運命の歯車に乗って その7
「それじゃあ、俺さんが開幕の花火を上げさせていただくとしましょうかね」
タロウは無邪気に笑いながら言う。
「神誕・阿修羅鎧」
その太郎のオンミョウジュツは、天井の低い地下の一室にはおさまりきらずに天井を突き破り、周辺の壁を瓦礫に次々と変えていった。
「俺さんの時代キター!」
「ちょっ、気張り過ぎ。…ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「がれきに埋もれるんですけど! 粛々と祝福を。閑々とした世界を。
「
「シノビジュツ・楓」
「
それぞれが降り落ちてくる自分の身を守るために、技を繰り出す。
「おっし。どう、皆」
「タロウ。私達を殺しにかかってるでしょ」
「何を言ってるんだ?」
「ミラ。多分、無駄だから」
「ほら、俺さんの大技繰り出しちゃうぞ☆」
「よっし。それっじゃ、二人一組でそれぞれに」
ジアンのその言葉で瞬時に二人一組を組み、がれきを足場に散らばっていく。
「それで。俺はやっぱりタロウさんとなんですね」
「俺さんの護衛は頼んだぜ。相棒」
「あー、はいはい。やれるだけやりますよ」
サズは呆れ半分に小刀を構える。
すでに四方八方は、どこから現れたか知らないスタッフに囲まれていた。
「それで、刀振りおとさないんですか?」
「あー、それがさー」
サズのそんな当たり前の質問にタロウを上を苦笑いしながら見る。
すると、タロウがオンミョウジュツで出現させた鎧兜の持っている大刀がものの見事に土に刺さりぬいたら天井が崩れる危険性があるまでになっていた。
「あはは。何というか、計算外?」
「…マジですか」
「マジですねー」
それはただの絶望。
サズは呆れ半分に絶望を確信していた。
「あいつ等、動かないぞ!」
「よし、なら今がチャンスだ!」
「全員でかかれ!」
スタッフたちは動かないサズとタロウを見て全員で考えも無しに、襲い掛かる。
「まぁ、問題は簡単に解決できるんだけどね」
「え?」
タロウはそんな状況におかれても余裕のまま、にやりと笑う。
そして、一周ターンする。
「こうやってさ、ヒョウイさせちゃえばいい話なんだよね」
「…凄い」
タロウがターンをし終われば、襲い掛かってきたスタッフ全員が血しぶきをあげその場に倒れ込んだ。
「これがオンミョウジュツの実力です。ほんの一部だけどね」
鎧兜を纏い錆び一つない透き通ったその刀を片手で持つタロウは、サズの目から見れば、旧時代の昔に存在したと言われる『サムライ』に見えた事だろう。
「俺さん。サムライスタイル。なんつて」
「ちょっ、なんで。あんな派手にやる前から、ソレをやらなかったんですか?」
「…てへ」
「てへ、じゃないですよ! ま、お陰様で登場した敵は一気に全滅ですけど」
「俺さん、さっすがー」
「とか、いってると。ほら、こうやって敵がぞろぞろと倍の数になってやってきますよ」
「うわお。俺さんからそんなに、惹きつけられるフェロモンむんむん出てるのかな?」
「この状況でそのセリフはさすがとでも言っときますよ」
タロウがサムライスタイルで現れた敵を一掃したと思えば、またすぐに今度は倍の数で現れる。
「あっはっはー! まさか褒められるとはね。…それでどうする? サズ君、いっとく?」
「…はー、わかりました」
「あいあいよー」
サズの言葉を聞いてタロウは余裕に笑いその場にどっさと座る。
「さぁ、かましたれ! サズ君」
「シノビジュツ・エンシュウザンロク」
くるっと小刀を空気を斬るようにしながらその場で一回転するサズ。
その姿を見て、敵であるスタッフ達はそれぞれ頭の上にはてなマークを浮かべるように不思議に思う。
わざわざ、技名を言いながらその場で一回転するだけなど無意味にも程があり過ぎるからだ。
しかし、サズは余裕の表情でその場から一歩も動かない。
「ま、そうなりますよね」
「お? 隠してることがあるんだな」
「そりゃ、そうですよ」
そのサズの言葉に過敏に反応してしまったスタッフたちは、警戒態勢をとりそれぞれの武器を構えるだけで動かなくなってしまう。
「バカですね。……ㇵッ!」
サズが叫ぶとスタッフたちの胴体と下半身がすべて離れ離れになる。
血を舞わせながら、スタッフたちの胴体が空中に飛び回りに最後の最後にどさっと重い音をたてて地面に落ちる。
「いやぁあ! 何したの?」
「倒しただけですよ」
「いやいや、どうやって倒したかって」
タロウが驚きながらサズに興味深々と言った表情で座りながら問いかける。
「そんなの簡単ですよ。俺が一回転したときに、小刀を空気を斬るように持っていたじゃないですか」
「あー、あたりもしないのにな」
「その時に生まれたシノビジュツでは
「つまりアレか? 字を書くときにペンのインクが残る的な?」
「まぁ、そう考えてください。それで、最後に俺が叫んだのは空気を揺らしてその斬線を発射させるためなんです」
「それで、敵さんたちは一瞬で死んだのね。その斬線が発射されたから。多分、その調子でいけば、発射されつつ斬線を大きくできるんじゃないのか?」
「…正解です」
「うっし。あったり」
サズの無駄に長いその説明を聞いてタロウは一発で理解することができたらしい。
どうもこうも、天才というのはタロウの様な対応の人間の事を言うのかもしれない。
「ま、そんじゃ先進みますかな」
「そうですね。おんなじ場所に居ても何も始まりませんからね」
そう言って二人は敵の屍を堂々と踏み超えて先へと進んで行った。
そんな頃、ジアンとリミカの二人は闘技場の入り口付近をくまなく破壊しまくっていた。
「深々と。降りくる此の夜に。
「
二人は同じく遠距離型の技を扱う者同士。
近距離に来られたらなすすべがないわけではないが、ほぼほぼ防ぐごとは叶わないだろう。
しかし、そんな二人に近づけるものなど
それを証拠に二人は、やりたい放題に暴れている。
「ちょっ、ジアン。私のことも考えてください」
「大丈夫大丈夫。かする程度だって」
「それ、あたるってことですよね!? 今の頭上に錬成した魔導陣から何かを降らせる魔導。かなり、危険でしたよ」
「スリルがあって楽しいだろ? お嬢ちゃん」
「…光矢打ち込みますよ? 零距離で」
「わお、クレイジー」
ふざけながらもどんどんと敵を倒していく。
きっと、やられていく方は無念しか残らない最後だろう。
「…ふぅ。きりがありませんね」
「まーね。んじゃ、一発でっかいのいっとく?」
「……その言い方はやってるんですか?」
「はにゃ?」
「いや、なんでもありません。ほら、早くその魔導を」
「はいさー」
リミカに許可をもらいジアンは、でっかい魔導を発動すべく魔空間にしまっていた魔導ステッキを出現させ、力を集中させ始める。
それはつまり、ジアンの動き全てが止まってしまうと言うことだった。
「…ジアン!? 動き止まる事先にいってくださいよ!?」
そんなリミカの叫びも集中しているジアンの耳には届くはずもなく、泣き叫びびながら、ジアンを守るべく必死に防戦を始めた。
「光矢・
リミカが頭上に放つ矢は、幾つにも別れ雨のように地面へ降りおとされる。
それはさっきのジアンの魔導と似て非なる技だった。
しかし、そのおかげで敵は確実に数を減らしていった。
「ふぅ。中々に私も集中力が試されますね」
額に一つ汗を流しリミカが見つめるものは勝利ただ一つ。
それがリミカの信念であり、ジアンと共に掲げた最大の目標。
そして、いずれ救うこととなるあの三人へ顔向けできるようにと、リミカなりのけじめのつもりだった。
「これはそろそろ、私も本格的に近接戦闘を軽くでもいいから身に着けた方がよさそうですね」
辛さを紛らわすためか、リミカは珍しく自分をけなすようにニヒルに笑って見せる。
「願いを聞こう。我に問えばよい。
「また、急に…」
ジアンの魔導は、またなんの前触れもなく発動される。
しかし、ジアンの魔導に必ず必要な魔導陣が少なくともリミカからはまったくもって、その肝心な魔導陣が見えなかった。
だが、凄まじい轟音と大地の振動が体に伝わるほどの天変地異がおきかけていた。
「こ、これは」
「さぁ、私の時間の始まり」
「じ、ジアン?」
リミカは慌てながらも冷静にジアンに声をかけるが、当の本人であるジアンは盛大にニヤついた笑いをし両腕を横に広げ、魔女っ娘服のマントを風が楓いていないはずなのにバタつかせて、宙に浮いた。
「
そんなジアンがそう呟くと、二人の周りにうじゃうじゃと湧いて出てきていた敵であるスタッフ達がふいに消えていく。
「…え、ジアン」
「
敵が何人か消えた所で、ジアンがまた別の言葉をつぶやく。
すると今度はあっけなく敵たちが消えていき、挙句の果てにはリミカとジアンの周囲立っている地面いがいそのものが消え、二人の頭上には明るく輝く青空と、その空を覆い尽くすほどに小さな魔導陣が幾つも展開されていた。
それをみたリミカは、大きく目を見開き驚愕する。
「ふぅ。…やっぱりこの魔導は危険だね」
「ジアン!? 今まで一体」
少し生気を失くしたかのようなジアンをよそにリミカは驚きを隠せずにいた。
「ちょっ、待って。流石につらたん」
「あ、すみません。つい」
「いやいや、いいのよん。私の魔導が素晴らしいだけよ」
「その調子は、いつも通りですね」
「だろ? 私、マジ最強」
「はいはい。とにかく今は休みましょう」
まるで世話のかかる妹を相手にするかのような口調で少し笑いながらジアンを抱えるリミカ。
「それで、この状況どうしますか?」
「…この状態の私に聞いちゃう? 聞いちゃう?」
「その返事が出来るほどの元気はあるようなので安心しました」
リミカとジアンの周りは全てが消えてしまったが、ただ一つだけ…いや、一人だけ残っていた。
「やぁ、用無しのゲストちゃん達。あまりの悪戯に俺、激おこだぞ」
その全てが消えたはるか上空。
雲の上に、アマミヤが笑ながら全てを知っていたかのように遥か高みながら笑いながら二人を挑発的な笑みで見ていた。
「きんも。男が激おことか、きんも」
「…なんでジアンはそうやって、挑発するんですか。この状態で」
「あー、いやー性?」
「なら、せめて私を巻き込まないでくださいよ」
「ま、ドンマイ」
すでにリミカもジアンも激しく体力も集中力も消耗しきっているこの状態で、実力がまったく見えてこないアマミヤと対戦するのは、ただの愚行でしかなかった。
しかし、そんな愚行以外の選択肢は二人に残されておらず、わかってはいても愚行をするほかなかった。
「そんな、俺をほっといて喧嘩はやめてよー。つってな」
「ねぇ、私結構マジであの面、壊したいんだけど」
「奇遇ですね。私もです」
「わお、怖い怖い。でも、ぼふぁっ!?」
それはなんとも急で、偶然で、運命的な何か。
突如として、アマミヤが何者かに殴られ勢いままに遥か下に消えて行った。
それを、ただただ驚愕しながら見るしかできない二人の目の前にアマミヤを殴った張本人が、これまた空中に浮いたまま大きく笑って見せていた。
「あはっははー! 勇者はいつでも姑息に遅れて登場する!」
その声、姿。
二人は見たことがあった。しかも、つい昨日。
死んだはずの彼の姿を。
「ワンフォーオール・セイギ! ここに極めたり」
ちゃっかり、空中で決めポーズを一人きめ終ると、やっと二人の存在に気付いたのか、降りてくる。
「お! アンタ等は昨日のスイの仲間か!」
「いやいや、そんな、爽やかにこられても」
「そうですよ。貴方は昨日スイに殺されたはずじゃあ」
「あー、俺さ、
「…マジ?」
「まさか」
二人はセイギからそう聞き、さらに驚く。
半不死身とは、この世界では空想の上に出てくる神話体系における悪魔と位置づけられる一族。
その強さは人知を超えるが、姿かたちは人と同じで人知を超えることはない。ただ、その思想には激しい偏りができている。
そしてなにより、回数制限の生き返りができる。
回数は人によって変わるらしいが平均してその数77回。
寿命も特にはなく、容姿は若いまま。
故に半不死身は神話体系内における空想上の一族として、この世界では知られている。
「ふっふん。この世界で俺が、俺の一族がどんな感じで知られているかは知っているぞ。神話体系における悪魔的立ち位置だろ」
「うわ、真面目に話しちゃってるよ。キャラ崩壊しちゃってるよ」
「ちょっ、横やり入れちゃ駄目ですよ」
「あ、言っとくけど、俺、めっちゃメンタル弱いからね」
「ほら、気にしてるじゃないですか!」
「て、てへ」
そのセイギのイメージとはかけ離れ過ぎた、真面な話し方はジアンのみならずリミカまで驚かせられた。
「ま、いいや。それでこの状況は一体」
「あー、私達がテロってんの」
「ちょ、それ言っていいんですか」
「この状況でただ巻き込まれただけで運よく生き残れたラッキーガールズなんですぅ。…とか、言って疑われても仕方がないしね」
「あはは。そうか、テロね。それまた、随分と前時代的な思想だ。それも神話体系の形成されるもっと前の、科学の全盛期の思想」
「案外、頭いいのね」
「どーっも。これでも戦闘時とは全くキャラが違うね。とか結構言われるタイプなもんでね」
「いや、これでもじゃないと思う」
無常に非常にジアンは、セイギに現実を突きつける。
うっ、と一瞬うろたえるがセイギは苦笑いをするだけしてその場をスルーする。
「あの、話がまったく進んでないみたいなので私から聞きますね」
「あー、いいぜ」
「セイギさんはなんで、あの
「俺の直観が、アマミヤを黒と言っていた。ただ、それだけだ」
「それは随分と獣並」
「あざぁーっす」
リミカが話をまったく進めようとしない二人の間に入り、セイギに聞いたところ何とも救世主っぽい答えが返ってきた。
つまりセイギは、自分自身の一瞬のごくわずかな直観に従ったまでだ。それで、ジアンとリミカからしたら正解を引き当てたわけだ。
「ま、それで。一応、アマミヤをぶん殴ったわけだし、俺はアンタ等についてくわ。仲間とも出会いたいしな」
「仲間? もしかして、アンタと同じ半不死身のだった、り?」
「おう。当たり前だ」
そんなセイギの言葉を聞いてジアンとリミカは顔を合わせ見てしまう。
「それって、名前とか」
「あー、名前な。コーリー・マズルカ」
「コーリー?」
「マズルカ?」
「ほら、あの獣人君と戦った。コドクンジャーピンクだよ」
そのセイギの言葉に二人は驚きつつも、どこか納得した表情をしていた。
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