第五章 アスモデウス 4~5
4 三姉妹種族についての抗弁
(1)ストラスについての抗弁
「第四に、ストラスは極低温の大型惑星で発達せる単一生命体なれど、それ故に生命の尊さを知り、また中枢種族の軍事分野に偏りし技術の開発及び独占を反面教師として、健全なる技術観を育みたる種族なり。彼女は旧帝国の時代においても、科学省長官として文明開発長官サタンと協力し、科学技術の利用を助ける技術的政策によりて、民生の向上を図れり。その内容は、各種技術の研究・開発政策のみならず、技術の物的資源化に関わる
「ストラスはアンドロメダ戦役において、〝中核領域の戦い〟を遂行せし分遣艦隊の司令官を務めたり。中枢種族は当時、超新星兵器によるアンドロメダ銀河中核領域の
「即ち、『アンドロメダ銀河の先住種族に告ぐ。我が名はストラス、中核領域分遣艦隊の司令官なり。現在汝等を支配せる中枢種族は、かつて我等が銀河系において一大星間帝国を築きたるも、政治的腐敗から相互の内戦を招来し、自らの国土を非人道的兵器により荒廃せしめたる末に国を追われし犯罪集団にして、今また汝等を使役して銀河系の再征服を企てつつあるものなり。我等もまたかつては彼女達に技術や戦力を提供し、免れ難き罪を負いたるが、今や
「彼女の
「攻撃目標たる超新星兵器生産施設の周辺には、遠距離攻撃に対する早期警戒部隊も展開せしが、攻撃の直前まで到来を察知すること能わざりき。警戒部隊の一観測員は、迎撃艦隊の捕捉を
「以上の量子情報戦により、ストラスは先住種族に新帝国の正当性を周知せり。またこの作戦は、敵戦力を効果的に分散せしめ、バールゼブル艦隊と後続のグラシャラボラス艦隊の奇襲に伴う
「ストラスはかつて、自らの担当せる種族融合体複製実験においても、被験者を危機から救いたり。複製実験は、中枢種族の
「アミーとヴォラクの前身種族ウォフマナフは、優秀な頭脳で知られたり。然し、その
「ストラスは自らの経験上、帝国の技術政策はその
(2)アミー及びヴォラクについての抗弁
「これらの恩恵によりて、ウォフマナフの反骨と
「『ばあん! 相討ちなり。 汝等が怨敵種族・
『旧帝国の慣習によれば滅亡種族の資産は上級種族に帰属せるも、今回は残念ながら双方共損害軽微なるが故に、次回の決闘に期待せん。臨時政府軍司令官アスタロト』」
「この直後、一方の惑星では指導部の総辞職と政権交代の後、直ちに禁止兵器の廃棄が決定され、他方の惑星では内戦勃発寸前に臨時政府軍が到着して、武装解除を実施せり。面目を潰されしアスタロトは激怒せるも、その教訓的な効果は他の種族に対しても明白なりしが故に、〝正義公〟は独断的な作戦に対する
「然し、一部の種族はさらに過激化して秘密組織網を形成し、遂には共同して決起を図るまでに至れり。反乱決行の直前、その本拠地となりし惑星には参加種族の代表者が集結して、最後の会合を開催せり。広大なる議場は各代表が順次演説を行うに従い、熱狂的な雰囲気に包まれたるが、中でもアスタロトの所管施設に数度攻撃を行いて成功を報じられたる種族が登壇するに及び、興奮は最高潮に到達せり」
「彼女は、以下の如く演説せり。
『我等の銀河においては、前代未聞の戦禍を被りたるにも関わらず、なお
この言葉は、全員の賛同の声を以て迎えられたり」
「『超新星兵器の恐怖を経験してもなお、平和主義的体制を信ずること能わず、
会場の多数を占める平和政策反対論者と公然武装論者は、ここでも非難に同調せり」
「『架空の防衛需要や軍律の魅力を口実に侵略準備を行う種族など、実に奇ッ怪な生物なり』
少数の種族は首を傾げたるも、堂々たる征服こそ正道と考える者達はなおも
「『地上鷲よ、飛翔せよ! かの動物は、正邪も合法・違法も知るところに非ず、ただ自らの偉大さと栄光に酔い痴れて、進歩と無縁の闘争を
演説者はここで見事な双翼を広げ、多くの聴衆はその主張を印象づける演出の妙に歓声を送りたり」
「然し、一部の銀河系事情に詳しき種族は、その話法が新帝国においてのみ可能な、権威への痛烈な風刺を込めたものにも聞こえることや、その翼が
「『重大なる歴史の教訓を忘れ、汝等にしか見えざる啓示に従いて、宇宙を翔けよ! 然らば我等は再び戦場にて
遂に会場には、明らかな困惑と
「『……然し幸いにも、
今や変装を解除して一礼せる演説者の冷静なる声が
「この逮捕劇は当初、演出過剰とも評されたり。然し、アスタロトはこれを、犯人達の疑惑を段階的に増大せしめ、その緊急通信を傍受して黒幕を解明すべく、ヴォラク及びその姉妹アミーの協力を得て行いし作戦なりと説明し、予想通り真の首謀者として、中枢種族の残党が摘発せられたり。
「これらの解説を受けたる代表者達は当初いずれも
「この計画を摘発すべく、アスタロトからの依頼に応じて外縁種族への潜入捜査を担当せしは、同じく非酸素・炭素系種族のベールとその姉妹種族の分離体なりき。中枢種族残党は彼女達に超新星兵器の技術までをも供与して、これを製造せしめたり。然し、かつて彼女達に欺かれて新帝国と戦わされし彼女達は中枢種族を信用せず、計画の進行状況を逐一ベール達に報告せり。現在それらの超新星兵器は全て解体され、反物質は外縁・外周星域の開発に活用せられたり」
「アンドロメダ銀河中核領域の先住種族は、旧帝国の中心・外周種族と同様に、外縁領域の種族と長らく対立し、互いに〝浮草〟〝石くれの住人〟と蔑称せり。故に代表者達は、自らが外縁種族を主役とする作戦のまさに捨て石にされんとしたるばかりか、彼女達の方が遙かに賢明にして、
「以上の事実からみても、ストラスは病的な異種族には非ず。彼女は
5 二大外周種族についての抗弁
(1)ベールについての抗弁
「第五に、アドラメレクは裏切者に非ず、ベールもまた不満分子には非ざりしなり。アドラメレクは二つの種族が同一の惑星上で発展して一種族となりし混成種族なるが故に、異種族間の利害調整による文明発展支援を得意とする種族なり。彼女は文明開発省において優秀なる業績を挙げ、種族融合を達成したる後に、我が推薦によりて銀河系外周星域の副長官に任ぜられ、同地に
「彼女は中央から派遣され、内政上の拒否権を有する同星域の
「アドラメレクはサタン及び我と共に、後に〝大避難〟と称される主要惑星群の避難を誘導し、ベールはその間、自らの兵力を以て派遣軍への足止めを実施せり。ベールは地の利を有するのみならず、我等と共に訪れしアスタロト・アモンの分離体からの作戦指導や、その後に来援せしストラスからの技術支援を得て、次々と戦術及び装備を更新・改善せり。彼女は〝外周星域の戦い〟全体を通じて戦勝を重ね、遅滞作戦を行いつつ反撃の時期を
「然し、ベールは液化気体からなる巨大惑星において、多種多様な生物が集合して一個の共生体を構成せる、いわば天然の種族融合体なるが故に、その兵力の損失は正に身体の一部を失うに等しき苦痛を彼女に与えたり。またその特質からくる豊かな共感能力から、中心星域種族に動員されし罪なき同胞はもとより、中心種族自体の犠牲さえもが彼女の精神に深刻なる打撃を与えたることは、当時秘せられし事実なり。加えて、帝国全体における戦争の
「即ち、『親愛なる副長官アドラメレク、銀河系外周星域長官たる我の願いは、中心星域種族と外周星域種族の対等なる友好的共存にして、一方が他方を武力によりて併呑するが如き蛮行に非ず。我は
「『数ある中心種族の中で汝こそが我が側近となりし事実は、我等にとりて明白なる運命の
(2)アドラメレクについての抗弁
「アドラメレクはこの通信に対し、ストラスの秘話通信網とアモンの伝令分離体によりて通報されし他星域の戦況や、新帝国理事種族の性格に関するより詳細なる情報、さらには新皇帝が計画せる戦後政策の概要と共に、以下の回答を送信せり」
「『敬愛する我が上官ベール、我は汝の
「『汝等姉妹を中心とする外周種族はその規模・代謝等の生物学的特質から、極めて慎重かつ保守的な性格を有せり。故に彼女達は、かつて戦火を交えたる中心種族との正式な同盟を
「『我等の情愛は、この
「『〝大避難〟の完了に伴いて、我は現皇帝より、彼女自身が立案し、また
(3)〝外周星域の戦い〟における正当性
「この通信によりて星域内外の情勢と最愛の腹心の忠誠に対する不安、そして戦闘の苦痛から一挙に解放されしベールの喜びがいかばかりかは、言を待たざらん。彼女はサタンに、以下の如き親電を送信せり」
「『愛すべき新皇帝サタン、帝国の臣民に対する旧王朝の保護は、既に消失せり。然し、彼女達の悲しみは今や一つの願いとなりて、新たな帝国の
「『途上星域に対する旧帝国の配慮もまた、既に消失せり。然しこの悲劇に対し、幾千の途上種族が汝の部下アモンに従いて、秩序の維持に協力せり。我が願いは、種族間の友好と協力の必要性を最も理解せる中心星域種族、即ち汝の勝利なるも、皇帝領は通信途絶し、同星域は無政府状態と化して、帝国は崩壊の危機に瀕せり。然し皇帝領に進入せる汝の友好種族バールゼブルの親衛艦隊は、中枢種族より〝闇の
「『中心星域における旧帝国の統治は、
「外周星域最後の戦いにおける両軍の、直接攻撃による被害は
「囮となりしサタンと我に向けて殺到せる中核艦隊が、アドラメレクの誘導せる暗黒天体の通常空間復帰に伴いて、
「以上の事実から、アドラメレク及びベールは決して
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