マジックセイバーオラトリオ 緑叢に落ちる明

千里亭希遊

序章 始まりでもなんでもない始まり

 木漏れ日が熱を持って肌に落ちるような真昼、幼い男女が小道を走っている。

 先導するのは少女、後を追うのは少年。

 二人は無言で走り続けていたが、緩やかに速度を落とした少女は、合わせて足を止めた少年を振り向いた。


 少しの間をおいて少女が少年に向けてことばを口にする。

 しかし少年はすぐには反応しなかった。

 焦れた表情の少女に対して、少年の表情はひどく冷たい。


 そして少年が小さく口を開くと少女は目を見開いて、反論したようだった。

 その反応に少年はまた小さく口を開きながら、重心を低くする。

 その様子に少女はつらそうな表情で何事か叫ぶ。

 もはや少年がそれに言葉を返すことは無かった。


 少女はほんの少し踏ん切りをつけるのが遅れたものの、つらそうな表情のまま彼に背を向け己のすべてを尽くして逃げ始める。




 しかしその微々たる遅れは、最悪の致命打となった。

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