運命の歯車に乗って その8
「…ねぇ、私どうすればいいのかな」
「デゥクパディクパおういえやー」
「へいへいへいへい!」
「お願い。少し聞いて」
スイとミラは二人でリングのある会場へと向かい、他と同じくこの
しかし、途中でミラが不意をつかれ足を斬りつけられ行動不能となってしまう状況になり、それを見たスイが焦り始め形勢逆転、敵に押し込まれることになった瞬間、どこからともなく彼女が現れた。
見た目こそは、どくとくな衣装を着ていなかったおかげでわからなかったがその声と口調でスイとミラはすぐに誰かを理解した。
彼女はサズと戦ったヒーロー気取り。
コーリー・マズルカ。またの名をコドクンジャーピンク。
彼女だった。
それからは、なんやかんやで敵を一掃して、ミラの足を回復させ形成を整えた途端に、ミラとコーリーが謎に意気投合。
そして、現状に至るわけだ。
「お? スイどうしたの」
「スイ嬢。何かあったのかしら」
「あのね、私はねいろいろ聞きたい」
「私に?」
「ミラじゃないよ」
「だよねー!」
「ふぅー!」
「…Killぞ」
テンションが謎に高くなっているミラとコーリーは、スイの静かな脅しに屈し途端テンションを落とす。
「はい。それで、コーリー」
「コドクンジャーピンクよ!」
「コーリー?」
「はい。私はコーリー」
「それで、なんでまず私達を助けてくれたの?」
「それは、ヒーローとしての心が、貴方達を助けろ。と囁いたから」
「それはまた」
「そして、なにより! 弱者や圧倒的不利者に加担するのもまたヒーロー!」
「酔狂な理由ね。でも、そのおかげで助かったわけだし文句はないけど」
スイとミラはコーリーのヒーローとしての勘に助けられた。
きっとそんなところだろう。
「それとあと」
「あら。随分とこの私こど…コーリー・マズルカに興味津々なのね」
「そりゃね。あんな、変態みたいな全身タイツの下が金髪ロールで豪華なドレスを着たただの格闘極めちゃった絶世の美少女なんてね。しかも、なに? あの時死んでいるはずだから、予想できる答えはたった一つ。信じたくはないけど
「…自己紹介の隙もないわ」
「これでも観察眼はいろんな場所で鍛えられているもんでね」
スイはコーリーの自己紹介を奪いニヤニヤと笑う。
「ねぇ、スイ」
そんなスイにミラガだらだらと嫌な汗をかきながら問う。
「半不死身ってもしかして、神話体系における悪魔的立ち位置に居ると言われる空想上の種族のこと?」
「そうだけ…あー。そっか」
「そうそうそうそうそう!」
「あー、ミラはね。ほら、女神の落とし子。声の奏者。または、ボイスアクターって呼ばれる類の面倒くさい奴」
「あら? それはそれは」
ミラの正体を聞いたコーリーは、好奇心旺盛にニヤニヤと笑いながらミラの背中を思いっきり平手打ちをする。
「ぱーっん!」
「ぱーっん!?」
「…ぶふっ。ちょっと、待って」
コーリーが悪戯半分にミラの背を叩いたそのリアクションを、スイは思わず耐えられなかったようで笑いが抑えきれなかった。
「いいわね。その反応」
「ぎゃー、悪魔! デビル! サタンモア!」
「ちょっ、ミラ。それマジ。その顔マジ…ちょっ、ふはっ」
抑えきれない笑いをついにこらえるのをやめたスイを、よそにコーリーは悪戯笑みを浮かべながら罵倒されていることも気にせず、ミラの背中をパンパンと平手打ちし続ける。
「ま、ま。ほら、得意のボイパ聞かせて頂戴」
「マジで、悪魔か!? こらー」
「はいはい、可愛いわね」
「ちょっと、ふざけんなよ! 私、マジでおこだからね」
「ほら、じゃあ怒ってみなさいよ」
「くっそいじわる」
「…ガキですわね」
「うるさい! この似非お嬢様」
まるで親と子を見ているかのようなそんな、笑えてしまう光景をみてしまったらとてもじゃないが、スイみたく笑ってしまうのも無理もないだろう。
「あ、かっちーんきましたわよん」
「ほら! 今あからさまにおかしかったよね? ねっ!」
「…いや、御免。見てなかった」
「スイ―!?」
「ちょっ、ミラ。やめっ、ふふ」
場所を選ばず三人はとにかくはしゃいだ。
それはもう、全体に響き渡るような大きな声で。
「居たぞ!」
「殺してやる」
当たり前のように敵にすぐに見つかる。
「…あ、マジで」
「でも、回復もしてるし余裕っしょ」
「さっき、誰のせいで私がピンチになったんだっけ?」
「はい。すんません」
「ま、でもいいですわ。一掃してしまいましょう」
ミラ、スイ、コーリーの三人は現れた敵に怖気つくことなく意気揚々と敵へ立ち向かう。
「ふぅ、今度こそストレス発散できるよね」
「スイ。それ、目的違うから」
「私もそう思いますわ」
「あ? 新米のコーリーがぁ、私を否定とかしちゃう系とかぁ」
「やめて! スイ、なんか私が恥ずかしくなるから」
ミラの言葉はむなしく届かず、スイは敵のど真ん中へ特攻して行く。
「行くぞ、コラァ」
スイは勢いのままに敵を斬り倒していく。
それはまさに地獄絵図のように血飛沫が舞い、雲が富士の山を飾りつける様に。
「あははは! ストレスはっさーん!」
ただ無造作に目の前の敵を斬りつけていくスイの横に、見かねたコーリーが横取りする様に敵を殴り潰していく。
「あら、失礼あそばせ」
「いえいえ、おきになさら、っず! にね」
「それはどう、っも! ですわ」
互いの背に居た敵を潰しあう。
その後、動きを一切止めることなく二人は敵を圧倒的に殺していく。
「どうです? 新米の私、凄く戦力になるでしょう」
「そんなこと話している暇があったら、今すぐに私よりも一人でも多くの敵をKillれば?」
「いわれなくとも」
それは尋常ではないスピードで。敵にとってはただの理不尽で。無残な虐殺の様でしかないだろう。
しかし、スイ、ミラ、コーリーの三人からしたら生き残るために行っているただの正当防衛でしかない。
「あぁ、もう! 面倒ですわね」
次から次へと出てくる敵へ嫌気がさしたのか、コーリーがここで技を発動する。
「
大胆不敵に両腕を広げ大空を見上げるように顔は天井のその先、天高くを見据える。
すると、地面は純正の紫に染まり影のような黒い人形らしい物が生え出てくる。
「ハロー、
ニヤッと嫌らしく妖艶に嗤って見せるコーリー。
そのコーリーの視線の先では、地面から生え出てきた黒い何かが敵たちに触れては飲み込みを繰り返す。
「…うわ。もう、コレ」
「これが、神話体系において悪魔的立ち位置とされる一族の力」
この状況を見て、スイはドン引きしミラはただ驚愕する。
二人の知る限りでは、コーリーはただの戦隊ヒーローの技をかましてくる。そんな印象だった。
しかし、今目の前でコーリーが披露したその技は、ヒーローらしい暴力技でも、せこいヒーローの精神攻撃のソレでもない。
ただの魔導に近い何か。けど、魔導ではない。そのことを二人は確実に理解できた。
「さぁ、とっとと終わらせちゃいますわよ」
そのコーリーの言葉を引き金に、黒い何かがさらに大量的に生え出てきて敵を飲み込んでいく。
そして、数分もしない間に敵はまたいなくなった。
「はい、終わりですわ」
パンッとコーリーが手を叩けば、今までの状況がすべて嘘だった可能様に元通りになっていく。
紫だった地面は元の灰色に。黒い何かは光が散るように粒子となり空気中に消えていく。
「こ、コーリー」
「見たこと? これが、コドクンジャーピンクもといコーリー・マズルカ。私のちょっとした全力です事よ」
その圧巻にして絶対的な何かに話しかけ近づいていたスイは、足の動きを一切やめる。
いや、やめさせられた。その方がしっくりくるだろう。
「オッケー。ちょいナメてたわ。いや、マジで」
「わかっていただき私、光栄の極みを感じざるを得ませんことよ」
「…お、おう」
コーリーの言葉につい、男っぽい返事をしてしまうスイ。
「しかし、アレですわね」
「ん?」
「ここにはザコしか来ないのですわね。…なんでかしらね」
ただ一人、敵が居なくなった平地で立ちながら、その輝く黄金色の髪をどこからか吹いてくる小風にたなびかせながらコーリーは話す。
「今度は一体何を」
「私思うのです。だって、そうでしょう? ここのスタッフの中には強者が何人もいるのにもかかわらず何故、ミラとスイの二人の場所には凡人しか来ないのか?」
「じゃあ、一つ聞いて良いかな?」
ミラがコーリーに問う。
「今、ミラとスイの二人の場所には。って言ったけど、もしかしてコーリーには他の場所の状況が解ってるの? そして、なんでこの場所には二人しかいないって言いきれるの? もしかしたら気配も何もかも消している私たちの仲間が一人でもいるかもよ」
「私がこの騒動に気付いた時、スタッフの動きがやけに統率されていたの。その時はまだ、私はスタッフにとっては無害の商売道具。私の事を。いえ、私とセイギを半不死身と知っているスタッフたちは、昨日試合で負けた私達二人が生きていることに何ら不思議もなかった」
コーリーが淡々と話していくが、あることにスイがミラが驚く。
「…え? ちょっと待って」
「うん。私もスイと同じ」
「ん? なにかしら」
「えっと、え!? あ、あの、セイギって」
「えぇ、昨日スイと戦ったあのセイギよ」
その確信しかつかない言葉にただただスイとミラは言葉を失い、ただただ驚くほかなかった。
「まぁ、問題はそんなことよりよ」
「いやいやいやいやいや」
「問題大ありですぜい。御嬢さん」
「…急に何よ? 変な口調ね」
「いやいや、だからさ。え? アイツも半不死身なの」
「だからそう言ったじゃない。私、何か間違ったことでも言いまして?」
「いや、うん。いやー」
煮え切れないスイの気持ちと驚きがいまだに抜けないミラを置いてけぼりにして、コーリーは話を進める。
「それで、問題はその後。私とセイギがやけに統率されたスタッフの動きを怪しいとヒーローの勘が疼き、ここまで来たのよ」
「なんか、色々跳躍し過ぎてて。てか、もうね? セイギが半不死身ってことの方がインパクト強すぎて」
「私、何もしてないのに疲れちゃった」
敵のいなくなったその場所で三人は、戦うよりもひどい疲労感を何故か覚え少し休み事となった。
そんなスイ、ミラの二人にジアン、リミカの二人が新たな仲間を見つけ三人行動している最中、サズとタロウの二人だけはいまだに新たな仲間を加えずに二人でわんさかと溢れ出てくる敵と戦いながら先へと進んでいた。
「オイ! 敵さん多すぎやしませんかい」
「なんで俺にっ、それを言うんですか!?」
「いやー、なんとなく?」
「それは随分と、この状況下で余裕な」
「褒めんじゃないやい。照れるじゃないか」
「このポジティブシンキングが!」
敵を斬り倒しながら先へ走り進むサズとタロウの二人は、これといった具体的な目的地を決めていないままただ進んでいるだけだった。
「それで、これどこに向かっているんですか!?」
「さぁ? でも、いずれ全員に会えるかもね」
「なんて、気楽な」
幸か不幸か二人の前に現れる敵たちは、雑魚と名を与えるにも惜しいほどに弱く刀の錆にもならないほどの乾ききったその血をただただ汚く地面に舞い散らせている程度だった。
しかし、そんなラッキータイムはすぐ終わりを告げる。
「騒がしい。騒々しい。荒々しい。神の住処でなにをしておる」
じゃらじゃらと貴金属の音を優雅に奏でそれを警鐘としたかのような豪奢な響きに、気だるそうな表情からはわからないほどの絶対的自信とありふれ過ぎた隙が妙な違和感を醸し出すその男。
「…うわ。いや、昨日神とか言ってたし生きていることに然程、驚きはしませんけどね」
「わお。案外、図太すぎる心をサズ君はおもちの様」
「そんなタロウさんも、驚いているようには、まったくもって見えませんけど」
「あっれー? そうかな? 俺さん、今すぐにでビビり過ぎてクソもらすところなんだけど」
「それは、随分と余裕で」
「貴様等は、何を抜かしておる。空気を揺らし乱すな」
目の前に現れた昨日の敵。
「このイミアルカ・ナイヤの前にて生命活動を全うできると思うなよ」
「わー、やっかい」
「タロウさんに激しく同意で」
「…ほう。我のぬるすぎた優しい警告を無視するとは。自殺志願者か」
イミアルカ・ナイヤは、静かな口調でサズとタロウに話しかける。
「……タロウさ」
「言ったであろう? 再三言わせるではない」
「サズ!」
「んがぁ!?」
一瞬よりも速いその速度でナイヤはサズとの距離を詰め、圧倒的な力で地面へと叩きつける。
その衝撃で地面はへこみ、かけらが空中へと飛び散る。
「次は貴様だ」
そうナイヤは呟く。
「やぁ。殺しにきてやったぞ」
そしていつかの冒険譚 えあろん @dreamy
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