第九話 狂気の集団

「やっぱり一緒に連れてってよ!」

 フィレンはミストの顔を見るなりそうすがりついてきた。

「一体何があったというんです?」

 事態を把握しかねてミストは眉間に皺を刻む。

 アロイスの元で数日を休暇のつもりでのんびりとすごしていると、協会からフィレンが養成所で暴れているという連絡が入ってきた。

 後見人をやる気はなかったので完璧にただ押し付けてきたのに、連絡先が割れているというのは面倒な物である。

「だって……皆おれのこと人狼人狼ってからかうんだ……」

 顔を真っ赤にしてフィレンはやっとそれだけ言った。

 養成所の子供たちはこの子供が一体どんな目にあったと思っているのだろう。

 養成所の教育はどうなっているのかと内心驚き憤った。

 思わずフィレンに付き添っている教官を睨み付けてしまう。その鋭さに教官は身をすくませた。

「こんな大きな街の養成所がそんな程度のものとは思っていませんでした。この子はフィヒターの家に引き取らせます」

 教官はおろおろしていたが、ミストは構わずフィレンの手を引きその場を後にした。

「フィヒターの家って何?」

 歩きながら、フィレンが不安そうに聞いてくる。

「ギルドの養成所に引けを取らないアホの集団です。前に言いませんでしたっけ、この市にも魔物が押し寄せたのですが、連中で追い返したと」

「そんなところにおれが……?」

 まだ少年は不安そうにしている。

「今更何を言っているのですか。私に連れて行けと言ったことの方が厳しいですよ。死んでも責任取れませんからね」

 死……とフィレンは飲み込むように呟く。

「フィヒターの家では家主の研究のための助手や警備兵がたくさんいます。事情を話せばあなたを鍛えてくれるでしょう」

「ほんとに?」

 少年の目が輝く。

「ええ。まぁひとり立ちしたくなったら協会の試験をうけてギルド登録しておいた方がいいと思いますけどね。いろいろ支援を受けられますし」

「へえー……?」

 ミストの不親切な説明では詳しくは分からないので曖昧に頷いておく。

 そして来た時も通ったあの不思議な建物の前を通った。

「これも、フィヒターの家主が発明した物ですよ」

「へー!」

 人間を飛ばす装置を作った人間。やはりすごい人なのだろうか。

「色々と発明しては周りを騒がす人ですがね。たまにはこういう役に立つ物を作るんです」

「へ、へー……?」

 少し不安になるフィレンだった。

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