第十四話 呪いの成就

 それは唐突に訪れた。

「ミスト……まだ生きていたのか」

「レイン!!」

「何……こいつ誰?」

 ザァァアアアと、森の木の葉が雨に打たれて音をたてる。

 木の葉が傘になり雨に打たれることはないが、あたりの湿度は不快なほどに高かった。

 ミストがレインと呼んだその男は、ねっとりとまとわり付く湿気に負けず劣らず粘着質なセリフを吐いてくる。

「ここで会ったが百年目だ。大人しく死ね」

「何で貴方が『外』を出歩いてるの!?」

「話す必要はない」

 言って男は片手を揚げる。

「その顔の模様──まだ呪いは利いているようだな! 今ここで爆ぜろ!」

「なっ……!」

 フィレンが動くより速かった。

 男が腕を振り下ろしたその時──

「うぁぁああぁあああああああああ!」

 ミストが左胸を抑えてうずくまる。

「ミストさん!? ミストさん!!」

 あわててかけよるフィレン。

 だが……。

 ブワァ!

 突如ミストの体から植物があふれ出してきた。

「うぁぁああぁああああ!」

 止まらぬ絶叫。

 あわてて植物を掻き分けながらフィレンはミストの名を叫ぶ。

「ミストさん!! ミストさん!! ……なんだよこれ……っ! 呪いって何だよ……!」

 それは魔力を食い物に成長する植物だった。ミストのように強い魔力を持つものは格好のエサとなる。

「ミストさん……! ミストさん!!」

 やっとの思いで植物をかきわけ、ミストの首を捕まえた。

「……フィ……レ」

 喋ることすらつらそうな声。フィレンは焦りながら叫ぶ。

「どうしよう……どうしたら……!」

「どう……にも、できない……」

 大魔法師アロイスでさえ、植物の侵攻を遅らせることしかできなかった呪い。

「フィレン……ごめん、け……きょく、こうなって、しまった」

「何! 何言ってんだ!」

「貴方に、頼み、ごと、が……」

 ざわざわと植物があふれ続ける。

 呪いの宿主の魔力を食いつぶすまで消えはしない。

「何さ! 言えよ!」

「ごめん、ね……」

 ミストは最後の力をふりしぼるようにして……フィレンの額にキスをした。

「!?」

 そこから柔らかな緑の光が溢れ出る。

「ミストさん!? 一体何を!」

 ふわぁ……

 辺りを優しく緑の風がかけぬけた。

 ミストは、最後の最後で、精霊王の祝福をフィレンに移したのだった。

 この時から、フィレンの目と体毛と爪は緑色になった。

『エルフの──魔王に手を貸す一派の手に渡らないように』

 頭の中でミストの声がした気がした。

『貴方を利用してしまう──ごめんね』

 そんなことはいいんだ、貴方を助けるにはどうすればいいんだ。

 ミストさん──。

 見上げたそこには、首から上だけが植物の生い茂った壁から生えていた。

 緑色に硬質化してしまったその頬に触れる。

「うそ……だろ……」

 おい、起きろよ、とぺちぺちと叩いてみるが、ただ硬い。

「クソ……いつか絶対起こすから……方法探してくるからさ……」

 レインという男はいつの間にか消えていた。まずはあいつを探すことからだろう。

 ぐ、と拳を握り、フィレンは心に誓った。必ず見つけ出すと。

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