第2話
────もうすぐ『あれ』から四年になる。
村では毎年『あの日』になると鎮魂祭が開かれ、もう大丈夫だから安心してお休みくださいとばかりに村中で大騒ぎをする。
しめやかに悼むよりもその方がいいだろうという村の方針らしい。
子どもたちは皆で、色紙を使って色んな飾りを作る。
輪っか、紙ふぶき、花、動物、などなどなどなど。
「ちゃんと小さく切らないとぶん殴るよっ」
セリシアが割と小さい子たちにそう言うと、彼女と同年齢くらいの女の子たちは、
「えー、そんなくらいで殴らなーい」
「えー、野蛮すぎー、これだからサカナはー」
と言ってクスクスと笑う。
無性に恥ずかしくなったけれど。
でも、そういうものじゃないの?
ダメだったら殴られる。失敗したら殴られる。間違えたら殴られる。
それが当たり前じゃないの?
「…………あんたたちのせいで……あんたたちが居たから……」
途切れることなく呟かれる言葉は呪いのようだった。実際呪いたいくらいなのだろう。
同じ部屋の隅で二人で小さくなって、四つ上の姉が罵られ殴られるのをただ背中で見ているしかできない。
ともすれば飛び出していきそうになる一つ上の兄の腕に必死にしがみついて止めながら、セリシアは泣きながら声を抑えてただがたがたと震えている。
母の小言が始まった原因はもうなんだかわからない。
でもその内容はいつも最後にはこうなる。
「あんたたちのせいでディノスが……」
四年前に村を襲ってきた魔族たちはしきりに『色付きを出せ』『色付きはどこだ』と言っていたらしい。
村の老人たちや子どもたちを避難させられるだけ避難させて大人たちは奴らと戦った。
父は鍛冶屋だったが戦える腕もそれなりにあったらしい。
けれど死んだ。父以外にもたくさん死んだ。相手は大量の魔族だ。ただの人間が敵うわけはない。
素直に全員避難して専門の討伐隊の到着を待っているべきだったのだろう。
けれど相手を侮っていた。下級の魔物の大群くらいに思っていたらしい。
近所の子どもたちにはサカナみたいだとからかわれ、居るだけで魔族が襲ってくる。それで父は死んだ。だから母に疎まれている。
精霊の加護って何なんだ、全然守ってくれないじゃないか、こんなのただの疫病神だ。
がちゃん
一際不吉に金属的な音がする。
恐る恐る振り向けば尻餅をついているような姿勢の姉の少し後ろの床に落ちている鋏。
ゾッとした。
母が姉に投げつけたのだ。
「あんたたちなんて……あんたたちなんて……」
「……エルダー!!!」
そこで怒鳴り込んできたのはやはり隣のコリアおばさんだった。
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