第十三話 世界の秘密

「この世界には神が二柱存在します。創造神レイジレーニャと破壊神ヴザヴァラディア。後者を俗に魔王と呼ぶ。魔王が世界を滅ぼそうとしたとき、レイジレーニャは対抗して始祖の百聖人を作った。それが人間の始まりです。百聖人はそれぞれ精霊王との契約で魔法を行使することができた。そのうちの一握りが──強大な力のために外見に変化が起きた。有翼人種、長耳人種、半魚人種……皆差別を受けて激減した。長耳人種がエルフの始祖です。断じてアヤカシなどではありません」

 ぽつぽつとミストは語った。

「長年の被差別で、エルフ族は疲弊しきっている。魔王に手を貸そうという動きもある。そんな中──世界を渡り歩くレイジレーニャの欠片に、気に入られた女がいた」

 ぽいぽいと小枝を焚き火の中に放り込みながら、彼女は語った。

「ミーナ……私の母親です。ミーナを気に入ったレイジレーニャは、胎の中にいた私に精霊王の祝福をおくりつけました。そのせいで始祖の百聖人にも匹敵する力を私は持ってしまった」

 ぎゅ、とミストは己が手を握りこむ。

「魔王に手を貸そうという一派に、私は目をつけられました。だから、私は里から逃げてきた。でもその私を待っていたのは、人妖と言う差別の目だった。私は耳を隠し、流れの冒険者としてあちこちで魔族狩りを行ってきました。はっきり言ってただの八つ当たりです。自分は魔族ではないという思いから、魔族を狩りまくっていました。そして──いつか、アロイスと出会った。あいつは──千里眼で私がエルフだということを知っていやがりました。そして家の者にもおおっぴらに私がエルフだということを吹聴していて……でも誰も差別しなかった」

 ジ、と今度はフィレンの方を見て、彼女は問うた。

「フィレン、貴方も差別しないと、本当に信じていいのですか?」

「だから言ってるんじゃん! 人妖とは違うんだろう?」

 ミストは目を伏せた。

「もう少しで人妖と同じ物にされるところではありました。エルフはレイジレーニャの手によるものですが、人妖はヴザヴァラディアの手によって作られるものの事を言います。私はヴザヴァラディアに捧げる供物にされるところでした。だから里を逃げてきた──外の世界は怖い所だと知ってはいたのに」

「どれだけ差別が酷かったのか想像できねえけどさ、そんなに──」

「私の母は人妖だと言って人に殺されました」

「……」

 フィレンはもう絶句するしかなかった。

「だから人は怖いと知っていた。それでも魔族にだけはなりたくなかった。その思いだけで里を出てきて、人を信用していなかったのに、フィヒターの家に出会ったんです。……私は魔族にならなくてよかったと思った。けれど、フィレン、貴方に対してどう接したらいいのか私にはまだ分かりません」

「人妖じゃないんだからさ、俺はアンタを差別したりしないよ! 他の人はどうだか知らないけど、ミストさん俺の命の恩人だし! ていうかこの四年を見てよね、俺アンタをいじめられるようなタマだと思う?」

 それを聞いてミストは吹き出した。

「ふ……それもそうだ。貴方にそんなことができるわけがない」

「あはは、ちょっとバカにされてるような気もするけど、そうだろう、そうだろう」

 それから──ミストはフィレンに対して敬語を使うことはなくなったのだった。

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