世界を二度救う? その11
「おまっ! バカにすんのもいい加減にしろよぉぉぉぉ」
「あっはっはー」
サドンドが目に見えていら立ちを隠せなくなっているせいか今までとは違い静かな高速移動ではなく、砂埃を起てて、空気を蹴る強烈な音をだして、位置がバレバレなほどに大声を出してサドンドに突進するように剣を振り翳していく。
「はい次―。はい次―」
その一撃一撃を煽るようにして避けるバレット。
「避けんじゃねぇ!」
「そんな理不尽な事言っちゃだめですよ。だーめっ」
「くっ。やりにくいったらありやしねぇ」
サドンドのイラつきが頂点に達し得ようとしたその瞬間、バレットが待っていたかのように、今まで以上に速い速度でサドンドの前に移動すると盛大に口角を吊り上憎たらしく微笑む。
「しまっ」
「大丈夫です。落ち着いて。まだ終わりにはしませんから」
肘に一撃。膝に一撃。首元に一撃。眼球に三撃。腹や背中に五十撃。そして腹を無造作に突き刺す。
ガレットは是をサドンドに向けて無限ループで行う。
ただひたすらに無表情で。笑いもせず。泣きもせず。ただただ何の感情も出さずに無表情で斬り殺し、刺し殺しを続ける。
「っっっっっっっっ!? …は、くわっ」
サドンドはどんなに苦痛を味わっても叫べない。
その前に毎回殺されてしまうから。
生き返っては殺され生き返っては殺され、を繰り返している。
「なっ、う、ん。んぐ」
その場にはサドンドから噴き出る血が、地面を綺麗な紅に染める。
「うわー。むご」
スイはただそれを少し離れた場所から見ている。
特に吐き気や嫌悪感も覚えることなく普通にその光景を見ている。
サドンドの周りの地面はもうすぐ赤色の水たまりが肥大化して池になりそうな勢いだった。
それほどまでにサドンドは殺された。
「そろそろ、やめますかね」
バレットは呟く。
そして時間にしてみれば二十分以上にも及ぶバレットの連撃は終わる。
一方のサドンドは、最後の蘇生をして地面に四つん這いになるように倒れ込む。
蘇生するのに相当の体力を消耗したらしい。
「どうですか? まだまだでしょ」
「わざとだよな? わざとオレに」
「なんですか?」
「がっ! くっそ」
この一場面だけを見ていればきっとバレットが悪役に見えるに違いない。
サドンドは傷一つない見た目とは裏腹に立ち上がるのも精一杯。
「ほら。立ち上がったらどうですか?」
「るせ」
よろめきながらやっとの思いで立ち上がるサドンド。
「ほら」
そんなサドンドにローキックをするバレット。
「うわっ」
サドンドは地面に勢いよく倒れ込む。
「テメェ、それでも勇者か」
「ただの好奇心旺盛な中年です」
「一番厄介なやつじゃねぇかよ」
そんな会話をバレットとサドンドがしていると、突然その場に、マゾンド、カルデア、ジアン、リミカ、サズの五人が現れる。
「おまっ!? …あー、そのモードにはいちまったのか」
五人のうちその場の状況をカルデアのみが瞬時に理解する。
そして、スイが五人に近づく。
「なんか凄い面子だね。特にそこのマゾ」
「あー、なんかいろいろあって白けて萎えちゃってよ。そいつと俺の互いがバトる気分になれなくてな」
「以下同文で」
「うわー、凄い理由」
あからさまな棒読みのスイを無視してバレットとサドンドがどうしてこうなったのかの説明をスイに頼むカルデア。
「なぁ、いつからこんな状態なんだ」
「えっと。少なくても小一時間は経ってるかな? そんで、あの魔族が立ち上がったところをパパがローキックでふりだしに戻してる」
「あー。そりゃ、敵さんに激しく同情するわ」
「うん。まぁ、見ていて笑えないかな」
「ありゃ、娘にドンビカれちゃパパ冥利のに尽きないんじゃねぇの」
カルデアがクスクスと愉快そうに笑う。
「あ、あの。カルデアさん。あのバレットさんって」
「一人で気持ち悪く笑っているところ悪いのですが、私も気になります」
「あ、私も―」
「ついでに俺も」
バレットの今の状態のことを事前に知らないリミカ、ジアン、サズ、マゾンドは四人仲良く手をあげてスイとカルデアに聞く。
「そっか。教科者とかには載ってねぇしな。んで、オメェは前回にバレットと戦う前に俺にやられたしな」
カルデアはそう言いながら面倒くさそうに頭を掻きながら説明をする。
「あのバレットは。なんつーか。本物のバレットだ。そのなんだ。普段のバレットは理性を保つためとの名目で静かにしてんだよ。要するにだ。普段は化けの皮をかぶってるんだよ。んで、自分と同等の敵さんと戦って窮地に追いつめられたときに、化けの皮が一気に焼けなくなるわけだ」
カルデアの説明では足りないらしく、スイに目線をやる四人。
「いや。今の説明が物凄くわかりやすいよ」
スイの言葉に衝撃を受けつつも、何とか理解しようと今度はぶつぶつと何かを相談し始める四人。
そして、何故か物凄く馴染んでいるマゾンドが代表して二人に問う。
「つまりは、バレットさんは二重人格なのですね」
「ま、極端に言っちまえばな」
「確かに。言われればね」
「なるほど」
ふむふむと納得した四人。
「てか、マゾンド。お前馴染みすぎだろ」
「いや、そう言われましてもね」
そう言ってマゾンドはちらっとサズ、リミカ、ジアンを見る。
「彼、彼女等が親しく接してくれましたので」
マゾンドのその言葉にジアンが付け足すように言う。
「だって、あれじゃないですか。もう、攻撃してこないってわかればただのマゾいイケメンじゃないですか。後はアレですよ。ほら、グローバル? ですよ」
「意味わかんねぇよ。…ま、別にいいけどさ」
「ちょっと。パパのことどうするの」
スイが話を本題に戻す。
「あー、アレな。そのうちまた、化けの皮が再生して元のバレットに戻るから。大丈夫だろ」
カルデアの軽いはずの言葉は、何故か妙な説得力がありスイも含めた全員が納得をしてしまう。
「では、俺はやりたいようにしてもいいですか?」
「どうぞ、どうぞ。お前ひとりが加勢してもあのバレットには勝てやしないからよ」
「加勢するつもりは、無いですよ。俺はただ、弟であるサドンドを助けるだけです」
「ふーん。ガンバ―」
「はい。頑張ります」
そう言ってマゾンドはサドンドをバレットから救出すべく向かった。
その後、カルデアは急に考え込む様に一人誰にも聞こえないように言う。
「こんなことよりも俺は、あの騒ぎがあったのに何の音さたもないガレットの方が心配だ。なにか面倒事に巻き込まれてなければいいんだけどな」
そんなカルデアの心配はあたる。
現魔王と絶賛交戦中のガレットとミラの二人は、完全に押し負けていた。
「おまっ! もう一回あれをやれ」
「いやいや。無理を言わないでくださいよぉ。アレやるとのど自慢大会で歌う並に喉がやられるんですよ」
「それってそこまでじゃ無くないか!?」
「うふふ。ガレットォォォォォォォォ。…私はここよ」
闇の瘴気を纏いそれを完全に操るミニエル。
瘴気を手足のように操り、ガレットとミラに攻撃する。そんな攻撃を受けてしまったら二人は近づけないので防戦一方になる。
「完全に頭をやったやつだよな。それが完全にキメてるやつだ」
「元嫁にそこまで言いますか。中々のド畜生ですね。ガレット老も」
「いろいろ言いたいが。まず、ミニエルは元嫁じゃなくて元カノだ。お、オレはまだ結婚したこたねぇんだよ」
「うっわー。一体何人の女性を騙してきたのか」
ミラはできる限りの冷たい目でガレットを見る。
「そんな目で見つめられちゃ、おじさん興奮しちゃーう」
「今の状況でそれ言うって。相当に余裕なんですね」
「まぁな。でも、本当にお前がまたアレをやってくれなきゃその余裕もなくなる」
「あ、じゃ、やりません」
さも、当然のように言うミラ。
「いや、ちょっと待て! のど自慢大会で歌う程度しか喉が痛まないんなら、今は我慢して出してくれ。な? じゃないと、死んじまうぞ」
「別に私は死んでも生き返られますから。間に合ってます」
「くっそが。お前本当に、女神の落とし子、なのかよ。神の慈悲とかねぇのかよ」
「…なっ! 気付いていたんですか」
ミラが目を大きく見開き驚く。
「ったりめーだろうが。あの声を聴いて気付かないとでも思ったのか」
女神の落とし子。
この世界に数人しかいないとされるボイスアクター。声の操者とも呼ばれている。自身の声の周波数を変えることにより、治療、攻撃、防御をこなすことができる。そして何より、操者は全員女性だ。この操者を選別する女神が清廉潔白を象徴とするこの世界の神が一神であるフロスティア。彼女は大の男嫌いなので彼女の力を分け与えられるのは決まって女性になる。それと、何故か知らないが操者はこれまた決まった面倒くさい性格をしている。まず、自分のことをボイスアクターまたは操者とは決して名乗ることなく、ミラみたいに大体趣が近そうな職種を言う。なので、ミラは吟遊詩人と名乗っていたのだ。
「ふむふみ。流石としか言いようのない。さすが、生き字引は違いますなぁ」
「おい、馬鹿にしてんだろ。完全にしてるよなぁ!」
「してませんって。…でも、そうですね。バレてしまっていたのならもう、出し惜しみする必要はなさそうですね」
ミラは思いっきりにかっと笑う。
そしてミニエルからの攻撃を避けつつ、大きく息を吸いこみ、それを声に変えて体内から追い出す。
「ま、また! あ、の、あ、っは、ぁぁぁぁぁっっぁぁぁぁぁ」
ミニエルは一気に攻撃の手をやめ、また両耳を手でふさぎながら苦しむ。纏っていた闇の瘴気もだんだんとなくなっていくのが見てうかがえる。
「やっぱすげぇ」
「ぁっは、ぁっは、ぁっは。…がれ、ガレット」
ミニエルは攻撃の手をやめるが、まだ正気を保っていた。
この女神の落とし子の聖声を聴いた闇の者ならば、魔族や魔物にかかわらず、今はいない犯罪者と言った人間にでさえ効く。その中で正気を保っていられることはよほど、ガレットに執着があるのか。それとも、心が強いのか。いずれにせよ、常識の範疇を軽く超えているとしか言いようがなかった。
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