サカナの瞳

千里亭希遊

第1話

「お前らの目、魚みてぇ」

「気持ち悪ーい。一番上とか更にキモイ。あれは悪魔だろ」

 からかわれるたびにセリシアは泣いて帰る。

 そして何を弱気になっていると更に父に怒られる。

「お前らのそれは精霊様に護られている証だぞ、恥ずかしがることはねえ!」

 がははと笑いながらそう言う父であるが、実際からかわれる身としては、本当に守ってくれてるのか実感すら抱けない精霊のありがたさよりも、近所の子どもたちの好奇の視線と侮辱の理不尽さの方が切実な問題だった。

 《精霊の加護ブレス》は瞳に現れやすいと言われている。

 理由は定かではないが、職業ギルドの研究員たちの間では"見る"という行為が力の発動に大きく関与しているからではないか、なんていう説が有力らしい。

 しかしそれも怪しいものだ。何せ盲目の能力者だっているのだから。

「もっと背筋張ってしゃんとしてろ! 情けねえぞ!」

 父のその前向きさには根拠が見えなくて、娘は父にすら苛立ちを覚えてしまう。

 だけど嫌いではなかった。

 根拠は見えないとしても、無条件に自分たちを誇ってくれる父は娘にとってとても眩しかった。

 鍛冶ギルド仕込みの護身術だ! なんて言って戦闘技術を教え込まれるのは怖くて辛かったけどそれでも文句も言わずに三人とも一生懸命習った。

 それは父のことが大好きだったからなのだろう。

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