何かの導き
第三話 夢オチでもなんでもない悪夢
何だこれ、何だこれ、何なんだよ、これ!!!
フィレンは焼け落ちる町の中を走り続けた。
『お前はミルアを連れて森の避難所まで逃げろ。父さんたちは自警の仕事をやってくる』
夜中にたたき起こされたと思ったら家はすでに燃え始めていた。
何もかも真っ赤だった。
背負った妹は泣き続けている。
とうさんなら、強いから大丈夫だ。かあさんは、とうさんについて行ったのかな……。
何が起きたのか、まったく分からない。
何かの災害で大火事になってしまったのだろうか。
小さな田舎町なのに、どこか外国の軍でも攻めてきたのだろうか。
このまま町にいては危険なことだけは分かる。
災害や戦争に備えて造られた避難所の場所は、町民全員覚えさせられているはずだったが、町が燃え上がっているせいで方向すらわからなくなりかけている。
それでも無残な残骸からなんとか面影を見出して、フィレンは避難所へと急いだ。
赤い。熱い。赤い。熱い……。
これからこの町はどうなってしまうのだろう。
ちゃんと元に戻るのだろうか。
いやそんなことより、今は、逃げることだけ考え……。
ボウッ
突然横手の炎が大きく膨らんだかと思うと、瓦礫と炎を蹴散らしながら人影がいくつも飛び出してきた。
同じく避難所へ向かっている途中の町の人だろうか。
こんなわけのわからない状況だ。一緒に避難所まで行ってくれる人たちが現れたのは安心だ。
「あの! おれたちも一緒に……」
とうさんはなぜ一緒に来てくれなかったんだろう。家族よりも仕事が大事なのだろうか。
恐怖と不安が軽減された代わりに、どうしてはじめから安心させてくれなかったのかと恨み言が芽生えかける。
けれどそんな恨み言は一瞬で消し飛んだ。
炎を振り払って現れたその人たちには、とがった耳と大きな口ととがった牙ととがった目ととがった爪がついていた。
(え……)
こいつらは……人狼……?
「わあああああああああ!」
そうと分かった瞬間叫びながら逆方向に走り出す。
妹の泣き声もさらに激しくなった。
町が燃えているのはこいつらのせいなんだ。
何でこの町があんなのに襲われなきゃいけないんだ。
……なんでだよ!!!!
「う……!」
子供の足が化け物の足に敵うわけがなかった。
すぐに回り込まれ、囲まれる。
狼の顔なのに、ニヤニヤと笑っているのが分かった。
片手で軽々と持ち上げられ、妹と引き離される。
「は、放せ! 放せぇええ! 返せええええ!」
無我夢中で叫んで暴れたが、人狼は痛くも痒くもなさそうだった。
ニヤニヤと笑いながら、軽い感じでフィレンを地面に投げつける。
「うッ……」
息が詰まる。痛い。
軽くつま先でつつかれる。それだけで体が跳ね飛ぶ。
息が詰まるどころではない。痛いどころではない。
人型の化け物──人妖は、人の恐怖も食料のうちだと言う。
きっとこいつらは、これでもかというくらい怖がらせてから、おとぎ話にあるように頭からバリバリと食べるつもりなのだろう。
ミルアは、ミルアは何もされていないだろうか、今は泣き声が聞こえない。
嫌だ、嫌だ、だれか助けて、とうさん、かあさん、だれか……!!!
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