもたらせしことを悔やみ、これ以上の艱難かんなんを免れしむべく、彼女を安全な星系に退避せしめ、自らは囮となりて別方向に移動しつつ、他の種族と協力して事態の改善を図ることを決定せり。以上の一事を以てしても、彼女を凶悪なる軍事種族と呼称することは全く不可能なり」


「かかる状況を救いし者は、救援に参じたる科学省長官ストラス及びアスタロト艦隊なりき。ストラスは、バールゼブル艦隊の技術部門副司令官として通信傍受を担当せる、姉妹種族アミーからカイムの出撃を通報され、アスタロト艦隊で同職にある姉妹種族ヴォラクの協力を得て、その護衛下にて来援せしものなり。ストラスはカイムの残骸の一部を発見し、艦隊の建設部隊を動員すればアモンとの融合により再生が可能なることをサタンに通知せしところ、サタンもまたこれを喜びてアモンに推奨すいしょうせり」


「サタンはアモンを慰労いろうして、次の如く語れり。即ち、『汝は私益のために我等を見捨てたるに非ず。自らの安全を犠牲にしてまでも、最愛の姉妹を守らんとせしものなり。故に汝は、腐敗や蛮行から最も遠き軍事種族なり』と。不服従には絶滅を以て報いる、旧帝国軍の冷酷な規律のもとにありしアモンにとりて、この温情は、被害の苦痛を忘れしめるほどの喜びと感謝の念を生ぜしむものなりき。彼女は復活せしカイムと共に、サタンへの忠誠を誓いたり。後に彼女は、この時サタンの惑星に後光を見たるが如しと述懐じゅっかいせり。 然し、かかる温情は新皇帝のみが有するものに非ず。彼女に命を救われしカイムや、後に、攻撃対象とせる彼女に無傷で送還されしアンドロメダ銀河の先住種族にとりては、彼女自身もまた同様に見えたらん」


「戦後、アモンの惑星は強力な遠隔恒星動力砲を配備せる星域防衛の司令部としてのみならず、カイムの惑星の構成物質と生態系をもまじえたる、自然環境豊かな楽園として再生せり。これは当初、本土防衛司令官の職務に伴う危険から、政治・経済・社会的に重要な施設の建設は困難という、消極的理由によるものなり。然し、その後新帝国の発展に伴い、途上段階から先進段階に到達せる種族が増加し、また帝国への脅威が減少しくに伴いて、状況は変化せり。アモンの自然豊かなる惑星は〝適応自在なるもの〟達に対し、より豊かな生物資源を共存せしめ得る惑星改造と環境適応の模範を示し、さらにはかつての上司アスタロトを含む軍事種族に対しても、軍事負担の軽減に伴う惑星環境の再生と産業活動への進出を促すという、積極的な意義を有するものに変化せり。即ちアモンは、民生分野への直接貢献も可能なる、新しき軍事種族へと発展したるなり」


「以上の経緯にかんがみれば、当時の皇帝領を含む中心星域において戦乱を終息せしめたるバールゼブル、グラシャラボラス、アスタロト及びアモンは、いずれも〝凶悪なる軍事種族〟とは程遠ほどとおき存在にして、むしろ旧帝国側のかような種族が惹起じゃっきせる惨禍に終止符を打つべく、かの酸素運搬効率の乏しき青色の血液を有する、しかし帝国文明発展への情熱は青き炎の如く熱きサタンの陣営に参じたる、清廉にして高潔・公正な種族なることは明白なり」

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