第六話 虚ろの真実
「……本当、なの?」
何を、想っているのだろうか。
とても、直視することができない。
自分が何かを負う義務はない。
けれど、放置することもできなかった。
半端な同情でしかないのは分かっている。
それでもダラダラとこの町に居続けるのは一体何なのか自分でもよく分からない。
今回の件では似たような目に合った人間などそれこそ山のように居るだろう。
「妹さんがいたと聞いていますがそちらに関しては何も見つかっていません」
「……」
嘘を伝えてかりそめの安心を与えることはない。
ただ真実を伝える。
少年はただ黙ってそのただの石造物──墓石──を見つめている。
町の『片付け』は順調に進み、犠牲者の回収と埋葬は既にあらかた済んでいた。
少年の両親の最後については伝えていない。
そこまでする気にはなれなかった。
ただ遺体が見つかったということを伝え、墓の場所に連れてきただけだった。
「お兄さん旅の人なんでしょう? おれも一緒に連れて行ってくれない?」
「……はい?」
悲しんででもいるのかと思っていただけに、その言葉は突飛すぎて一瞬頭に入ってこなかった。
「町の皆はもうあきらめろって言った。でも、ひとりだけどこかに連れて行かれてミルアは泣いてるかもしれない。おれが、探してやらないと」
「……あなたはまだ幼すぎます」
こんな子供を連れていたら足手まといであるし、勝手に連れ出して死なせでもしたら自分に保護責任者云々とかいう罪が着せられてしまいそうだ。
「邪魔にならないようにするから!」
「そういう問題ではありません」
どう邪魔にならないようにするというのか。
ハンターの仕事という物は常に危険でしかない。
そして、小さな子が多少気をつけたような程度で回避できる危険ばかりではない。
「ちゃんと養成所に通いなさい。そうすればいつか……」
「いつかじゃ遅いかもしれないじゃないか!!」
「その間は私が人狼の情報を集めたりして捜しておいてあげますよ」
それくらいなら仕事のついででもある。
「でも! ……とうさんも、かあさんもいなくなったから……もう学校なんて通えないよ」
少年は拳を握り締めて下を向いている。
「ギルドの養成所に通うのに必要な物は何もありません。寄付で成り立っていますからね」
それを聞いて少年はきょとんとして顔を上げ、ミストを見つめた。
「でもとうさんは学費を払いに行ってたよ?」
「それが『寄付』ってやつです。本来いらないのに
ぜんしゃ? と少年は首をかしげているがその程度の説明すら面倒くさかった。
技術者やハンター等の才能獲得は世界にとって有用なことである。
だから上流階級などではギルドの養成所にどれだけ寄付できるかが一種のステータスにもなっていた。
一流ハンターたちの間では影でどれだけ戦利品を養成所に寄付できるかが競われていたりするらしい。
なのでギルド養成所では何の差別も区別もなく誰もが学ぶことができる。
代わりにギルド側は優秀な衛兵の獲得権、上質な生産品を優先的に購入できる権利などを、寄付者側に提供している。
「ヨルム市の養成所になら寮もあります。そこまでなら、連れて行ってあげましょう」
「ほんと!」
少年は必死な瞳でミストを見つめる。
「ありがとう、ミストさん!」
ミストは特に礼を言われるような気分ではなかったので淡々と、いいえ、とだけ答えた。
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