第四話 正論でもなんでもない心配
あばら家に子供の他にも怪我人を数人運び入れ、できるだけの治療を施す。
ただ怪我人たちの中で意識のない者はあの子供くらいで、話を聞いていると、ここにいる彼らは皆この町の自警団員のようだった。
一度は見かけた住民たちを誘導しながら町の避難所に退避したものの、一部がいてもたってもいられず飛び出してきてしまったらしい。
「無謀です、ヒトガタの魔物に立ち向かうのはかなり危険とされてるじゃないですか」
心配すぎてそう訴える。
「あんたにも故郷くらいあるだろう。それがぶっ壊されていくのに耐えられるか?」
少しムッとしたように反論する自警団員。
(故郷……)
一瞬虚ろな目をしてしまう。だが誰にも悟られぬうちにその陰りは消えた。
「町はいくらでも再建できます。けれど人は死んだらもう、戻ってこないじゃないですか……」
「逃げ遅れてる人がまだたくさんいるんだ……!」
そう言って苦渋の表情を浮かべる男の気持ちが分からないわけではない。
だがもっと冷静にならなければ、二次被害までもが拡大していくだけ、という冷たい正論が口をつく。
「人が人狼に噛み殺されると人狼になって甦るそうですよ。ミイラ取りがミイラになってしまったら、いたずらに敵を増やしてしまうだけです。我々ギルドに任せるか、軍……」
「魔物から町を守るために作られたのが自警団だ。……正直ここまでやられるとは思っていなかった」
別の一人がそう落胆の言葉を吐くと、皆一様に口をつぐんだ。
自負を砕かれた無念が漂う。
「それにギルドも軍も、ここいらには駐屯地もギルド支部もない。のんびり待ってはいられなかったよ……」
一瞬手当ての手が止まる。それはそうだ。
何故責めるようなことを言ってしまったんだろう。
「もっと早く来られなくて、ごめんなさい……」
自分以外にも少しずつこの町にかけつけてくれた者たちが増えてきているようだったが(だから今は怪我人の手当てに回ることができている)、他にも世界各地で同様の被害が多発しているため、どうしても対応は遅れがちになっているのだろう。
ちらりと情報を覗くと、今や被害地域は四百を軽く超えていて、目を見開いた。
(一体何が起こってる……!?)
ここが落ち着いたら、もしかしたら他の地域にも向かった方がいいのかもしれない。
しかし≪ネットワーク≫がなかったらと思うと背筋が寒くなる。
つい数ヶ月前に稼動したこのシステムは、まだ利用者や管理者も少なく、完成されたものとは言いがたいが、一応の成果は認められるのではないだろうか。
(もっと強めに普及を主張しても良かったと思うぞ、じじい……!)
「情報によれば、この国の軍やギルド関係者もかなり動いてはいるようです。ただ、現在世界各地で同様の被害が数百件起きているようです」
「なんだって!?」
「なに?!」
その数を聞いて皆目を見開く。
考えてみれば彼らにはこの情報は届いていないのだ。
安否不明地域だったということは、つまり≪ネットワーク≫の整備が追い付いていない町ということなのだから。
「付近の……ウェルド市も壊滅のようです。ヨルム市は……アホの集団がいるので撃退して他地域の救援に向かっているとか。トリムタウンとミュフェ村は今のところ襲撃はないようですね」
後半二箇所については自分の提供した情報に、ギルドから見張りのための人員が向かったというレスポンスがついていた。簡潔に感謝を返しておく。向かった彼らに戦闘力はなさそうなので少し心配ではあるので、余裕ができたら少し寄ってみた方がいいのかもしれない。
「一体、何が……」
皆、頭を抱えていた。
世界で一体、何が起こっているというのか。
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