第七話 未知の既知
ヨルムシティは市とついているだけあってエルムタウンよりかなり大きい。
市の中に町と名の付く区画があるくらいだ。
広さにして5~6倍、人口に関しては10倍になる。
蒼魔術による灰色の石造建築が整然と並び、美しい紋様と光が溢れていた。
それは防衛魔術も兼ねている。
ギルドの養成所は比較的街の中心に近い位置にあり、そこにたどり着くまでに、フィレンは初めて訪れた街をキョロキョロと興味津々に眺めていた。
「あれ何?」
中でも光の塊のような巨大な建築物に目を奪われ、ミストに尋ねる。
反りのある円筒のような黒い建物が天に向かって伸び上がっていて、明らかに周囲の魔術建築とは異なった気配を放っていた。
それには直線曲線点などのさまざまな形状をした薄水色の光の溝がびっしりとまとわりついている。
「あれは転送装置です。まだまだこの街にしかありませんから、ここからどこかへ飛ぶことしかできませんがね。将来的には世界中にあれを設置して、移動を便利にしたいらしいですよ」
そうなれば到着点も安全な場所に確定されるからさっさと作ればいいのですがね、とミストは言う。
跳ぶっていうとあれの天辺から人間がピョーンと出てくるのだろうか。
よく分からないが便利なんだな、とフィレンは思い、へぇーと言う。
だがフィレンの想像とは違い、一瞬で空間転移する魔術装置であった。魔法的な互換移動なので対消滅などは起こらない。
現在はまだ転送先座標の指定のしかたが曖昧にしか分かっておらず、例えば行き先をエルムタウンにすると、町の北はずれか南はずれかはたまた入り口か中心か、ちょっと町から離れたところかにしか飛ばない。
運が悪ければ町の上空に出ることすらある。なので現在はまだ、この装置で行われているのは『実験』段階だった。上空や地中への到着でも自身の身を守ることができる者──要するに魔法等の心得のある者──のみで行われている。
この転送装置を各地に設置することができたら、座標云々ではなく『同質』である建物を指定して飛べば良いので安全になるらしい。灯台のような機能を合わせて持っているということだろう。
フィレンの勘違いにミストは気づいていないので、そんな小難しい説明もここでなされることはなかった。
「養成所はあれです」
周囲の家々に比べて明らかに巨大な建物群を指してミストが言う。
それは横にも縦にも莫大な広さを持っていた。
「わー……」
様々な職種に関する養成所が全部集まっているのだ。巨大にもなろうというものである。フィレンはただ感嘆するしかない。
「大きいでしょう。このあたり一帯の地域から人が集まる場所ですから。……本当は、小さな単位で設置できればいいのですけれどね。どうしても、集めた方が便利になりますから」
なんだかミストがぶつぶつと独り言のように言葉を発していたが、フィレンはギルドや地域の事情や仕組みなどを知らないし、特に知る必要もないことでもあるのでよく分からない内容である、話半分に聞き流す。
「管理棟はあちらです。もう少し歩きますよ」
ミストが行く先を指差しながらそう言うと、フィレンは素直に頷いた。
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