世界を二度救う? その10
同時刻。
カルデアとマゾンドもまたこの脅威に対して手を組む形をとっていた。
「ウェルカム・ヘル」
カルデアが自身の魔導で目の前の地面に大きな穴をあける。
そこへ大量の魔物が落ちていく。
「うわー。ひどい」
「そう言っている暇があんなら、手伝えや」
「さっきの魔導でほぼすべての力を使っちゃいましたから」
「ま、テメェはそうだとして。オメェはなんで手伝わねぇんだ。えぇ?」
「やだー。汚くて浅はかな下等生物に私の高尚で神聖な魔導を使いたくありませんー」
カルデア、ジアン、マゾンドの三人が居る場所はバレット達が居る場所よりもさらに近い場所。
仮にバレットたちが東側にいるとしたらカルデア達が居る場所は西側となる。
つまり、どんなに魔物を倒していこうがバレット達のためにはならないし、サポートにもない状況になる。
「おいおい。そうこうしてる間に奈落の穴がいっぱいになっちまったぞ。奈落だぜ。奈落」
「仕方がありませんね」
そう言ってなぜか地面に寝ていたマゾンドがむくりとやる気のなさそうに立ち上がったと思えば、そのまま空中へ浮かびはじめた。
「はい。みなさん。聞こえてますかー。無視したら存在ごと消しますよー」
マゾンドが一言発すると、ある程度の魔物が動きを止める。
「これでいいですか?」
「最初っからやってくれないかな? それぇ!」
「ま、気休め程度なんですけどね」
マゾンドが地面におりてくる。
「気休めって」
「止められたとしても二千五百万程度ですから」
「ちょっと待て。それ以上いるってのか」
「何あたりまえなこと言っているんですか。居て当たり前。居ないなんて考えるのはナンセンスですよ」
マゾンドが当たり前のように言う。
「マジかよ。絶望的じゃねぇかよ」
「ま、何とかなりますよ。…ね?」
マゾンドがジアンへ意見を求める。
「ま、なりますよ」
「あー、グルか! グルなのか」
「ほら無駄口ですよ」
「なら、手伝えよぉ」
さすがのカルデアも涙目で訴える。
それを見てマゾンドとジアンもついに重かった腰を動かす。
「リンカントゥ。リンカントゥ。マジカライズ・レイン」
「明日は無い。昨日も無い。今日も無い。過去も未来も消えてなくなった。日々をくだらなく生きることをやめよう。…It is permitted that only life stops the activity without being allowed to stop at time. 鎮まれ」
ジアンが放った魔導は広範囲にわたって酸性雨を降らせ、魔物たちを融かしていく。
マゾンドの魔導は魔物たちの動きを止めるだけ。ただそれだけでも使い方によってはとてつもなく強力な魔導となる。
「最初っからやってくれないかな。それ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「んきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
すると突然尋常ではない叫び声が聞こえてきた。
「おい。うっせーぞ」
「はい?」
「私じゃないでーす」
「じゃ、誰が」
三人はふと、上を見上げり。
するとそこには急激な速さで魔物の群の中から落ちてくるサズとリミカの姿があった。
「は!? アイツら何やって」
「知り合い?」
「知り合いつーか。仲間だよ」
カルデアが焦りながら言うと、何を思ったのかマゾンドが魔導を使った。
「救い。夢を与える。希望や明日を守り抜け。それが天命だと信じ。…Take. All existing. 救済せよ」
マゾンドのその魔導はサズとリミカが落下する地点のちょうど真下に蜘蛛の巣のような網を生み出す。
その網には魔物は何故かすり抜けていく。
「うわっ! ……あれ、何コレ」
「きゃっ! 助かったのですか」
それにサズとリミカはうまい具合に真ん中へ落下する。
「…ありがとな」
「例には及びませんよ。今は少しでも戦力が必要でしょう。敵だからと言って今の状況で殺してしまうほどにバカではないので」
「いちいち、癇に障りやがる」
「そりゃどうも」
カルデアとマゾンドは互いにニヤッと笑う。
「おーい。二人とも大丈夫?」
「あ、ジアンしゃん」
「ジアン。無事だったのですね」
「私のことよりもまずは自分たちの心配をすれば?」
ジアンはサズとリミカへ近づき、話しかける。
でも、それだけであり、そこからおろす方法などは、まったくもって知らない。
「そ、そうですね。なら、ここから降ろしてくれませんか?」
「え? 私知らないよ」
「……じゃ、なんで来たのですか!?」
「話したかったから?」
「疑問を疑問で返さないでください」
リミカが立ち上がったと思ったらすぐにへなっと座り込む。
「うるさいですよ。これだから寿命の有る生物は」
そう言ってマゾンドがリミカとサズを網から降ろす。
「あら、案外簡単」
マゾンドが手をかざして何かをつかみように手を握りそのまま引きずり落とすように腕を振り動かせば網はいともたやすく消えてしまった。
「きゃっ」
「っと。大丈夫」
「あ、ありがとうございます」
サズが気を利かせたのかリミカをお姫様抱っこして、地面へ直接降りるのを防いだ。
「あらっ。随分とお盛りね」
ジアンがそんな二人を見てまるでおせっかい焼のおばさんのように楽しそうにからかう。
「いや、その」
「そんなんじゃありませんから。わかりましたか、ジアン」
「あ、うん。わかったわかった。だから、その顔止めて」
笑いながら怒りをあらわにするリミカを見てジアンは早急に反省する。
その横で人知れず落ち込むサズ。
「……ですよね」
そんな三人の様子を離れた場所で見るカルデアとマゾンド。
「おつかれさん」
「何がですか」
「わかんねぇならそれでいいよ」
「そうですか」
理解したようにマゾンドが笑う。
「なんか、白けちゃいましたね」
「だな。どうすっか、続き」
「ベッドの上でも場所を移してヤリますか?」
「俺は別に構わんよ」
「…ご遠慮します。俺には他にやることがあるので」
「そうか。残念だな」
「弟の後始末を思い出しましてね」
「なら、俺も着いてくわ」
「な!? そのままホテル直行とか嫌ですからね」
「チゲェよ。その弟のとこにはバレットとスイが居るんだよ」
「あぁ。焦りましたよ」
「焦るってことは、ちったー気があるってことか」
「皆無ですね」
会話が弾むカルデアとマゾンド。二人は本当に心を許せる親友のようにしか見えない。
「おーい。テメェら、場所移動すっから俺かマゾンドの近くに居ろ」
カルデアが呼べば三人は子供の様に、ててて、と近づいてくる。
「んじゃ、移動すっか」
「わかった」
カルデアはマゾンドにアイコンタクトを送る。
そこにリミカが素朴な疑問をカルデアにする。
「そう言えばですが。この方は一体何方なのでしょうか。失礼なのはご承知ですが」
リミカはそう言ってマゾンドに掌を向ける。
「あ、そう言えばボクも気になってました」
そこにサズも加わる。
「あぁ、そいつはな。上級魔族だ」
「えっ!?」
「ほへ!?」
「ども」
そこで五人はそこの場所から消えた。
「なんで倒れてくれないのですかっ!」
「不死身だからだよ」
空からの魔物の群が止まったのを確認したバレットとサドンドは性懲りもなく剣劇を再開した。
「今さっきまでの僕との仲間意識とかないのですか」
「お生憎様とね」
「なんて薄情な性格をしているのですか」
「ま、魔族だから」
剣劇はさらに加速し、互いの一撃一撃の重みと衝撃が激化していく。
金属音がぶつかり合う甲高い音のみがその場に響き渡り緊張感を演出している。
「とっとと、くたばれ」
「人類を背負ってやってきていますからね。簡単に了承し得ませんね」
「なら、もっとだせ」
「何をです?」
「力だよ。お前はこんな状況になっていたとしても本気を出してねぇ。それはつまりアレか? オレなんかじゃ本気を出す価値もねぇってか」
「なんだ。わかっているじゃありませんか」
「あ。イッラー」
ものの見事にサドンドはキレた。それも誰しもがわかるようにキレた。
「オレ、今から本気出すから。死ぬなよ、ジジィ」
「はい。三分の一程度にも満たない微力な力で頑張りますね」
徐々にバレットの化けの皮がはがれていくのを少し離れた場所で見ていたスイは感じ取った。
バレットは普段は温厚で誰にでも優しく慕われている人間だが、戦闘に関してだけ言えば正直言って、英雄と名高いガレットでさえも相手にしたくはないと言うほど。それは剣の実力もそうなのだが、一番の理由は静かな精神攻撃。
はじめのうちは普段通りの温厚な性格なのだが戦闘を続けていくにつれ、それが自分と同等かそれ以上もしくは少し下の実力を持つ者と一時間以上剣を交えていると、温厚な性格の皮が剥がれていき、よくその辺にいるなんかちょっとウザい上司みたいな性格になるのだった。
「あー。私こっちにいて本当に正解だ、これ。流石の私でもあのパパだけは相手したくないし。協力しようとするとねちねち文句言ってくるし」
スイはぼやく。自分のちょっとした幸運を。
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