運命の歯車に乗って その2
「…オンミョウって」
タロウは自らを和人と名乗り、オンミョウを継ぐ者といった。
その言葉に同じ和人であるスイは過剰反応をする。
「でたらめを言わないでよ。和人はトウイにしかいなかったはず。なのに、ユーカライズに居たって。そんなの、聞いてない」
「俺の家は、ユーカライズに和人の誇りを売ったとしてトウイの統領自らの御達しで和字を使用した名を禁じられ、トウイからその痕跡全てを消された。知らなくて当然だろ? もう、何代も前の話なんだぜ」
そんなことをタロウは簡単に話すが、その事情がいかに重い処遇かトウイの生き残りであるスイにはわかる。
ユーカライズでの刑罰でたとえるならば、死罰よりも重い極刑だ。
「でも、オンミョウって。あの陰陽術の使い手ってことよね」
「そうだよ。俺は死者の魂を不完全に生き返らせることができるオンミョウジュツを使える。一端のオンミョウジだ」
その言葉にスイはまたしても驚く。
トウイにいた頃は、陰陽師とは禁忌の職とされ詮索することでさえ禁止されていた。
そんな陰陽師が目の前に居る。スイの心は複雑だった。
「もう、いいだろ。人の過去を詮索するのは旅と共にってな。ほら、今は俺を仲間にいれるかどうか考えたらどうだ?」
タロウのそんな言葉にスイ以外の他の四人が、自我を取り戻したように話しだす。
「しょうがない。仲間にするとしますか」
「おっし。やりー」
オーバーリアクションともいえるガッツポーズをした後にタロウをそそくさと荷台に乗り込む。
「これから宜しくな」
タロウを新たな仲間に迎えたアンリミデット・ワークスは荷台をまた走らせた。
「んで、自己紹介とかしてくんないの? 俺、アンタ等の事、そこの人が和人だって以外はわからないんだけど」
しばらくして、タロウが痺れを切らしたように言った。
「あー、忘れてた」
「ちょ、ジアン!? 忘れてたって」
「サズも忘れてたでしょう」
「いや、そのー」
白々しすぎるサズとそれを攻めるジアン。
「二人とも、今はいいでしょう。早くしましょう」
そこにリミカが仲裁に入る。
「そうね。んじゃ、立場的に私からかな。おほん、私はこのアンリミデット・ワークスのリーダー。ジアン・ラリティア。一応、魔導師だからよろ」
「私は、リミカ・神代・スグトゥーワ。和人の血が入っているらしいのですが、私は生まれも育ちもユーカライズ育ちなので、和字などは名前以外の字は使えません」
「あ、俺はサズ・フレンっていいます。獣人です」
まずは荷台に乗っていた三人が軽い自己紹介をする。
「順番的に私かな?」
次に、馬に乗っていた二人が自己紹介をする。
「私はミラカスファ・ローゼス。楽器なしの吟遊詩人やってるよ」
「…スイ・鋳薔薇。和人でトウイの生き残り」
スイは嫌々といった様子で短い自己紹介で終わった。
「なんか、個性的な面子だな」
「でしょ。私の人格があってこその」
「馬鹿な事を言わないで。私はジアンみたいな人格について行くほど安い女じゃありませんよ」
「あはは、喧嘩しないで二人とも。馬暴れさせちゃうよ」
笑顔でジアンとリミカを脅すミラ。
「中々愉快だな。てか、これ何所向かってるん」
タロウが今更過ぎる質問を投げかけてきた。
何故、今の今まで疑問に思わなかった方が疑問だ。
「えっと、地下街です。この近くに地下街があるはずだって皇リズマレットが言っていたので」
「へー、地下街ね。まさか、我が国の皇がそんなところを野ざらしにしてるなんてね」
「ま、皇もそこまで暇じゃないってことよ。因みに私とスイはユーカライズに住んでいない地下の人間だから」
「ミラ!? 私は違うからね! トウイで生まれ育ったからね」
「え? でも、ほとんどは」
「あー、そうだけど」
珍しく調子を崩すスイはとても可愛らしい。
「てことは、アンタ等二人も途中参加組か?」
「ま、そんなところ」
「そうだけど」
がたがたと揺れる砂利道をひたすら行く六人は、雑談をしながら若干楽しく向かう地下街を目指していた。
「あ、ミラ。見えたよ、入り口」
「え? あ、本当だ」
砂利道を抜けて数分。
草原の中に隠れた地下街への入り口が見えた。
「ふー、やっとだ」
「案外、長い道のりでしたね」
「俺、ちょっとお尻がいたくなっちゃいました」
荷台から降りて地下街の入り口を近くで確認する。
今回もまた、前回同様に蓋がされてある。
「この蓋重いし、私の魔導でいっちゃうか」
「そうね。その方が効率的でいいわ」
「俺も賛成です」
三人がそんな話をしていると馬から降りてきたスイとミラがようやく来た。
「あ、そうだ。ジアン、見えないようにしておいて」
「おーけー。…ロジア」
そんなジアンの何気ない一言でさっきまであったはずの荷台と馬が消えた。
消えたと言っても、魔導で視覚できなくした。といった方が正しい。
「わお。本当に魔導師なんだな」
「あ? なに、疑ってたわけ」
「まー、ただのコスプレイヤーかなーってのは思ってた」
何気ないタロウのその一言は、ジアン以外全員の笑いを誘い、四人は必至で笑いを抑えていた。
「え? ちょっ、皆?」
ジアンはそんな様子を見て怒りを覚えてしまった。
「もー、勝手に移動させてやる。…テレポーティング」
八つ当たりともいうべきか、ジアンが勝手に魔導で自分を含めた全員を地下街へと移動させた。
「ちょっと、危ないですよ。ちゃんと、言ってください」
「誰が、リミカの注意なんてきくか。私のこと笑ってたくせに」
「そ、それとこれとでは」
いつも通りの二人の口げんか。
サズ、スイ、ミラは長引きそうだと苦笑いしながら見ていたのだが、ひとり、状況をいともたやすく飲み込む少し先に進んでいたタロウがせっせと戻ってきて五人に聞いた。
「なぁ? 地下街ってさ、俺は初めてだからわかんねーけどさ。どこもこんなんなん?」
そう言いながら後ろを指さすタロウに、五人がタロウの後ろに広がる光景を見て絶句する。
そこは、前回言った地下街とはまったくもって違い、薄暗い景色に寂れた町なり。いわゆる廃墟が連なる潰れた町だった。
「…少なくとも人はいたよね。あれ? 私の勘違い?」
「ううん。私はあの地下街でしばらくいたからわかるけどここは多分、結構放置されてから時間が経ってるよ」
ジアンがふと漏らした言葉にミラが的確に答える。
「まぁ、でも街を歩いてみなければ人がいるかさえ分かりませんから。ひとまずはまとまって調べましょう」
「そうが一番の得策か。この状態の街でバラけて行動なんて自殺行為だもんね」
六人はそのまま街を詮索し始めた。
しかし、そこを見ても人がいる気配はなく風が吹き抜ける音すらしない。ただ自分たちの足音が響き渡るのみ。
「なぁ、さっきから人の声が一か所からすんだけど」
そんな時に、タロウが言った。
「は? 人の声なんて聞こえないけど」
「んじゃー、ま。俺についてきて。どうせ、このまま歩いてても人は見つからないだろ」
「それも、そうか。おーけー」
タロウが人の声が聞こえると言ったので、五人は疑いながらも現状を打破したくついて行くことにした。
すると、徐々に人の声が聞こえるようになりそれが大きくなっている頃には人の声がするとある一つの建物の前に着いていた。
「な。するだろ」
「耳良いね。びっくりするほど」
「まーな」
「それにしても、どうします? 中に入りますか」
「俺は中に入ってみたいかな。このまま街を歩いているよりいいかもだし」
「私もサズと同意見」
「私はどっちでも」
サズとスイは中に入ることを進め、ミラは皆の決定に従う意思を見せた。
後は、ジアンが決定するのみだった。
「ま、ひとまずはいろっか」
そう言ってジアン達は建物の中に入っていく。
そして、激しく後悔することとなる。
そこはフェンスと呼ばれる金網でガードされ正方形のリング上で一対一の殺し合いが起こらわれていた
「うっわ、どうするコレ。引き返せない状況じゃね」
しかも分が悪く六人は違法闘技場のスタッフたちにいつの間にか囲まれていた。
「その身なり。ユーカライズの人間か」
いかつい顔をした大男が低い声で言う。
「来てもらおうか。
拒否はできないと言った様子だった。
六人はそのまま支配人の元へと大男の案内で行くこととなった。
「ここだ。はいれ」
場所は案外近くにありすぐにその場所に着いた。
煌びやかな赤で装飾された重厚な扉が、重苦しい音をたてながら開いていく。
「どうぞ。入りよ」
その扉の奥から若い一人の男の声がした。
その声に従い六人は黙って中に入る。
「ちゃお。私はここの支配人アマヤミといいます。よろしく」
「私達は、ユーカライズからやってきたアンリミデット・ワークスという傭兵団です」
ジアンは素性をうまく隠す。
「ふうん。そんな傭兵団さんたちが何故ここに?」
「たまたまたどり着きました。いつものような地下街と思い込むうかつに」
「そうかいそうかい。それは実に愚鈍な過ちだね」
アマヤミは六人を馬鹿にするような目で見る。
「まー、これまでのことなんてどうだっていいんだ。ただ、ここで一つ問題があってね」
白々しく座っている椅子を回転させながらアマヤミは言う。
「ここのローカルルールでさ、ここに来た人はさっき君たちが見たような
その言葉に六人全員が反応する。
「けど、六人ってのはさすがに多すぎるからさ。…そうだなー、二人。君たちの中から二人参加してくれないか? 勿論、勝ったら勝っただけ報酬は出る。それに仲間同士の決闘なんてこっちも見たくないからね、ブロック分けしてるから別ブロックに配置もしよう。そして、最低条件にあと一つ。決闘は六試合やってもらう。…あ、相談はしていいよ」
アマヤミは、一体何をたくらんでいるのか六人に優しいルールを提示してきた。
「わかった。少し相談させて」
「おーけー。じっくり相談していいよ」
ジアンがアマヤミから許可をもらうと六人は相談を始める。
「どうするんですか?」
「どうするって、少なくとも決闘じゃ私とリミカとミラは不利にもほどがあるでしょ」
「そうなると、おのずと残るのはサズ、スイ、タロウの三人か」
リミカ、ジアン、ミラの三人はまじまじとスイ、サズ、タロウの三人を見る。
「ちょっと待てよ。俺だって、不利だろ。こんな狭い所で出せる訳がない」
「あー、確かに」
考えてみれば、タロウもこの空間での戦いには向いていない。
すると、自然に二人が残った。
サズとスイの二人だ。
「…まぁ、そうなると思ってたから俺は別にいいですよ」
「私もいいよ」
二人は妥協する様にOKを出した。
この六人の中で小回りが利くのは、サズとスイの二人しかいないことは話し合いをする前からわかっていた事だったから、二人はすんなりと受け入れた。
「決まりました」
「お、速いお決まりで。それで参加するのはどの二人かな?」
「この、サズ・フレンとスイ・鋳薔薇を参加させます」
「よし、わかった。じゃあ、早速だけど二人には専門のスタッフをつけるから指示に従って移動するんだ。後の四人は自由にしてていいからね」
アマヤミの指示のもとスイとサズの二人は各自につけられたスタッフの指示に従い移動を始め、残る四人もまた観覧席に移動し、サズとスイの安否を祈りつつ決闘を見始める。
まず、最初はスイから早速始まった。
「さぁ、ここからはユーカライズからの御尋ね者の登場だ! スイ・鋳薔薇!」
レフリーのアナウンスと共にスイが闘技場に姿を現す。
すると、観客たちが盛大な盛り上がりを見せる。
「そして、対戦相手はこのBブロック不動の二番手カラカラさんだー!」
スイの対戦相手が姿を見せる。
相手の姿は、屈強な大男ではなく引き締まった体つきの背丈がスイよりも少し高い程度の男だった。
ただ、オーラが激しく殺気立っている。
さらに当然と言えば当然だが、スイが登場したときよりも激しい盛り上がりようだった。
「今回は生き残り戦だ! ここで死んで人生終了か、勝ち残って報酬を得るか。どっちになるかは自分次第!」
レフリーの安い煽りと共に観客の熱はさらに上がる。
そして、最高潮になった瞬間それは訪れる。
「レディー、ファイ!」
レフリーの気合いの入った掛け声とともに試合開始のベルが闘技場全体に鳴り響いた。
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