小さな瞳

第一話 特別でもなんでもない日常

『とんがりお耳に、裂けた口、寝ない子誰だ、食べちゃうぞー』

 妹のミルアはいつものように人妖の歌を歌う。

『がおー!』

 兄のフィレンはそれに合わせていつものように妹をくすぐった。

「きゃははははははは!」

 大げさに笑い、布団の上を転げまわる妹。

 まだ5歳の妹はおとぎ話の人妖を信じているのだろうか。

「早く寝なさい。人妖が食べに来るわよ」

 騒ぎ声を聞きつけた母が、しょうがないわねぇと笑いながら兄妹を布団の中に押し込みにきた。

 人妖というのは人の形をした魔物の総称である。

「はぁーい」

「脅されなくってもとうさんのせいでヘトヘトだ、すぐ寝るって……ふあぁ……」

 それにそんな実際にいるわけじゃないもの脅しにもならねえよ、と呆れてみせる。

「はっはっは、あれくらいでヘトヘトになってちゃ最強の自警団長にはなれんぞー」

 いつの間にか居た父が部屋の戸から顔を覗かせ茶々を入れてくる。

「うるせえなめんじゃねえぞ! すぐとうさんの上司になってやるんだからな!」

「あはは、お兄ちゃんおとうさんに転がされてばっかりじゃんー」

「お前もうるせえ人妖に食われるぞ、寝ろ、おやすみ!」

 転がされるのは8歳だからだ。大人になったら、絶対とうさんなんて超えてやる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る